最愛の魔力供給源 4
そっと、魔術師を表す制服の裾を掴む。
思い出されるのは、会う度にいつも傷ついていたラペルト様のお姿だ。
「……なぜ、魔獣はこの広い大陸で、私たちの国ばかりを狙うのでしょうか」
「それは、未だ解明されていない」
「……いっそ、国を捨ててしまえば」
「むしろ僕はそれを選びたいが、シェンディーはそれで良いのか?」
王太子の婚約者として、できることはすべてしようと心に決めてきた。
でも、それはラペルト様が、いつか戦わなくて良いようにしたかっただけだ。
「……裕福な人間や、腕に覚えがある強者は、この国から逃げられる。だが、犠牲になるのは弱者だ。きっと、君は後悔し、前を向くことができなくなる」
それは、ついばむような口づけだ。
まっすぐ見つめた赤い瞳は、燃えるような色だけれど、優しく私を見つめている。
「……でも、今は案外この王国を気に入っているんだ」
「ラペルト様」
「君がいるから」
ドキリと心臓が音を立てる。
そんなに幸せそうに笑う姿を見たことがなかったから。
けれど、先ほどの話のせいで、不安で心が埋め尽くされていく。
「……でも」
「確かに、多くの犠牲を払ってきた。だが、僕は筆頭魔術師だ。君が心配しているようなことは、起こらない」
「……」
ラペルト様が、心配だ。
今までだって、きっとそうだったけれど、ラペルト様が帰ってこなかったりしたら、私は。
勢いをつけて、ラペルト様に抱きついた。
すり寄ってみれば、思いの外、高鳴る心臓の音がする。
そのとき事件は起こった。
「……えっ?」
「……は?」
二人揃って、少々間の抜けた声を上げる。
それもそうだろう、ラペルト様から白銀の魔力があふれ出して、勢いよく私に流れ込んだのだ。
まるで、ラペルト様の魔力をすべて、奪い取ってしまうように。
慌てて距離を取ろうとしたのに、なぜか貼り付いたように私たちは離れられない。
ようやく、離れることができたのは、眩い光が収まったときだった。
「な、なにが……。ラペルト様、大丈夫ですか!?」
「……大丈夫というか」
慌ててその顔を見つめるけれど、顔色は決して悪くない。
けれど、ラペルト様は、困惑したように自分の手のひらを眺めている。
「あの……」
「これは、困ったことになったかもしれないな」
「えっ、いったい何が起こったのですか」
「うーん。どうも魔法が使えなくなってしまったようだ」
もしかすると、王国の平和より、国民の幸せより、ラペルト様の安全だけを願ってしまったのがいけなかったのだろうか。
この日、王国筆頭魔術師は、魔力のほとんどを失い、魔法が使えなくなってしまったのだった。
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