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私がはじめにほとんどの村民が歓迎してくれたと言っているのを覚えているだろうか?

気分よく全員と言えなかったのはただ一人が為だった。

それが車庫にやってきた子等の内の一人で守屋氏の一人娘であるカオリだ。

童子等の中で一人年長で、どうやらお目付け役の一人としてそこにいるらしいカオリは他の子等が純朴できらきらとした瞳で私をしたってくれるのに対し、まるでいけない何かを見るような目つきで始終私を見ていた。

そのくせ、一度も書庫へ来るのを休んだ事はなかった。

私がいると必ず彼女は書庫へやってきて私の講義もどきを部屋の隅に座ってじっと聞いていた。

いつだったか誰もいない書庫で一対一で講義をしたこともある。

その時も彼女は私とは対面にある出入口の傍の角で膝を抱えて、じっとこちらを見ていた。

置物と見間違ってしまいそうな彼女に、しかし横目でちらりと見やった時確かに少女の瞳には私が子等に求めていた知識に対する欲求が宿っていた。

私は彼女に積極的に文字を教えた。

すると一月後には書庫のほとんどの書物を一人で読む事ができるようになっていた。

これは驚くべきことである。

何故なら、彼女はこれまで字というものに全く触れずに暮らしていて、謂わば生まれたての赤ん坊のようなものであり、生後一月後には荘子をそらんじるようになったのだから。

私は彼女の才能を惜しく思った。

所が違えば、そうしてちゃんと教育を受ければこの少女はとんでもない女傑になる。

しかし、流石にそれを口にすることははばかれた。

村には独自のルールがある。

余所者である自分が触れていい線引きがあるのだ。

しかしこのような逸材が世間に何の貢献もせずに片田舎で死んでいくと思うとどうしようもない気持ちにさせられる。

もしかしたら、私がこの集落に訪れたのも彼女を導けと言う神とやらの思し召しかもしれないのだ、などと無神論者ながら考えたりもした。

私は悶々としながら定位置である部屋の隅で史記を読むようになった少女を見やった。

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