Selling your soul to the devil
「ああ、神様。私は作家になりたいんです。そのためだったら、一生独身でいいんです」
ある雪の日。初詣から一カ月たったある日の事。ある作家志望の女は、神社にいた。高齢化しつつある地域にある朽ちかけたような神社だったが、熱心に熱心に祈っていた。
女はコミュニケーション力もなく、派遣の仕事も続かない。底辺職を転々としつつ追い込まれていた。奨学金や保険料の滞納もある。そのためには一発逆転しなければ。思いつくのは、作家のようなエンタメ職。幸か不幸か女は文才もあり、ライトノベルの新人賞では入賞する事もあった。だからこれに賭けた。一発逆転。今は某アニメ会社が主催するライトノベルの新人賞に出している。これで大賞がとれれば、全てを逆転できる。大賞はアニメ化決定され、光の道が保証されていた。
どうか、どうか。
実力でできる事は全部やった。最後は神頼みしかない。
どうか、どうか……。
女は神社で土下座し、最後の願いをしていた。この後に引いたらおみくじは、大吉。一生独身の等価交換として神が願いを聞いてくれたのだろうか?
その後、アニメーション会社に応募している小説が一次、二次と通過し、最高選考にも残ってしまった。
等価交換? 本当に願いを聞いてくれた?
送った作品は不倫されている主婦が愛人を調査しているうちに探偵になってしまうという物語だった。ミステリ要素は穴だらけでツッコミどころも多いが、大賞受賞の連絡が届いた。
本当に等価交換? 願いを聞いてくれた?
実際、この頃から全くモテなくなっていたが、作家になれたら何でもいい。魂なんていくらでも売ってやる。
こうして女の作品はアニメ化も決定され、一流のスタッフの絵コンテやシナリオをもらう。キャラクターデザインや原画も惚れ惚れするほど美しい。順調に光の道を歩んでいた女だったが、ある夏の日。
アニメスタジオが放火された。あの素晴らしい絵コンテやシナリオ、キャラクターデザインや原画を担当したスタッフが被害に遭ったと聞く。
当然のように女の作品のアニメも延期になった。こればっかりは仕方ないが。
ただ。
放火犯も小説家志望のワナビだった。「大賞作家の女は神社に願掛けし、魂を売ったから受賞できた」と意味不明な陰謀論風の供述をしているらしい。スタジオを放火した後は、女の命も狙うつもりだったという。
女の元にも警察が来たが、神社に願掛けしに行った事実など言わない。言えるわけもない。犯人の妄言が事実だったなんて。
その後、原因不明の体調不良も続き、新作も作れず、再び神社へ足を運んだ。
「ああ、神様。どうか、新作のアイデアをください……」
女は土下座し、熱心に熱心に願掛けを続けた。願わくば犯人の妄言が事実だとも思われませんように。
「神社なんかに願掛けしたら、悪霊と契約成立ですね。これが偶像崇拝。おそろしいもんです。悪魔に魂を売った代償はありますよ。等価交換というより全部人生が悪霊にコントロールされます。自分だけでなく、家族や友達、恋人など周りの人達にも害が出る事もあります。くれぐれも偶像崇拝には気をつけて」
とある牧師が教壇で語っていた言葉だが、女の耳には届かないだろう。
「神でも悪魔でも何でも良いので願いを叶えてください。その為だったら、魂でも何でも売ります」
今日も神社に女の声が響いていた。




