表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/25

最愛の魔力供給源 4


 そっと、魔術師を表す制服の裾を掴む。

 思い出されるのは、会う度にいつも傷ついていたラペルト様のお姿だ。


「……なぜ、魔獣はこの広い大陸で、私たちの国ばかりを狙うのでしょうか」

「それは、未だ解明されていない」

「……いっそ、国を捨ててしまえば」

「むしろ僕はそれを選びたいが、シェンディーはそれで良いのか?」


 王太子の婚約者として、できることはすべてしようと心に決めてきた。

 でも、それはラペルト様が、いつか戦わなくて良いようにしたかっただけだ。


「……裕福な人間や、腕に覚えがある強者は、この国から逃げられる。だが、犠牲になるのは弱者だ。きっと、君は後悔し、前を向くことができなくなる」


 それは、ついばむような口づけだ。

 まっすぐ見つめた赤い瞳は、燃えるような色だけれど、優しく私を見つめている。


「……でも、今は案外この王国を気に入っているんだ」

「ラペルト様」

「君がいるから」


 ドキリと心臓が音を立てる。

 そんなに幸せそうに笑う姿を見たことがなかったから。

 けれど、先ほどの話のせいで、不安で心が埋め尽くされていく。


「……でも」

「確かに、多くの犠牲を払ってきた。だが、僕は筆頭魔術師だ。君が心配しているようなことは、起こらない」

「……」


 ラペルト様が、心配だ。

 今までだって、きっとそうだったけれど、ラペルト様が帰ってこなかったりしたら、私は。


 勢いをつけて、ラペルト様に抱きついた。

 すり寄ってみれば、思いの外、高鳴る心臓の音がする。

 そのとき事件は起こった。


「……えっ?」

「……は?」


 二人揃って、少々間の抜けた声を上げる。

 それもそうだろう、ラペルト様から白銀の魔力があふれ出して、勢いよく私に流れ込んだのだ。


 まるで、ラペルト様の魔力をすべて、奪い取ってしまうように。


 慌てて距離を取ろうとしたのに、なぜか貼り付いたように私たちは離れられない。

 ようやく、離れることができたのは、眩い光が収まったときだった。


「な、なにが……。ラペルト様、大丈夫ですか!?」

「……大丈夫というか」


 慌ててその顔を見つめるけれど、顔色は決して悪くない。

 けれど、ラペルト様は、困惑したように自分の手のひらを眺めている。


「あの……」

「これは、困ったことになったかもしれないな」

「えっ、いったい何が起こったのですか」

「うーん。どうも魔法が使えなくなってしまったようだ」


 もしかすると、王国の平和より、国民の幸せより、ラペルト様の安全だけを願ってしまったのがいけなかったのだろうか。


 この日、王国筆頭魔術師は、魔力のほとんどを失い、魔法が使えなくなってしまったのだった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ