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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
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 顔面を何か虫の様なモノが這い回る感触がして、真也は目を覚ました。

 それは分の鼻先に上って、彼の目を覗き込んでいた。

 八本脚を持ったゴルフボール大のブラックメタリックな生き物。カブトムシやカナブンにも見えないこともないが、丸い体とカニの様な脚を見ればそれがマトモな虫では無いとすぐにわかる。

 目だけを動かし左右を見ると、床にはそいつの仲間が数え切れないほど、慌てて身を起こすと自分の体の上にもそいつの群れが集っていた・・・・・・。

 本日、何度あげたかわからない悲鳴をまた派手に上げてその場を飛んで逃げる。当然、体にまとわりつくそいつらを叩き落すことも忘れない。

 愉快げな甲高い笑い声が聞こえその音源を探すと、プレス機の上で慧が虎鉄とアントニオを左右に従え座って、腹を抱えて大笑いしているところだった。


「気ぃ付いて良かったな《屍喰蟲しくいむし》は動かんヤツを襲いよるから」


と真也の背後を指差す。その先を見ると、あの虫の様な生き物が無数に集まり、ちょうど人間の身長程の塊に成っていた。

 あたりを見渡すと、そんな塊が十ヶ所ほど、ほかに、さらに巨大な塊も三ヶ所。

 その内一番近い塊をよく見ると、虫の群れの中から人の腕が突き出している。他の塊では真っ白い骸骨が姿を表し、目の穴には眼球の代わりのあの虫がはまり込みぐるぐると回っている。


「アカンカアン!また気絶したら、今度こそこいつらに骨まで喰われるで!」


 慧にそう言われなければまたぶっ倒れる所だった。


「《屍喰蟲》は元はよその星の生き物や、それを魔術を使うて《常世》経由で《現世》に召喚したったんや。こいつらにかかったら人間の屍体なんてものの十分で跡形も無うなる。なんせ骨や歯まで食うてしまいよるからな、死体の始末にはもってこい、用事が済んだら元の星へ返したっららオシマイや」


 得意げに言う慧をしばらく呆然と眺めて居た真也だったが、今さっき目の前で起きたことを思い返すと、また脚が震えだし胃袋の中身がせり上がってくるのを感じた。

 それをなんとか必死に飲み込むと、今度は怒りが腹から湧いてくる。大量の人間を、ヘラヘラ笑いながらぶち殺し、その死体を平然と虫に食わせ、挙げ句の果てに『死体の始末にはもってこい』


「オマエ、あれだけ人間ぶっ殺しといて、よう平気で居るなぁ?」


 思わずそんな言葉が口をついて出る。


「警察やったら心配あらへん、大半は難民やし鉄球でペチャンコにしたんは極道モンや、そんな奴らこの世から消えたかて誰も困らんし、そもそも死体が無いから捜査のしようもないやろ、お礼参りが怖いんやったら、ウチがちゃんと考えてるから気にしな気にしな」


 しれっと行ってのける慧に、真也はしつこく。


「そんな問題や無いやのうて、お前の神経の問題や、どんな頭の中身しとんねん?」


 彼女は「はぁ?」と返し、プレス機を飛び降り、小指や眼球、舌などの部位を咥えて走る《屍喰蟲》を蹴散らしながら真也に近づき、目の前まで来ると。


「どんな中身って、普通やがな、お腹減ったらメシ食うて、眠たなったらベッドに入って、襲われたら反撃して、殺されそうになったら叩き殺す。水は高いところから低い所へ、お天道様は東から登って西に沈むんと同じ理屈、それになぁ、こいつ等ヒットマンやら極道モンや、端からマトモな死に方がでけへん人種や、それを判ってて成ったんやろ?万が一、解ってのうて成ったんやったら、マジで万死に値するドあほや、違うか?」


 一気に目の前でまくし立てられ、あのガーネット色の瞳で睨まれるともう何も言えない。

 呆然と立ち尽くす真也に、慧は言った「さぁ、こいつらの始末が終わったら白浜行こう、細かい事情は道中で説明したるわ」




 慧が自分でカーナビに目的地を入力したあと、レクサスISFは二人と一匹と一羽を乗せて近畿道に乗る。

 その車内で、後部座席にふんぞり返って慧が語った事の真相は、こうだ。

 十八日の夜。別の客と『クリスタル・パレス』に同伴出勤した菜々美は、店長の指示を受けて彼の陣取るVIPルームに入った。

 そこにいたのは青木と相馬とあともう三人、商都銀行の道頓堀支店長と預金課長。そして青木のボディーガード。ちなみにこのボディーガードが鉄球の餌食になった男だ。

 最初の一時間ほどはたわいのない世間話と、ドスケベな支店長の菜々美への口説き文句で終わったが、突然、青木の命令で菜々美や他のホステスらも退場させられた。

 ここから彼女の不幸が始まった。VIPルームに商売道具の入ったグッチの化粧ポーチを忘れてしまったのだ。

 慌てて取りに戻り、VIPルームの入口まできた時に中から聞こえてきたのは青木が商都銀行道頓堀支店に作った秘密口座の話題。

 それは組長である高山を追い落とす資金作りの為に、青木が隠れてやっていたシノギで作った裏金の隠し場所だ。

 流石の菜々美も自分が如何にやばい話を聞いてしまったかは一発でわかったらしく、慌ててその場を逃げ出す。だが、間の悪い事に気配に気づいたボディーガードにその後ろ姿を目撃され、空かさず青木に報告される。

 部屋の中に残ったポーチを見れば、その背中の持ち主は自然と知れるというもの。即効で追っ手がかかった。

 間一髪でタクシーを飛ばし自宅に戻った菜々美は、拙いながらも身に付けた魔法を使って逃亡、産まれ故郷の徳島へ瞬間移動することに成功したが、しかし、追っ手には相馬が居る。 翌日には目的地が特定され、二日後には彼女は青木らの手に落ちてしまった。


「ま、普通やったらそこで輪姦まわされて、コンクリ詰めか硫酸風呂に漬けられてサヨナラバイバイなんやろうけど、青木は彼女が偶然立ち聞きしたんやのうて、誰かの指示でやったと考えたらしい。で、その誰かを聞き出しとうて今彼女は白浜の別荘で監禁中いうわけや」


 そう淡々と語る慧は、まさに人事、すこし愉快げ、真也のイライラは頂点に達し、思わずハンドルをぶっ叩く。


「クソぉ!菜々美はなんも悪いことしてないやないか!ただの偶然やろ」

「ま、世の中至る所に落とし穴があるいう事やな、ましてや夜の商売、一般ピープルに比べたらハイリスクグループいう訳や、一応今のところは生きてると考えたら、まだマシや思わなあかんで、アンタ」


 どう聞いても慰めとは思えない慧の言葉に、一言言い返したいのは山々だったが、また混ぜっ返されるかシート越しに背中を蹴り上げられるだけと考え直しぐっと思いを飲み込む。

 菜々美、頑張って待っててくれ、絶対に助けたる!そう念じながらアクセルを踏む込む。背後で眠たげな「安全運転で頼むで」との慧の声が聞こえたが無視だ。


 自動車道を田辺で下りて国道四十二号をしばらく走って白浜へ、真っ暗な海岸べりの道をひたすら走って企業の保養所や別荘が集まる一角を通過し、小さな岬が見渡せる高台に到着したのは夜の十時。

 車から下りて眼下を見下ろすと岬の突端に豪勢な別荘が立っているのが見えた。あれが青木の別荘だろう。

 窓という窓にはカーテンが引かれ、多少のあかりは漏れているものの中の様子は一切分からない。


「ちょっと偵察に行ってくる。自分はそこで待機や」


 そう言い残し、慧は虎鉄、アントニオを連れてウバメガシの林の中に消えていった。

 ぽつねんと取り残された真也は、しばらく潮臭い海風に曝されていたが、しょうが無いので車に戻る。

 あの別荘に菜々美が居るのか?ヤクザどもに取り囲まれ、酷ことをされてないか?

 考えるだけでも気が狂いそうになり、意味なくハンドルをしばいて気を紛らわす。

 菜々美を探し始めてから徳島のサービスエリアで飯を食った意外に一回も休憩を取っていないので、少し眠ろうかとも思い目を閉じてみるが、気持ちが高ぶり眠るなんてとても無理。

 仕方なく車の外に出る。

 再び海風に曝され、体が冷えたのか急に小便に行きたくなった。こんな時にも出る物は出るのかとなぜか腹を立てながら、車から離れて茂みに向かう。

 作業ズボンのチャックを下ろし、ナニを出して小便を始めたその時。


「いかんねぇ、そんな所で小便をされては」


 振り返ると夜の景色に紛れ込むような黒いローブを身にまとった男が一人。肩までの長髪。口元はイヤラシい笑いで歪んでいるが、死んだ魚のような目には表情は無い。

 ナニをしまうのも忘れその場を駆け出そうと身をひねる。その先にはスキンヘッドのダークスーツ男が一人、振り上げた手には短く真っ黒な棍棒。

 目にも止まらない速さでそれは真也のこめかみに叩き込まれた。


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