第14話 プロトコルゼロ
“アメリカ合衆国の国防長官、ジミー・オースティン氏が、
国際会議出席の後、帝都大学病院に極秘入院“
どこから情報が漏洩したのか、ジミーの再手術がマスコミにばれた。
しかも、22年前に、日本の横田基地で行った極秘手術まですっぱ抜かれた。
「この極秘手術の背景には、
アメリカ陸軍との間に密約があったなんて言う
根も葉もない噂が広まっているみたいよ」
整形外科の看護師が、同僚看護師に言った。
「あの個室にいた外国人の患者さん。
そんなに、有名な人だったんだ」
同僚看護師が目を丸くすると言った。
同じ頃、Sホテルの鳳凰の間において、
アメリカ合衆国国防長官、ジミー・オースティン氏の
超加速型マスカレ法手術を執刀した
帝都大学病院の整形外科、天堂亮太郎医師による
緊急記者会見が行われていた。
「ジャパンテレビの仙道と言います。
22年前の手術と今回の手術。何が違うんですか? 」
「お答えします」
天堂が、スライドに映し出されたパネルの横に立つと説明を始めた。
1日~3日目手術
ふつうは、感染した骨を削り、セメントを詰めるのですが、
今回の再マスカレ法は、22年分の癒着と石灰化した菌の膜を
AR透過ナビゲーションで0.1mm単位で可視化します。
肉眼では見えない域を超音波カッターでミリ単位で削り落とします。
今回は、セメントではなく、術中3Dプリンターで
出力されたハニカム構造のスペンサーを挿入します。
4日~10日目
誘導膜の形成
バイオの技術により最短にします。
11日~14日目
スペンサーを抜き取り、自骨と人工骨を
混合したものを詰め込みます。
形状記憶チタン内固定ボルト。
ズボンの下に隠せるインプラントエクソスケルトン装着。
「古い術式とテクノロジーを融合させた最新マスカレ法です。
この術法を用いれば、通常、数ヶ月かかるところを
14日間という短期間で終えることが出来ます! 」
「メディカルジャパンの南森です。前回は、アメリカ陸軍が、
切断を命じたところ、異議を唱えて温存する術法を行った
医師の存在が大きかったと、オースティン氏が発言されています。
もしかして、天堂先生の事ですか? 」
「いえ、私ではありません。その人は主治医として、
オースティン氏を長年、陰から支えていた
インド系日本人医師のDr.ナイジェルです」
「Dr.ナイジェルとはどんな医師ですか? 」
「風変わりであるが、信念がまっすぐ通った医師です」
司会者が会見を締めくくろうとした矢先、
後ろの方で、遠慮気に手が上がった。
「最後になります。後ろの女性、どうぞ」
司会者が告げた。
「日道新聞の猿渡です。天堂先生から見て、
整形外科医とは、他の職業に例えると何になると思いますか? 」
「そうですね。やっていることは、大工と同じなんです。
いくら、その当時は、最先端の技術で建てられた家だったとしても、
長い年月の間、雨風嵐にさらされて老朽化して、
だんだん、所々、ガタガタになるわけなんです。
我々はその都度、最先端の技術を駆使して、壊れた患者の体を修復します」
「ありがとうございました。こどもにも、わかりやすいたとえ話でした」
どういうわけか、会場に拍手が沸き起こった。
記者会見を終えた会場の片隅で、天堂がふと窓の外を見上げると、
青い空に、飛行機が飛んでいるのが見えた。
Sホテルの隣に建つ古いマンション。
鎌倉という名前の老人が外出先から帰宅した。
「カーカー! 」
いつのころからか、通ってくるようになったカラスが、
鎌倉の姿を見つけてひと鳴きした。
「追い出しやせんよ。大手柄だったんだから。
おまえさんのおかげで、事件が解決したんだからさ」
鎌倉がそう言うと、カラスがどこかへ飛んで行った。
完




