41 手毬草ー17
しばらく令嬢たちと話していると、ティオル殿下とゲオルグ殿下、そしてエメリア殿下が会場になっている中庭に入ってきて、お茶会の開始の挨拶をした。
肌寒い季節ではあるが、会場になっている中庭は魔術によって温度調整がされており、肩を出しても特に寒さは感じない。
お茶会とはいえ立食形式でのもので、以前行われた王妃様主催のものとは違い始めから移動は自由になっている。
そのせいか、有力な子息令嬢を中心に人だかりができている状態で、わたくしの周囲にももちろん人だかりができている。
ただし、わたくしの場合は異性ではなく同性の、しかも親しくしている友人が中心になっている。
彼女たちの狙いは基本的にはわたくしの近くにいる事で、後々近づいてくるであろう王族の4人と親しくなることだ。
その逞しい根性はいいと思うし、わたくしの傍にいれば確かに近寄ってくる王族の4人と会話することは可能かもしれない。
だからといって絶対会話できるかといえばそうとは限らない。
自分でいうのはどうかと思うが、彼らの目的はわたくしだからだ。
もっとも、彼女たちもその事はわきまえているのだろうし、今日するアピールとしては、正妃になるわたくしを立てていて出しゃばらず、尚且つ有能な自分を見せる事だろう。
うん、賢い選択だと思う。
側妃の役割は子供を産むことの他に、正妃が執務を行えない場合にその補佐をする、言ってしまえば上級女官のような役割もある。
歴史をたどれば正妃だけを寵愛し、側妃の閨には一切訪れず、公務だけをする側妃を数名抱えた王もいるほどだったという。
もちろんそれは極端な例だが、基本的に側室は正室との輪を乱さずにいる事、いつでも代理が出来るようにその権威が保たれていることが条件だ。
その部分が愛妾とは違う。
正室と側室にはその働きによって公的資金が用意されているが、愛妾にはそれがない。
愛妾は権力もなければ生活に関わる全てが実家からの支援と、王の私的財産から出されるのだ。
もちろん側室と違って愛妾の子供は王位継承権がないし、そもそも愛妾になると子供が出来ないように処置される。
「やあ、ご令嬢の皆様。楽しんでいますか?」
「ごきげんようゲオルグ殿下。もちろん楽しんでいますわ」
やってきたゲオルグ殿下を笑顔で迎え入れると、話をしていた令嬢たちは素早くわたくしの背後に移動して、会話の邪魔はしない、というスタンスをとる。
流石変わり身が早いと思いつつゲオルグ殿下を見れば、その手には薄い琥珀色の液体が入ったシャンパングラスを2つ持っている。
「はい、ベアトリーチェ嬢。桃のお茶なんだけど、炭酸で割っているそうですよ」
「ありがとうございます」
受け取って一口飲むと、口の中でシュワっと桃の香りと味がはじけた。
「おいしいですわ」
「それはよかった。兄様が企画したお茶会だから下手なものは出るはずがないけど、こういうものは好みもあるから」
「桃のお茶はたまに飲みますが、炭酸で割るとは斬新ですわね」
「うん、ぼくも初めて飲みますよ」
そういってゲオルグ殿下は手元に残ったグラスに口をつけて傾ける。
「……へえ、思っていたよりも甘めですね」
「そうですわね。女性向けという感じなのでしょうか?」
「兄様のターゲットが分かりやすいですね。お菓子や軽食のコーナーはもう見ましたか?」
「いえ、まだですわ」
「それなら後で行ってみるといいですよ。きっとベアトリーチェ嬢が気に入る物ばかりです」
「まあ、そうなのですか。楽しみですわ」
そう言われると今すぐにでも軽食コーナーに行きたくなってしまうのだが、流石にゲオルグ殿下や令嬢たちを放っていくわけにはいかない。
「それにしても、兄様はベアトリーチェ嬢が目的でこのお茶会を開いたはずなのに、まだ顔を見せていないなんて、随分勿体つけるんですね」
「わたくしよりもご挨拶なさるべき方が大勢いらっしゃるという事ですわ」
「確かに留学生もいるからそうかもしれませんけど、メインゲストを忘れるようなことはあってはいけないと思います」
「メインゲストだなんて……」
「皆わかっていますよ。ベアトリーチェ嬢のために今日のお茶会は開催されたんですから。ねえ、後ろに控えているご令嬢方もそう思いますよね」
ゲオルグ殿下に言われてわたくしの後ろで様子を伺っていた令嬢たちが頷く気配がする。
「まったくもってその通りです。ベアトリーチェ様とティオル殿下の橋渡しなどとおこがましいことを言うつもりはありませんが……」
「そうですね、隠れ蓑に使われるぐらいの事でしたらいつだってお呼び頂けたらと思います」
「はは、実にいい友人をお持ちですねベアトリーチェ嬢」
「そうですわね。わたくしにはもったいない友人ですわ」
ここで発言しなかった令嬢はわたくしが普段特に親しくしている令嬢だ。
すなわち、側妃狙いでわたくしに近づいているのではなく、個人的にわたくしと仲良くしようと思って近づいてきている令嬢がこのゲオルグ殿下の問いかけには答えなかった。
普段わたくしとティオル殿下の仲を話しては盛り上がっているだけに違和感を覚えるかもしれないが、正式に王太子が決まってない上に目の前にいるのが王太子候補のゲオルグ殿下のため、不用意なことを言わないように口を閉ざしたのだろう。
そういう分別こそが側妃に求められることなのだが、ゲオルグ殿下の問いかけにあっさりと答えてしまった令嬢たちはわかっていないのか、滅多に話すことのないゲオルグ殿下に舞い上がってしまったのかもしれない。
まあ、舞い上がってしまう気持ちはわからなくもない。
王太子になれなかったとしても、ゲオルグ殿下の正妻になることが出来れば大出世だ。
この中には家の嫡子になってもおかしくない令嬢が居るため、余計にゲオルグ殿下の正妻の座を狙っているのかもしれない。
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