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56 布袋葵ー3

 その日の学院での講義が終わり家に帰るといつものようにクリストファーが出迎えてくれる。


「お嬢様宛に手紙がいくつか届いております」

「あとでまとめて部屋に届けてちょうだい」

「かしこまりました」


 数分かけて部屋に戻ると、アンナ達がすぐに着替えの補助をしてくれてお茶の準備もしてくれる。

 いつもと変わらない日常の光景だ。

 少ししてクリストファーが手紙の束を持って来たので重要なものから中身を確認していく事にした。

 ほとんどがS.ピオニー関係の手紙で、いくつかがお茶会の招待状になっている。

 夜会の招待状はわたくし個人に届くことは珍しく、基本的には家長であるお父様に宛てられ、許可が下りたものがわたくしのところに届き、その中からわたくしが参加するものを選ぶ形になる。

 もっとも、個人宛に全く届かないかといえばそんなこともないのだが、そういった夜会は参加するのに注意が必要な事も確かで、わたくしは正式なルートを通しての招待でなければ参加しないことにしている。

 ただでさえティオル殿下の婚約者候補の最有力者といわれているのだから、これ以上厄介ごとを招き入れるつもりはない。

 手紙の中にジョセフ様からの物を見つけて丁寧に封を開けて折られている紙を広げる。

 そこにはやはりバスキ伯爵家の事が記載されており、近日中に神殿と王家の合同調査が入るとある。

 精霊喰いの結界がある事から、ティオル殿下は今回の調査に精霊使いは参加しないように陛下に進言したらしい。

 邪法が使われている事に陛下は驚いたそうだが、わたくしとティオル殿下の精霊に被害がなかったことを聞いて安堵するとともに、状況によってはバスキ伯爵の進退についても考える必要があると判断しているそうだ。

 確かに禁止されていないとはいえ、邪法を使っているのなら貴族としての資質を見極める必要がある。

 肝心の暫定ヒロインについても独自に調査されており、ほとんど社交にでない養母と義理の姉がつきっきりで教育をしていると過去に神殿に報告書が上がったことがあるそうだ。

 もっともその報告が上がってきたのは家族立ち合いでの聞き取り調査のみだったので信憑性はあまりない。

 ただ、暫定ヒロインは特に痩せているとか肌を隠しているとか怯えているというものはなかったと記載されていた。

 神殿の調査員は賄賂などを貰い虚偽の報告をすると魔術が使用できなくなる契約を結んでいるため、報告書に嘘はないのだろう。

 ただ、それがすべてとは限らない。

 近日中に改めて行われる調査では、各個人の聞き取りや一週間以上バスキ伯爵家に滞在しての状況確認が行われるそうだ。

 女性神官によるボディチェックや室内に立ち入っての確認、バスキ伯爵家の養女に掛けた金銭の確認も行われる。

 養女とはいえ伯爵家の娘だ。既製品のドレスばかりを用意するという事もないだろうし、定期的にお針子を呼んでいるのであれば、その店に過去の採寸データも残っている。

 その際、マナーなどの教養のチェックも行われるとのことだ。

 ここで家に問題があったり、ろくに教育が進んでいなかったりする場合は養子縁組が無効になることがある。

 魔力の多さを見込んで養女にしたとはいえ、引き取り先で満足な教育や扱いを受ける事が出来ていないと判断された場合、生家に返されるか神殿預かりとなる。

 ただ、本人の資質で教育がうまくいかない場合は生家と相談の上でその後の対応が変わってくる。

 多くの場合が男爵家の子供となり、魔力を多く持つ子供を産むための道具として扱われる。

 暫定ヒロインの場合、平民出身ではあるが3歳の時に男爵家の庶子として正式に戸籍を作られているので、問題があった場合父親のいる男爵家で面倒を見る事になるだろう。

 そうならないことを祈るが、バスキ伯爵家は我がシャルトレッド公爵の家門ではないため、何かあった時に直接的な対処がとりにくい。

 公爵家なのだからいざとなれば男爵家ぐらい簡単につぶせると思われることもあるが、その背景にある家門を考慮した対応をしなければいけないため、下位貴族が思っているよりも一つの家を潰すというのは手間がかかってしまうのだ。

 もっとも、王命が出てしまえばこの限りではない。

 王命を出されて爵位一つを潰さなければいけないような家をだした寄り親の家が責められることになる。

 だからこそ縦社会の家門は自分の系列から問題を起こす家が発生しないか常に目を光らせているのだ。

 だが、今回は普段行われる調査よりも難しいかもしれない。

 妻が社交界から遠ざかっているとはいえ、バスキ伯爵とその嫡子は以前と変わらないのだ。

 もっともバスキ伯爵は領地経営のため一年の半分以上を領地で過ごしており、王都にあるタウンハウスは伯爵夫人と嫡子に任されているらしい。

 領地にある屋敷には先代のバスキ伯爵夫妻が住んでおり、家督を譲って隠居しているとはいえ、領地ではいまだに影響力が強いという。

 手紙には先代のバスキ伯爵が隠居してすぐに暫定ヒロインを養女にしたことも記載してあり、義理の祖父母と暫定ヒロインが接触したのはほんの一ヶ月ほどの期間しかないという。

 領地から前バスキ伯爵夫妻が王都に来ることは今までなかったそうだし、暫定ヒロインが領地に行くこともなかったそうだ。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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