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そんな学園の日常  作者: 檜 楓呂
五月二十二日水曜日の出来事
24/31

第三章:11 裏切り予告

「さて、これからの事だが……」先ほどの教室を出た俺たちは、まだ煙が薄く立ち込める廊下を歩いていた。「とりあえず私がトランシーバーであいつらに連絡を――」

「あー、ちょっと待った」

「うん? どうした?」

「あーいや、なんというか、だな」

「なんだ? トイレか?」

「違う違う。えーっと、上手い言葉が見当たらないんだが……端的に言おうか」

 俺は一つ咳払いをする。

「口調、乱暴になっても構わないか?」

「……はぁ?」

「ああいやそんな怪訝そうな顔をしないでくれ。だから言っただろう? 力を使ってる時は性格変わるって」

「確かに言っていたが……」

「だからな、急に言葉遣い変わったり、変な事を質問してびっくりさせるのもアレだと思ってなぁ」

「はぁ……」

 と、急に坂上が呆れ顔になる。

「別にそんな事程度じゃ驚かないさ。自由に喋るといい」

「……そうか、なら……」まず先ほどから気になっていた事を尋ねる。「俺の正体っつーか秘密はバラしたけど、お前の秘密はみんな知ってるのか?」

「…………」

 無言になる坂上。

「……坂上?」

「……言ってない」

 名前を呼び掛けると、ものすごく小さな声で返される。

「言ってないって……」

「いやほら……恥ずかしいじゃないか。一人だけ年上だとか、実は『何でも屋』なんて得体のしれないものの一員だったりとか言うのはさぁ……」

 …………。

「俺には強要したくせに?」

「うるさい。男と女の秘密は重みが違うんだ」

 そっぽを向いて、そう吐き捨てるように言う。

「バラしていい?」

「断固拒否する」

「どうしても駄目?」

「……矢城君は……女の子の秘密を勝手にバラしちゃうの……?」

 いきなりすごい女の子声でしおらしく言われてしまった。そんな風に言われたらバラせないじゃないか……。

「女ってズルいな……」

「男の自分を恨め」

 俺がバラせなくなったと思うと、すぐにいつもの声で喋り始める坂上。少し悔しいのでもう少しからかってみようかな。

「坂上って、ああいう可愛い声も出せるんだな」

「……か、可愛い……」

 お、意外に効果ありか?

「ああ、お前のさっきの声、めちゃくちゃ可愛かったなぁ。いつもの凛とした声とのギャップで、一際可愛く聞こえた」

「ぅ……」

 おお、坂上がめっちゃ照れてる。すごい光景だ。

「ああ、もう一回聞いてみたいなぁ……」

「ぅぅ……君は、本当に性格変わるんだな……」

 頬を赤く染めた坂上が恨めしそうに言ってくる。

「そう? 変わってる?」

「ああ、すごい変ってるぞ……。普段の君ならば、こんな風に女子をからかって遊んだりなんか――」

「からかってないぞ。俺は本当に坂上の事が可愛いと思ってる」

「ぁぅ……」

 ヤバい、坂上をからかうの癖になりそう。普段は飄々としてるのに、褒められるのに慣れてなくて照れるなんて。

「そ、そんな冗談はいいから、さっさと先へ行くぞっ」

 そう言ってスタスタと先へ行ってしまう坂上。逃げられたか。でも十分に楽しんだし別にいいか。

「はいはい。それじゃあまずどこへ向かうんだ?」

「えっと、まずはリーダーに居場所を聞く」

 まだ少しぎこちなく喋る坂上は、ブレザーの内ポケットから小型のトランシーバーを取り出すと、何かボタンを押して操作しだした。

「リーダー、聞こえるか?」

 一通りその操作を終えると、トランシーバーに向かって喋り出す。

『なんだ、薫?』

 すると、トランシーバーからノイズ混じりの声が流れる。なかなか渋い声だ。

「そちらに合流したい。居場所を教えてくれ」

『俺は理事長室のある棟の一階にいる』

「? 何故そんなところにいる?」

『ああ、言ってなかったな。誘拐対象には、来宮梢の他に来宮桜も含まれているんだ』

「……初耳だぞ」

『だから言ってなかったと言っただろうが』

「まぁいい。それで、来宮梢はどこにいるんだ?」

『そいつは確か、お前の教室がある棟の一階の倉庫らしい』

「ふむ、了解した」

『ならいいな。もう切るぞ』

「ああ待ってくれ、最後に一つ」

 坂上はそこで一拍、息を吸い込む。

「今から私、この計画を失敗させる為に動くから」

「は……?」

『は……?』

 ……奇しくも、トランシーバーの向こうのリーダーさんと声がハモった。

「じゃあそういう訳で」

『お、おい待てかお――』

 ――ブツ。

 通信を切る音。そして坂上は、無言で手近にあった窓を静かに開けると、そこからそのトランシーバーを大遠投。トランシーバーは箱庭の中に消えていった。――そのトランシーバーが箱庭でプチ遭難していた男子生徒を救った、という話を後日聞いたが、それはまた別の話だ。

 今はそれより。

「なぁ、坂上」

「ん? なんだ」

 トランシーバーを投げ、清々した、という顔をしている坂上に尋ねる。

「なんでわざわざ裏切るって宣言したんだ……?」

「決まってるだろう。反抗期だからだ」

「…………」

 恐るべし、反抗期……。

「ロリコンかと思いきや熟女もいけるとは……心底見損なった」

「…………」

 ……なんか、リーダーさんに同情したい気持ちになった。というかマジでロリコンだと思ってたのか……。

「さて、まず来宮梢を救出しに行くか」

「あ、ああ……」

 何事もなく話を進める坂上に、俺はただ頷く事しかできなかった。

 


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