表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コロラーレ・アルケミスト~可愛い反応値が学園を揺らすのです~  作者: 島田一平(ねこちぁん)
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

第1話:肉球通貨、爆誕

「旧通貨エトスは今日で廃止なのです。新しい通貨はNkQ(肉球硬貨)パン1個=1NkQなのです」

咲姫が朝の光の中でそう宣言した瞬間、俺の時給は“5NkQ(肉1kg分)”になった。


いや待て。肉1kg分って何ニャ。世界の経済が咲姫の“可愛い”で決まるのは知ってたけど、これはさすがに可愛くないニャ。


「猫二、行くのです。今日から新しい住処なのです」


咲姫が無邪気に袖を引っ張る。その後ろには、新人が緊張した顔で立っていた。


「えっと……本当に、ここで暮らすんですか?」


「そうなのです。可愛いのです」


いや、まだ何も見てないのに断言するな。


僕らが向かった先には――玄関が水没し、壁が斜めに傾き、天井から芋の蔓が垂れ下がる社宅があった。


「いや無理ニャ! 住めるかニャこんなとこ!」


新人が絶句する。


「え、これ……建物ですよね?」


「建物……のはずニャ……」


咲姫は水没した玄関に靴ごと突っ込み、壁にそっと手を触れた。


「可愛くするのです」


その瞬間、建物が軋み、床が盛り上がり、水面が波打つように揺れた。天井の芋蔓は一斉に伸び、壁の模様が勝手に花柄へと変わっていく。


「やめるニャ! 勝手に変えるなニャ!」

「すごい……いや、すごすぎる……」


新人が呟く。


咲姫は満足げに頷いた。


「これで可愛いのです」


いや、どこがだ。


水没はそのまま、床はさらに傾き、芋蔓は天井を覆い尽くしてジャングル化している。可愛いの基準が完全に狂っている。


「はいはい、修正するニャ……」


僕は工具を取り出し、咲姫の“創造の余波”を現実に合わせる作業を始めた。


そんな僕らの横で、うさちぁんがちゃっかりと屋台を広げていた。


「はいはい~、開店だよ~。水没社宅限定・芋酒3NkQ~。瓶は70NkQ~。樽は100~1000NkQ~」


「お前だけはブレないニャ……!」


新人が恐る恐る聞く。


「うさちぁんさん……これ、売れるんですか?」


「売れるよ~。咲姫ちゃんの創造が入った場所は全部“名所”だからね~」


「名所……?」


「そうなのです」


咲姫が胸を張る。


「ここは今日から、“可愛い社宅”なのです」


いや、可愛いの定義を一度会議しよう。


僕は水没した玄関の水を抜きながら、新人に説明する。


「いいか新人……咲姫の“可愛い”は、物理法則より強いニャ」


「物理法則より……?」


「そうニャ。だから建物は勝手に変形するし、芋は勝手に育つし、玉ねぎは勝手に泣かせてくるニャ」


新人は震えた。


「そんな世界で……どうやって生きていけば……」


「慣れるニャ」


「慣れるんですか!?」


「慣れるのです」


咲姫が断言する。


「この世界は、可愛いのです」


いや、可愛いの暴力ニャ。


そのとき、社宅の奥から「ボコッ」と音がした。


新人が青ざめる。


「い、今の音……何ですか?」


「芋ニャ」


「芋!?」


「咲姫の創造で、芋畑が地下に広がってるニャ。たぶん今、巨大芋が生まれたニャ」


「巨大芋……」


新人の目が死んだ。


咲姫は嬉しそうに言う。


「芋は可愛いのです。あとで芋ラグビーをするのです」


「芋ラグビー!?」


新人の悲鳴が水没社宅に響いた。


僕は肩をすくめる。


「ようこそ、狂気の世界へニャ」


咲姫は微笑む。


「今日も可愛いのです」


そして、世界はまた少しだけ狂った。



社宅の奥から、再び「ボゴォッ!」と鈍い音が響いた。

新人が跳ね上がる。


「ま、また何か生まれましたよね!? 絶対なんか生まれましたよね!?」


「巨大芋ニャ。たぶん今ので二個目ニャ」


「二個目ぇ!?」


咲姫は嬉しそうに頷く。


「芋は可愛いのです。たくさん生まれるのです」


いや、繁殖力の話じゃないニャ。


僕がため息をついたそのとき――床下から、ズズズ……と何かがせり上がってきた。


新人が悲鳴を飲み込む。


「ね、猫二さん……あれ……」


「巨大芋ニャ」


直径一メートルはある。表面がツヤツヤしていて、なぜかほんのり温かい。


咲姫は目を輝かせた。


「この芋、可愛いのです。名前をつけるのです」


「名前!?」


新人が完全に混乱している。


「芋に名前つける文化なんてありましたっけ……?」


「今日からあるのです」


いや、文化を即興で作るなニャ。


咲姫は巨大芋を抱きしめ、満足げに言った。


「この子は“ぽてまる”なのです」


新人が震える。


「ぽてまる……」


「可愛いのです」


いや、可愛いの暴力ニャ(二回目)


そのとき、外から元気な声が響いた。


「おーい! 猫二ー! 芋の苗拾ったぞー!」


ぽぷらんが両手いっぱいに芋の苗を抱えて走ってきた。


「また拾ったのかニャ!? どこでニャ!?」


「そこらへん!」


そこらへんってどこニャ。


ぽぷらんは巨大芋“ぽてまる”を見るなり、目を輝かせた。


「でっか! これ、投げたら絶対楽しいやつだ!」


「投げるニャ!? 投げる前提ニャ!?」


咲姫がぽぷらんの言葉に反応する。


「投げる……可愛いのです」


「可愛いの基準どうなってるニャ!?」


ぽぷらんは巨大芋を持ち上げようとして――持ち上がらずに潰れた。


「うおっ、重っ! これラグビーできるんじゃね?」


新人が青ざめる。


「ラ、ラグビー……?」


咲姫は嬉しそうに手を叩いた。


「芋ラグビー、可愛いのです!」


「可愛くないニャ!!」


うさちぁんがすかさず屋台から顔を出す。


「芋ラグビー公式ドリンク、先行予約受付中だよ~!」


「商売が早すぎるニャ!!」


新人は完全に崩れ落ちた。


「もう……何が正しいのか分からない……」


僕は肩をすくめる。


「正しいとか間違いとか、そういう世界じゃないニャ。咲姫が“可愛い”と言ったら、それが正義ニャ」


咲姫は胸を張る。


「そうなのです。世界は可愛いのです」


いや、世界観の根幹を一言で決めるなニャ。


巨大芋“ぽてまる”がゴロリと転がり、社宅の床がさらに傾いた。


新人が叫ぶ。


「猫二さん! これ本当に住むんですか!?」


「住むニャ」


「無理ですよ!!」


「慣れるニャ」


「慣れたくない!!」


咲姫は微笑む。


「大丈夫なのです。ここは、可愛いのです」


いや、可愛いの暴力ニャ(三回目)


こうして、肉球硬貨と涙の玉ねぎが支配する世界での生活が始まった。


そして――この狂気は、まだ序章にすぎない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ