第三章:10 話してみればそんなもの
「そうして、俺は引っ越した先でもある事件を起こした。それが半年前の事だ。それでこの学園に転校してきたんだ」
大体の過去を語り終えた俺は、一つ溜息を吐く。なんだ、話してしまえばけっこう楽じゃないか。
「そして、俺が今、東を助けるために使った力がその力だ」
「ほう……具体的にはどんな事ができるんだ?」
黙って俺の話を聞いていた坂上は、初めて合いの手を入れる。
「そうだな……俺ができるのは、世間一般に言われる超能力全般と、単純に『自分の能力を強化する』ことだな。超能力全般の説明はいらないだろう。後者の方は……そうだな、腕力を強くしようと思えば、そこらの壁を殴って穴を開けられるし、脚力を強化しようとすれば反復横とびで分身作れたりするな。神経系統は、五感はもとより、反射神経とかも強化できる。あとは……父さんが『どんなに酒飲んでも、肝臓を強化すれば絶対二日酔いにならないよなぁ』とかボヤいてたぐらい、かな」
「へぇ、けっこう便利なんだな」
「いや、そうでもないさ。さっきの話の通り、この能力を全開近くで使うと、俺の性格変わるし。力を使い終わった後、めちゃくちゃ頭痛くなるし……。だから普段はプロミスリングで力を抑えてる。プロミスリングを付けてる時は、一定以上出力を出そうとすると俺の体に電流が流れるみたいだし」
「どんな原理なんだ、それは?」
「さぁ? あと、プロミスリングを外すとものすごく不快な感じが体を駆け抜けるね」
「で、それが癖になりそうなのね?」
「いやならないから。なったら俺、ただの変態じゃん」
「ハハハ、嘘をつくな矢城よ。気持ちいいものは素直に気持ちいいと言ってしまえ」
「だから気持ち良くないって言ってんだろうが」
「えぇ〜、嘘をつくなよ功司〜。一緒に二次元の女の子に罵られて感じようぜ〜?」
「うっさい。お前と一緒にすんな龍……鵺?」
ってあれ? さっきからなんか俺の発言に対する返答者が増えてない……?
教室を見回してみる。右から見ていって、桐垣と天笠、正面に坂上、左に龍鵺がいた。
「…………」
呆然とする俺。
「……いつの間に?」
「どこまでも鈍いのね、あなたは。話の中盤、『俺は……東の事を愛している……!!』の辺りからよ」
「そんなセリフを吐いた憶えはない!」
「えぇ〜、でも『好きだ』とは言ってましたわよねぇ、桐垣さん」
「ええ言ってましたことですわよ、氷室さん」
「ち、違う、あれは異性としての好きじゃなくて、幼馴染としての、友達としての好きなんだ!!」
「おお、真っ赤になって否定してる」
「ツンデレね」
「ツンデレだな」
「ぬぅ〜……」
怒ったふりをして、俯く。みんな、俺の過去の話を聞いていたみたいで、それでもいつもと変わらない態度でいてくれた。だから、本当は嬉しくて泣きそうだったとか、絶対に悟られたくなかったから。
「だから言ったろう? そんな事を知られたところで、君の考えるような事態にはならないって」
多分それは、蚊の鳴くような大きさの声だった。だけど、俺の強化されている耳には届いた。
(ああ、確かに……)
少し顔を上げて、バカにはしゃいでいる友達を見る。
(こいつたちにシリアスになるのも……馬鹿げてるよな……)
やっぱり俺はバカだ。こんなに楽しい友達に対して、一方的に嫌われると思いこんで……。結局それは、こいつらを信じていなかっただけじゃないか。
本当、俺ってバカだなぁ……。
頭を二、三度振って、重く悩んでた自分を頭から追い払う。またいつものように、ずっと笑っていられるように。
「ところで、浬亜ちゃんは何で眠ってるんだ?」
「ああ、東は――」
「矢城君が眠らしたのね。そしてこの教室に拉致監禁」
な!? ちが――
「そして次の目標は私だったけれど、坂上さんに見つかってしまい計画はご破算。ヤケになった矢城君は自分の持て得る全ての力を使い、坂上さんを手篭めに――」
「いやしないからそしてできないから!」
その言葉に首を傾げる天笠。
「あら、あなたは体の至る所を強化できるのでしょう? ならその――」
「だあぁぁぁ!!! ダメ!! それ以上喋らないで!!」
「――力を持ってして、坂上さんを捕まえて縛って催眠術をかけて――」
「この人止まる気がねぇ!?」
「冗談よ」
「本当の事を言うとだな」そこで事件の当事者とも言える坂上が口を挟む。「実は浬亜は悪の組織に連れ去られるところだったんだ。それを矢城が助けだしてここに運んだんだ」
「悪の組織? なんで東さんはそんなものに攫われそうになったんだ?」
「彼女は組織の重大な秘密を知ってしまったんだ」
「重大な秘密……」
まぁ確かに重大な秘密だが、はたしてそれを言ってしまっていいのだろうか? いくら反抗期だからってこんなにおおっぴらに秘密をバラしてしまってもいいのだろうか。
「その秘密とは……」俺と坂上と東以外のその場にいる全員が固唾を飲む。「組織のリーダーがロリコンだという秘密だ」
…………。
………………。
……………………。
えぇ〜、言うに事欠いてそれはどうよ?
「ああ、それは確かに重大な秘密だな……」
「世間に知れ渡ったらあっという間に社会的な死に追い込まれるわね……」
「ロリコンだからって気にする必要はないさ。自分の好きなものを好きと言って何が悪い?」
ってみんな信じてるし。なんだ、俺がおかしいのか、疑問に思うのは?
「坂上……」
「まぁ気にするな。大体、来宮梢を誘拐するあたり、違うとも言い切れないだろう?」
また、かなり小さな声でそう言ってくる。
「という訳で、これから私と矢城とでその悪のリーダーを打倒してくる」
「ええ? 俺も行くの?」
「さっき了承したじゃないか。『東を傷つけた奴らを……俺は絶対に許さない!!』って」
いや言ってないからねそんな事。
「はぁ……分かった。それじゃあそのロリコン野郎を倒しに行くか」
「そうこなくちゃな。浬亜の事はみんなに任せたぞ。一応授業中だし、自習といえどもそんなに教室を出ていたら色々怪しまれるだろう」
「あ、もう授業始ってたんだ……」
言われて初めて気付いたが、この教室につけられた時計を見ると、確かにもう授業が始まってから五分経っていた。
「確かに、いくら教師が教室にいないといっても、そんなに空ける訳にはいくまい。……ところで、東さんはこのまま放っておいても目を覚ますのか?」
そう言って、桐垣は東に目を向ける。そこには未だにぐったりしている東。
(そう言えば、東はやっぱり、俺の事嫌ってんのかな……)
確認は取れてないけど、俺に対する接し方を思い出すに、多分嫌ってくれてはいないんだろう。……自信ないけど。
「大丈夫だ。あれはただ単に気を失ってるだけだから、その内目を覚ますだろう」
「そっか……良かった……」
思わず安堵の呟きを洩らす俺。
「おやおやぁ、今さらになってようやく好きな人の安否を確認して安堵してるやつがいるぞ〜」
その呟きを聞きつけた龍鵺が、俺に対して冷やかしの言葉をあげる。
「だから、好きは好きでも友達に対する好きだって言ってんだろうが」
「ん〜? 好きな人、としか言ってないのにそこまで否定するって事は、やっぱり〜?」
「うっさい、揚げ足取んじゃねぇ。中学生かお前らは」
「ふっふっふ〜ん。人間はいくつになろうとも人の恋愛沙汰には興味を示すものなのだよ、矢城功司君」
「……だから俺は恋愛としてじゃなくて――」
「矢城君が嫉妬するといけないから、私が東さんをおぶっていくわね。大丈夫、安心して、矢城君。私にはそっちの気はないから」
「それを聞いて何をどう安心しろというんだ……」
「だから、私と東さんが――」
「説明は求めてない」
……これからしばらくはこのネタで弄られそうな気がするのは激しく俺の勘違いであってほしい。
「さて、矢城功司×東浬亜で話もまとまったところで、そろそろ行くか」
「いやその言葉を激しく否定したいんだが」
「なんだ? 東浬亜×矢城功司の方が良かったのか? お前は攻められる方が好きなのか?」
「俺はそういう事を言いたいんじゃなくて――いやもういい。なんかこの話の終りが見えないから」
俺は溜め息を吐いて教室を出て行こうとする。
「矢城」
と、そこで桐垣に呼び止められる。
「なんだよ?」
「これを持っていくといい」
そう言って、何かを投げ渡される。
「なんだこれ? 缶ジュース……っぽいけど……?」
受け取ったそれは細長いジュースの缶に少し加工を加えたようなものだった。
「桐垣製のフラッシュバンだ。さっきお前が取ってきたマグネシウムで作った。本物よりも威力は落ちるが、十分に使える範囲だと思うぞ」
「フラッシュバンって……」
いつの間に作ったんだ?
「まぁ、ありがたく受け取っておく」
こういう桐垣の行動は謎が多いので、深くは気にしない事にする。受け取ったフラッシュバンをブレザーのポケットに突っ込んだ俺は、今度こそ教室を出た。




