87 虫捕撫子ー11
ベアトリーチェ視点に戻ります!
精霊による報告内容の報告を聞き、わたくしは全身に鳥肌が立った。
暫定ヒロインは当然ながら虐げられておらず、かといって令嬢としてのマナーや教育が足りていないわけでもなく、癇癪もちで周囲にあたる性格でもない。
高慢で使用人に威張り散らし、わがままで使用人に迷惑をかけているわけでもない。
これだけ聞けば、確かに今まで社交界デビューをしていなかったのはタイミングの問題だったと言える。
だがしかし、そのタイミングを計っていた内容が、妊娠していたからだなんて、あんまりにもひどい。
しかも子供の父親が養父もしくは義兄で、義姉の妊娠時期と被っていたなどバスキ伯爵家の男どもの思考が異常としか考えられない。
もちろん、義兄の子供を産みたいと自ら願い、条件として提示された養父との関係も簡単に受け入れた暫定ヒロインの思考もわたくしには全く理解できない。
もっとも、告発した使用人や報告をした調査員の様子から、理解しようとする方がどうかしているのはわかる。
加えて精霊喰いの結界の代償を養母に背負わせ、そのことについて当然だと思っている様子が見て取れる行動も異常だ。
暫定ヒロインは体調を心配しているのかお見舞いには行っているようだが、養父と義兄はそれすらない。
そして嫡男の妻が死産したことについてだが、わたくしとしてはこの原因はもちろん義妹が夫の子供を妊娠したかもしれないという精神的ショックもあるのだろうが、妊娠初期時に暫定ヒロインへ魔力譲渡をしすぎたことが原因かもしれないとわたくしは考えている。
もしくは精霊喰いの結界の代償になってしまっているのかもしれない。
代償に使われるのは指定された者の他、弱い存在が選ばれる時があるからだ。
そして、どうして精霊喰いの結界を発動したのかについてだが、暫定ヒロインの魔力が減ったからだと報告されていたが、わたくしにはその減った原因は何となくわかる。
これは神殿や王家も察しているかもしれないが、暫定ヒロインが妊娠したからだと思われる。
妊娠した女性が、胎児に自分の魔力を吸われてしまうのは少ないことではあるが毎年何件か報告されている。
その場合に生まれてくる子供の魔力は高いとされている反面、魔力を奪われた女性の魔力値が戻る事はほとんどないか、戻っても十年以上の年月がかかると言われている。
それを短期間で戻そうとしたのなら、確かに精霊喰いの結界のような邪法を使うしかないだろう。
それにしても、理解は出来ないが1人目を妊娠したところまではよくはないけど受け入れたとして、2人目を妊娠するというのはどういうことなのだろうか。
報告の内容では嫡男夫婦にはすでに夫婦生活はなく、その代わりのように暫定ヒロインとの関係が続いているというが、そこに養父も混ざった結果2人目を妊娠……。
本気で理解できない。
よくもまあ今まで事実が外に漏れなかったものだ。
いや、漏れたとしてもバスキ伯爵達は対策をとっているのかもしれない。
使用人の告発を受けて調査員が男性陣や暫定ヒロインを問い詰めても、「だから何だ?」というような態度だったようだ。
次男が妻を襲って妊娠させたことも「タイミングを考えて欲しかった」としか思っていないようで、生まれた子供はそのまま嫡男夫妻の子供として申請する予定だったそうだ。
問題はバスキ伯爵家を法的に裁くことが出来るかどうかなのだが、正直なところ難しい可能性が高い。
精霊喰いの結界の代償にバスキ伯爵夫人を選んでいる事については、いやな事に事前にしっかりと『ロクサーナの魔力が減少した事に対する補充に全面協力をする』という誓約書を結んでいた。
しっかりとバスキ伯爵夫人の直筆サインが入っていることから、代償にされても承諾済みと判断されてしまう。
嫡男の嫁の死産については、わたくしが妊娠初期の魔力譲渡が原因と考えているだけで、貴族と言えども嬰児の死亡率は低くないので確実とは言えない。
次男に強姦されて妊娠してしまったことも、被害者が現在訴える事が出来ない状況で、代理で訴えを出すことのできる夫が容認しているのだから被害届そのものすら出ないだろう。
妻の実家が訴えればいいと平民は考えるかもしれないが、貴族は嫁入りした場合離縁して実家に戻ってくるまで、実家側が本人の代理で何かするという事が出来ないのだ。
これは、長い歴史の中で外戚が他家を好きに操ることが出来ないようにと決められた法律であり、例外として認められるのはその家を継ぐ資格がある子供が社交界デビュー前で後ろ盾が必要な場合かつ、その家門の分家全てに後見の資格なしと判定された場合のみだ。
もちろん家門内で婚姻関係を結ぶことも多いため、いざという時に実家が未成年の後ろ盾になる事はよくある事だ。
それでも、やはり嫁いだ子供に対して直接なにか代理で動くことは出来ない。
よって、次男に強姦された結果妊娠したとしても、夫が容認しており、本人が訴えることが出来ない状況であれば、泣き寝入りするしかないだろう。
法律を逆手に取ったいやらしい考えだとは思うが、こういう事も含めて動けなければ貴族として生きてはいけないのも事実だ。
暫定ヒロインと養父義兄が関係を持ったことも、良識的には歓迎されないことではあるが、貴族としての判断と主張されてしまえば順番を守るように注意はされるが罪には問われない可能性の方が高い。
だがしかし、暫定とはいえ乙女ゲームのヒロインがこれでいいのか?
確かに『誘惑のサイケデリック』は18禁バージョンもあるが、だからといって乙女ゲーム開始前にヒロインが経験済みとか、挙句その相手が養父に義兄なんてなしだろう。
それとも、この状況すら世界の強制力の一つとでもいうのだろうか?
所詮はヒロインを中心に回る、ヒロインに優しい世界なのか?
もしそうなのだとしたら、やっぱり絶対に悪役令嬢になるルートに入ったら速攻で逃げ出さなくてはいけないだろう。
魅了の魔術を使っていないとしても、世界の強制力で周囲の意思がヒロインに都合がいいように流されていき、冤罪を吹っ掛けられて断罪されたらたまったものじゃない。
いっそのこと、暫定ヒロインが社交界デビューをする前に、バスキ伯爵家についての噂を広め、初手印象操作をしておいた方がいいかもしれない。
世界の強制力が本当にある場合、どこまで有効なのかはわからないが、今後の対策についてもう一度ジョセフ様と直接会って話し合う必要がある。
……ジョセフ様、アルバート様の告白でだいぶダメージを受けていたが、大丈夫だろうか?
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