魔法が使えない魔術師 1
「さて、どうしたものか」
ため息をついたラペルト様。
すでにフィーニアス様が、国王陛下に知らせに行ってくれたし、しばらくラペルト様の分まで戦うと言ってくれた。
『お二人とも新婚なのですから、この際しっかり親睦を深めた方が良いと思います』
機嫌よさそうに耳をピクピクさせながら笑った狼姿のフィーニアス様。
いつかお礼をしなくては、と心に決める。
「……新婚のように、ね。ああ、なるほど、魔力がないのだから、触れるのをガマンする必要もないのか」
「えっ、あの」
「とりあえず、魔術師団の制服のままというのもな……。着替えるか」
ラペルト様は、パチンッと指を鳴らして、そして動きを止めた。
「……ああ、そうか。使えないんだった」
そのまま、クローゼットルームへ向かう。
筆頭魔術師でありながら、ラペルト様はそれほど服を持っていない。
きっと白いシャツにシンプルなトラウザーズ姿で戻ってくるのだろう。そう思ったのだけれど……。
「ラペルト様が、戻ってこない」
もしかして、魔力を急速に失ったことで具合が悪くなったのではないだろうか。
そんなことを思ってしまうと、もうそうとしか思えなくなる。
「――ラペルト様!!」
勢いよくドアを開けると、赤い瞳を見開いたラペルト様が、驚いたように振り返った。
かろうじてトラウザーズは、はいていたものの、白いシャツのボタンはまだ一つしか留められていない。
「しかも、一段ズレている……!?」
「……っ、これはその!!」
思い出されるのは、ドレスのリボンを簡単に結んで見せた彼の魔法と、時間をかけてネックレスを着けてくれた不器用な指先だ。
「まさか、ボタンが留められないなんて、そんなはず……」
「くっ……!!」
羞恥に打ち震えるように、下を向くのはやめてほしい。
図らずもときめいてしまった心臓を落ち着かせようと、息を吐いてそっと胸をなで下ろす。
「えっと……」
「幼いころから、ボタンは魔法を使って留めていたんだ」
「それはそれで、なんて高度な」
魔法式は、簡単な物でも使いこなすのは難しい。
ボタンを留めるなんて、よほど細かく魔法式を書き込まなければ不可能だろう。
それにしても、このままでは、服を着るまでに日が暮れてしまいそうだ。
ボタンを留めるのは、あとで練習してもらうとして、今日は私が留めるしかなさそうだ。
「仕方ないですね」
「シェンディー」
いつも、自信ありげな姿ばかり見せていたはずの筆頭魔術師は、魔法がないと少々ポンコツだ。
そんな可愛い姿は、私の前でだけ見せてほしい。そんなことを思いながら、ラペルト様の目の前に立ち、一段ズレたボタンを外した私は、動きを止めた。
魔術師は華奢な体型の人が多いのに、ラペルト様のその体は、鍛え抜かれ、しなやかな筋肉に覆われている。
その美しすぎる姿に目を奪われ、直後まなじりを染めた可愛らしさに息を止める。
緊張のあまり指先が震えるのを止めることができず、思ったよりもボタンを留めるのに時間がかかってしまったのは言うまでもない。
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