投石機
「ヒトウ隊長からの連絡が来たと? ……いい用件なのか?」
「はい、と言っていいのでしょうか? 26階層を順調に回れるようになった結果、虹の鉱石武器をあっという間に使いつぶして24階層に戻る羽目になったとのことです」
バントゥ隊長からそう報告を受けたユーザ陛下は微妙な顔になる。
26階層を順調に回れる力は身につけたが、武器が保たないから長くは回れませんでした。
いい用件なのか悪い用件なのかたしかにわからない。
「……壊れた武器は温泉ダンジョンの装備品再生の湯につけたあとで送り返してやると言ってやれ」
「一般の輸送兵に任せていては何週間もかかってしまうため、第1部隊数名が直接走って持ち運びするとのこと。
そのため、飯困らずダンジョンに体力回復の湯と装備品再生の湯。あとはカレーと肉の缶詰を大量に準備しておいてくれとのことです」
「体力回復の湯はわかるが、カレーと肉の缶詰はなんじゃ? 単に食いたいだけか?」
「……下層でドロップ品の交換に使えるとのことですので、決して私欲のためだけではないかと」
鉄ダンジョンの奥底に住まう集団に、ヒトウ隊長から差し入れられたカレーをトウジ隊長がすべて振舞ってきたという精神的な爆弾を仕込んでいるとは聞いているので、おそらく強力な交換品となることには間違いはない。
しかし、自分が食べたいだけの私欲も多少混ざってはいるであろうことはバントゥ隊長も否定しない。
「まあよかろう、できうる限り用意はしておいてやる。他に何かあるか?」
「……武具ダンジョンの27階層へ挑戦する許可を欲しがっております」
「……ダメじゃ」
26階層を気軽に回れるのだから、武具ダンジョンの27階層も今なら回れるに違いない。
そしてそこにある、マーポンウェア王国が秘匿し続けている伝説の剣を手に入れることができれば、その武器の力でガンガン深い階層を回り続けられるかもしれない。
そういう風にヒトウ達が考えてしまうのはわかる。
わかるがユーザ陛下は27階層への挑戦許可を出すことはない。
かつて27階層に挑戦して1本の剣を持ち帰った部隊は、26階層を気軽に回れる赤の剣を皆が装備した大軍勢だったからだ。
そんな部隊でも壊滅するような場所に、セパンス王国の最高戦力を向かわせるわけにはいかない。
今のセパンス王国は徹底的に防衛の準備を整えなければならない時期なのだ。
冒険心や好奇心などでヒトウ隊長の部隊を失うようなことはあってはならない。
「とはいえトウジ隊長も武具ダンジョンの27階層へは行きたがっていますから、いずれは許可を出さないわけにもいかなくなるのでは?」
「なあ、バントゥよ。おぬしはあの蒸気の投石機を見たか?」
「ん? ええ……まあ」
盾で防御など到底考えられない威力で、致死性の威力の岩が雨あられと降り注ぐ恐ろしい兵器であった。
あれが、国境の砦に複数設置されたならば、セパンス王国への侵略はしばらく防ぐことができるはずである。
「27階層のモンスターの詳細は、武具ダンジョンの資料館にも載せられておらず、完全に伏せられておる。
だからこれは、あくまでわらわの想像にすぎぬのじゃがな。
27階層のモンスターと戦うというのは、生きて動く蒸気の投石機の化け物と戦うようなものなのではないのか?
あれと真正面から戦うことを考えると、恐ろしい切れ味の剣や、とてつもなく重く硬い鈍器、立派な防具や極限まで鍛え上げられた肉体や武術に一体どれほどの意味があるというのだ?
かつて赤の剣を装備したマーポンウェア王国の騎士団が壊滅した。
そしておびただしい犠牲の上でたった1体だけモンスターを倒し、1本の剣を回収することができたわけじゃろ?
……まあ、戦闘の規模ではあれと戦うのと似たようなものなのではないのかと、わらわは推測しておるわけじゃ」
「……むう」
「生きて動くあの蒸気の投石機と戦う許可をくれと言われて、おぬしは許可を出す気になるか? しかもその見返りは詳細のよくわからぬ剣じゃぞ?」
「たしかに、部隊壊滅の可能性と見返りのバランスが釣り合っていませんね……」
「そうじゃ、だから許可は今後も出せんし出さぬ。
投石機のついた砦を相手に、犠牲を出さずに真正面から勝てる強さを第1部隊が身につけたら考えなくもないが、そんなバカげた未来が来るはずなかろう。
さあ次じゃ次じゃ、医療の湯に入りに来た貴族は今日は何十組じゃ?」
♨♨♨♨♨
「ぬおおおお!! これが蒸気の投石機か! よい出力じゃ!
アウフ様……このような素晴らしい兵器をお作りになられるとは、成長なされたのう……ワシはうれしいぞい!」
投石機の実験場で、蒸気を吹き出しながら大量の岩を放出する兵器を、ゲンセン将軍と共に眺めながらモロク老人は興奮する。
「かつての兵器開発の長であるモロク先生が現役復帰された以上、開発はさらに先へと進むことでしょうな。
なんでもトウジ隊長のための虹の鉱石の新型武器もお作りになるとか?」
「ははは、将軍殿。人が筋力で振り回す武器などいくら改良した所で限度がある。
あれは既存の武器の破損しやすい個所を強化・補助をすればそれだけでよかろうて。
丁度ヒトウ殿の部隊が壊した武器を持って戻ってきているとの話じゃから、それを観察させてもらい改良するだけじゃ。
それよりも、これからはこういった科学的な飛び道具の時代が来るはずじゃよ。
この蒸気の射出装置に近いものを持ち運び、どこでも発射できるようになれば、それだけで剣や槍や弓の時代など終わるわい」
「そんなことが可能なのですか、モロク先生?」
「何十年、何百年先の話になるかはわからん。だが、いずれはその領域まで人間はたどり着くであろう。
そして、その生まれた武器をダンジョンに教えてやらねばならぬ」
「ダンジョンに……教えるのですか?」
「武具ダンジョンはなぜ世界最大のダンジョンになったと思う?
それは人間の叡智が作り上げた武具という文明の産物を、ダンジョンの奇跡で強化したモノを出した結果であろう?
あのダンジョンは人の作り上げた文明を下地に、それを魔力で強化し改造しておる存在にすぎん。
だから、武具ダンジョンで本当に素晴らしい武器が欲しいのならば、こちらが先に世界を変える武器を発明し、その武器を持ってダンジョンで暴れて教えてやらねばならぬのだ。
具体的に言えば、27階層のモンスターを粉々に遠距離から打ち砕けるような飛び道具を作ってトウジ殿やヒトウ殿に暴れてもらいたいところじゃな。
それによって出てくるであろう、マーポンウェア王国が秘匿しておる伝説の剣など今となっては不用品だと鼻で笑うことによって、初めて武具ダンジョンは次の段階に進化することができるわけじゃ。
各国の王がやっておるとかいう、既存の文明が書かれた書物を送りつけて新しいドロップ品の誕生を口を開けて待っておるだけの受け身の行動では、ダンジョンの意思を本当の意味で正しくは動かせぬ」
27階層のモンスターを蹴散らせるような強力な兵器が開発されることにより、それを武具ダンジョンが学び、その兵器の強化品を魔法で生み出し新しいドロップ品となる。
そんな兵器を大量にマーポンウェア王国が保有することになれば、セパンス王国が危機に晒されると言うこともゲンセン将軍は当然思い至る。
「そ……そうなればマーポンウェア王国を国取りする必要が出てくると思うのですが?」
「27階層で大暴れできるような兵器が作れた時点で、国を取れる戦力は十分確保できておるということになるじゃろ?
もっとも、武具ダンジョンを確保するような国取りをするのか、平和的に取れる武器を均等に分け合う話し合いを武力でまとめるに留めるのかは、その時点の統治者の判断になるじゃろうがな」
「いや……しかし」
「悩んでおる余裕はないぞ将軍。
戦況を一変させるような兵器をマーポンウェア王国に先に開発されても同じ事が起こりうる。
強力な兵器を開発されたというだけのことならば、模倣品を急いで作ればそれなりに対抗できるかもしれぬ。
じゃが、武具ダンジョンに強化改造された兵器を魔法で無尽蔵に作られてしまっては、どうしようもなくなるからのう」
「…………」
「ま、何十年も先の未来の話じゃよ。その時が来る頃には、わしらは生きてはおらんじゃろ。
アウフ様はどうなんじゃろうなぁ……。しっかり渦中に巻き込まれるのか、はたまたアウフ様よりはるか先の世代の話になるのかのう。
わしらが生きておる間に、残せる成果はしっかり残していければ良いのだが」
そういって口では未来を憂いながら、その老人の目と表情は楽しそうに投石機を眺めていた。







