ドン引き
異世界転生ダンジョンマスター 温泉ダンジョンを作るの4巻が発売されました
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ドルピンス王国の軍がセパンス王国への進軍を開始して一ヵ月。
道中二つの小国をついでとばかりに侵略し、セパンス王国の国境付近の砦まで到着していた。
道中の小国のうちひとつは、元から勝負にならないため、早々と降参し開城したが、もうひとつの小国は徹底抗戦を選択した。
しかし、ドルピンス王国の新兵器による手を出せない遠距離からの砲撃の前には手も足も出ないまま防壁を破壊され、あっという間に陥落してしまった。
遠巻きに戦況を確認していた、クラプス王国やマーポンウェア王国の調査隊も想定以上の新兵器の射程と破壊力には驚いていた。
セパンス王国の国境付近を高台から見下ろすスパン王とドルピンス軍の将軍、そして王国最強の戦士であるダンジョン探索部隊のナイロン隊長は満足げにその様子を眺める。
「ここまで接近しても誰も出てこないな、どうやらセパンス王国軍は砦に籠って迎え撃つつもりのようだ」「砦の周辺に伏兵が潜伏している様子もありません」「これは、勝ったな」
圧倒的な射程範囲外からの遠距離攻撃を主体とするドルピンス王国軍にとってそれは、願ったりかなったりの展開であった。
むしろ砦を放棄し、周辺に兵を散らばせて玉砕気味に一斉突撃されることが一番嫌だったからだ。
無理やり近づかれてしまえば、圧倒的な遠距離攻撃のアドバンテージはなくなってしまう。
兵力差が圧倒的なので負けることはないだろうが、その場合は無傷とはいかず、かなり手痛い被害は覚悟せねばならないからである。
「周辺で見物しているクラプスやマーポンウェアの連中も10数人規模の偵察隊に過ぎん、何も問題はないな。
よし、攻城兵器の射程範囲内まで進軍し、例の兵器の取り付け作業にかかれ」
スパン王が指示を飛ばす。
ドルピンス王国が大陸の覇者となるための第一歩として、御自ら戦場に赴いて士気を高めているのだが。
前哨戦の戦いで小国の砦を瞬く間に破壊しつくし、あっという間に降伏まで持ち込んだ成功体験もあってか、今は初陣の震えもなく、その指示の声は軽やかである。
今回も同じだ、砦の規模こそ何倍も巨大ではあるが、打ち込む弾数が増えるだけで何も違いはない。
「各軍、兵器の固定個所を中心に陣形を組み襲撃に備えよ。ナイロン隊長殿は最後の最後、敵の接近を許してしまった時の要だ。
もっとも、セパンスの連中は籠城を選択してしまったようだから、そなたの出番はないかもしれぬがな」
ドルピンス王国の糸ダンジョンの攻略部隊の隊長であるナイロンはそう言われて薄く笑う。
元々ナイロン隊長たちはこんな戦いになど元から興味はないし、ドルピンス王国の覇権にも興味などありはしなかった。
ナイロン隊長や部下の頭の中にあるのは、飯困らずダンジョンの極楽だけだ。
ナイロン隊長とその部下たちは、糸ダンジョンでわけのわからないキラキラした糸や布だけを拾い集め続ける人生を長々と送ってきた。
そんなダンジョン探索部隊として生きてきた人間にとって、ドルピンス王国の要人警護で飯困らずダンジョンまで派遣された時のことはあまりにも衝撃的だった。
あまりにも美味い食材の数々、あまりにも美味すぎる美酒。
あそこで飲める酒に比べれば、今まで飲んできた酒など、すべて酸っぱいションベンみたいなものであった。
それに、温泉ダンジョンの効果で綺麗になった女を、ダンジョンの中で抱くことさえできた。
ダンジョンから採れるキラキラした糸や布や宝石でゴテゴテと着飾った自国の偉そうな貴族のババアどもより、飯困らずダンジョンにいるボロを着た美しい娼婦の方が何億倍も価値がある。
侵略主義の貴族たちに同調して戦争に参加してはいるものの。
自分たちに安全なところから命令しダンジョンを探索させて、着飾ることしか頭にない愚かな貴族どもも、野心に取り憑かれて父に手を下す馬鹿な王も、心底どうでもよかった。
糸ダンジョン、鉄ダンジョン、武具ダンジョンの探索も、もうまっぴらごめんだ。
セパンス王国を手中に収めたそのあとは、飯困らずダンジョンに住み着いて、美食と美酒を好き放題に食らい続け、温泉ダンジョンで美しくなった女を好き放題抱くことができる日々さえ手に入れば、その後のことなど知ったことではない。
俺たちの目的は飯困らずダンジョンだけだ。他のダンジョンの探索をしてほしいのなら、セパンス王国のトウジ隊長やヒトウ隊長らに任せてやる、戦後に生きていればの話だが。
頭の中でそんなことを考え、トウジ隊長やヒトウ隊長の顔を思い浮かべた時、ナイロン隊長はふと不気味な感覚に襲われた。
「静かすぎる……」
こちらは砦の目の前に軍勢を引き連れ攻城兵器の準備をしているというのに、セパンス王国の連中はなにをやっているのだ?
前哨戦の小国は、同じ状況下では、巣の上の岩をひっくり返されたアリのごとく慌ただしく砦の中で動き回っていたはずだが。
セパンス王国の砦は、まるで誰もいないかのように静かだ。
変わったことと言えば、砦のいたる所から湯気のような煙がもわもわと上がっているくらいである。
ナイロン隊長は全力で危険信号を感じ取る。
そう、それは、ダンジョンでずっと危険を察知する人生を送ってきた男の野生のカン。
ダンジョンの通路の奥に潜んでいる、強力なモンスターの気配や殺気、その強さを事前に察知することができる、ある種の特殊能力。
そんな彼は、誰もいないかのように静かで、もわもわと煙を吹いている砦の奥底から、とてつもない危険な気配を感じ取っていた。
例えるなら、26階層の凶悪なモンスターが、何千匹も砦に詰まって待機しているかのような、圧倒的な死の気配。
そうだ、こんな切羽詰まった状況だというのに、トウジ隊長は何をしている?
あいつの性格で、今、この場に姿を現して攻めてこないこと、それそのものが異常事態なのだ。
なぜ出てこない? どうして俺達を止めに来ない?
もしかすると。
こ こ に 出 て 来 て は い け な い ?
攻城兵器を固定する作業を尻目に、ナイロン隊長は煙を吹く砦を見つめていた。
そしてふと足元を見ると、地面を整地したような痕跡が見える。
まるで荒れ果てた地面を、一度綺麗に整備しなおしたかのような、そんな跡。
よく見れば周辺の岩には、何かをぶつけられて砕けたような痕跡もある。
そう……まるで、砦の方角から何かが大量に飛んできたかのような……。
ナイロン隊長の顔から一瞬で血の気が引き、青い顔になる。
「全員、逃げろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ナイロン隊長はそう叫び、走り出した。
しかし、大軍勢の中のたった1人が突然、逃げろおお!! と叫んで走り出したところで。
周囲は、は? とばかりにぽかんとするしかなかった。
部隊最強の隊長が突然走り出した姿を、ぽかんと軍勢が見つめる数秒後、セパンス王国の砦から重苦しい重低音が鳴り響き始めた。
何だ? とばかりに、作業の手を止め砦の方を見つめると、砦から黒い粒のようなものが大量に飛んできた。
そして、ほとんどのドルピンス軍の記憶はここで終わっている。
飛んできたそれが岩だったことを知ることができたのは、ほんの一握りの生き残りだけであった。
♨♨♨♨♨
ドルピンス軍が来る数日前。
「遅っそ、遅っそ!! まだ来んのか!? ドルピンスの軍勢は全員、亀かカタツムリか何かなのか? ああ?」
「おそらく、あの攻城兵器に使う大きめの岩を大量に運ぶのに予想外に手間取って遅れているのではないでしょうか……? 陛下」
「手頃な岩くらい、宣戦布告する前の平和な時期に、こっそり国境近くの森にでも運んで隠しておかんか、馬鹿者が」
ドルピンス王国軍が侵攻を開始した翌日には、光の通信によりその情報はセパンス王国に伝えられ。
おおよその到着を2週間後と想定していたため、予定の倍近い日数を待たされていたユーザ陛下は相手の準備不足を怒り罵倒する。
相手の準備がへたくそで、侵攻が遅いことを苛立たれている時点で、もはや普通の戦争ではなかった。
侵攻途中に戦って、手の内を全部見せてくれたことで、相手の新兵器の射程も完全に把握している。
その兵器は蒸気の投石機の射程に遠く及ばないことは確認済みだ。
連射性能も数百倍の差があり、もはや負ける要素など何も存在していない。
意気揚々と砦で、久々の合戦じゃ、さあ来い、国力が違うからと侮るでないぞ、目にもの見せてくれよう。と、勇ましく砦で待機していたのはいいのだが。
予定の日から1週間近く待たされてもまだこないし、2週間たった今も来なくて、遅っそ! と騒ぐハメになってしまった。
その侵攻の遅さは、ドルピンス王国の海軍側も同じくらい想定外だったようで。
陸上と同時に侵攻をかける予定だったドルピンス王国の船は、海上で待機したまま1週間後に、水と食料が不足したのか1度国に引き返してしまい。
海側の防衛を担当しているゲンセン将軍もずっこけるような事態になっていたらしい。
もはやグダグダの極みである。
「警戒されてはいかんから、蒸気の投石機の試射を見て暇つぶしもできんからのう……この砦の投石機は大丈夫なんじゃろうなモロク?」
「はっはっは、これだけの砦に設置する設備ですからな! 訓練場で陛下がお目にしたであろうアウフ様の試作機と構造自体は同じでも、比べ物にならない規模と威力に仕上げておりますぞ~!
いやいや、ワシが生きておる間に実戦でこいつを稼働させられるとは思いませんでしたわ!」
「遠心力で大量の岩を降り注がせる拡散タイプと、精密な射撃ができる砲撃とかいうタイプじゃったか?」
「それだけではありませんぞ! 地上戦では蒸気で突き進むことができる戦車部隊も待機しておりますし、砦までたどりつかれても蒸気の排熱で砦の周囲を一瞬で蒸し焼きにできる防衛設備もございます!」
「温泉ダンジョンが準備してくれた物もあるし……の」
「はは、たしかにあれはありがたいものでしたが、今回の戦いで使うことがあるかはわかりませんな」
「人間の意志がダンジョンに入っておる……か。たしかにあのダンジョンはセパンス王国に肩入れしてくれておるのは間違いないな。
それにしても遅いのう……。はよこい」
それから数日後。
ようやくやってきたドルピンス王国軍に、まず牽制として拡散タイプの投石を放って浮き足立たせ、その損害具合をみてから部隊の展開を対応しようと事前に将軍と話し合っていたのだが。
放たれたそれは、戦場でよくみる矢の雨が、握りこぶし大の岩に置き換わったかのような光景であった。
高所から高速で降り注ぐそれは、弓矢と違い防具も盾も大した意味をなさない質量の弾丸。
その効果は絶大で、牽制の投石で相手の部隊が瞬時に壊滅してしまった。
「…………………………やりすぎじゃろ」
ユーザ陛下は完全にドン引きしていた。
横で見ていたバントゥ隊長も、出撃を控えて準備していたトウジ隊長も、セパンス王国の部隊も全員ドン引きしていた。
遠くから見物していた、他国の調査隊もドン引きしていた。
モロク老人はほぼイキかけていた。







