ファンタスティックウエポン
友達はパパ活をやっているらしい。昭和では売春。平成では援助交際。令和ではパパ活。言葉は変わるが、女がその価値を売る事は根本的に変わっていないらしい。売春は最古の職業とも言われていた。
「公美、パパ活なんてやめなよ」
私は友達が入院している病室に出向き、ついつい言ってしまった。友達はパパ活相手のおじさんに逆恨みされ、腹を刺されて入院中。実に痛々しい。春を売る事へのリスクを感じ取ってしまうのだが。金は儲かるが、客層はあまりにもアレだろう。
「は? 何? そんな事言って私のことバカにしてるんだろ?」
「してないよ」
「文子だってキモヲタ相手に商売してるじゃん。バカにして、見下して……。酷い……。私と同じじゃない。春を売るか夢を売るかが違うだけじゃん。あんたも私もこの世に存在しないものを売ってるじゃない。文子は偽善者だ」
友達は精神が不安定らしい。大きな目からは、噴水のように涙が溢れる。
「帰って」
不安定な彼女の相手は難しい。私は家に帰り、仕事をはじめた。
私の仕事はライトノベルの作家だった。主に女子高生がキャピキャピしているライトノベルを書いている。完全にキモヲタ向けのファンタスティックな世界を書いていた。とて優しい世界。この本の中には、いじめや格差もない。女子高生がキャッキャと部活を楽しんでいるだけの話。そんな偶像を売っていた。
それでも売れないので、事務職もしながら生活していたが、運というものはよく分からない。新作がなぜか人気が出てしまい、アニメ化され、さらに売れてしまった。顔出しインタビューやライトノベルの新人賞の審査員など、細かな仕事も増えていく。年収も同年代の女の何倍も稼いでしまった。
あの友達も何も言わなくなった。家族も友達も「すごいね」と言う。優しい夢を売りながら。自作を見返すたびに思う。確かに読者の需要は満たしているが、必要は満たしていない。アルコール中毒者に酒を売っているような感じ。妙な罪悪感に心が支配されていた時だった。
アニメーションスタジオが放火された。犯人は私の熱狂的なファンだった。ライトノベルの新人賞に落選し逆恨みしたと供述している。自宅からは私のインタビュー記事も大量に見つかり、妄想じみた手紙も見つかる。犯人の妄想の中では、私は恋人という設定らしく、なぜか突然裏切ったような展開になっているらしい。気持ち悪い……。
もちろん事実無根だ。警察にも話したが、犯人とのリアルな接触は一回もない。勝手に想われ、勝手に被害妄想をされた。全部リアルじゃない。
それでも妙な罪悪感が再び現れる。あの友達の顔が頭の中でぐるぐる。私がやっていた事は、あの子と同じだったのだろうか。あの子の事はさりげなく見下していたが、売っているものは同じだったのだろうか。それでもあの子を見下す気持ちは消えない。
「あの作家さんは美人だったな」
「黒髪清楚美女って感じ」
「でもああいうのに限ってビッチだよ。普通の人と違ってキモヲタにしてみたら毒かもしれんな。いや、武器か? 悩殺の武器か? ははっ」
近所の連中は、私がいない所でそんな噂話に花を咲かせていた。




