第1話 ターニング
爽やかな新緑と青空が広がるある初夏の日。
羽田空港第3ターミナルに、ワシントンDC発東京便が到着した。
搭乗客たちで賑わう到着ロビーに、一際背が高く、
サングラスの奥に鋭い眼球を持つ男の姿が見えた。
「DR, I feel‥‥ 」
アメリカ合衆国の国防長官ジミー・オースティンが、
主治医のDr.ナイジェルにそう声を掛けた時だった。
団体客の一行が2人の間を遮るように通り過ぎた。
「Lets go. 」
Dr.ナイジェルが空いた隙を狙って、ジミーに近づくと、
ジミーの背中に手をふれた。そして、大きくうなづいて見せた。
この頃、ジミーは、心労がたたり体調を崩していた。
無理を通して来日をしたのには、国際会議に出席する他に
ある重要な目的があったのだった。
Dr.ナイジェルが主治医を務めるようになったのは、イラク戦争の時。
ジミーが陸軍大将として戦地へ赴き、大けがを負い帰還した。
Dr.ナイジェルが留学していた病院へ、ジミーが転院して来た。
無事、難易度の高い手術を成功させた事により、
2人の間に、医師と患者の信頼が生まれたのだ。
術後、強く勇敢だった陸軍大将の人格が変化した。
戦争体験のトラウマが彼の心をむしばみ、
やがて、悪夢に悩まされるようになり、
ついには、睡眠薬を手離せなくなった。
Dr.ナイジェルがそばにいるだけで、平常心を保てる。
原因は精神だけではない。
以前よりも、体が思うように動かなくなったのだ。
Dr.ナイジェルは、ジミーが単なる戦争トラウマの犠牲者というだけではなく、
医学の限界に対面した患者であると認識していた。
この患者を生かすことこそが、今の目標だと考えた。
幸い、ジミーを受け入れてくれる病院が見つかった。




