34 手毬草ー10
弟とのダンスが終わればリストの最後である義兄とのダンスが待っている。
近づいてくる義兄に微笑みかければ、義兄もニコリと微笑み返してくれ弟からわたくしを引き受けてくれる。
それをしっかり確認して弟が離れて行くと義兄はわたくしの手を取る。
「それじゃあ、一曲踊ろうか」
「はい、お兄様」
弟と同じく義兄もダンスの練習相手であるから踊るのに変な力を入れずに済む。
6曲目であることを考慮してなのか、義兄自身が目立ちたくないからなのか。ダンスホールの中央ではなく少し端にずれたところで踊る。
「この後はどうするつもりだ?」
「そうですわね、ダンスリストは終わってしまいましたし、軽食をいただいたり友人とお話をしたりして時間を過ごしますわ」
「ティオル殿下たちとまた踊ったりはしないのか?」
「そうした場合、また皆様と踊らなくてはいけませんもの」
「冗談だ。ベアトリーチェが今のところ誰とも婚約する気がないのはわかっているさ」
義兄はそう言って笑うとチラっと中央で踊っている王族の4人を見る。
「国も王太子を誰にするか決めかねているようだし、ベアトリーチェが婚約者を選ぶのは決まってからでも遅くはないさ」
「それだと王太子の婚約者になりたがっているように聞こえますわね」
「逆に王太子の婚約者になりたがらないともとれるさ」
「どちらにせよ未来の事は誰にもわかりませんわ」
「どうだろうな。決まっている物だってあるさ」
「例えばどんなものでして?」
「人はいつか必ず死ぬという事は決まっているじゃないか」
「ふふ、確かにそうですわね。けれどもその過程は決まっていませんわ」
「確かに。でも、わたしはグレビールが婚姻したら家を出る。これも決定している」
「わたくしもそうですわね。魔術学院を卒業してグレビールが落ち着いたらどちらにせよ家を出ることになると思いますわ」
「婚約者が決まれば婚姻前に花嫁修業に引っ越す可能性もあるからね」
「そうですわね。もし王太子の婚約者になれば教育のために魔術学院卒業後は王宮にお引越しですわね」
「王太子の婚約者になる気はあるのかい?」
「どうでしょう? 無理になる必要はありませんし、なるようになると思いますわ」
「そうだね」
2人でステップを踏みながらダンスホールを目立たないように動いていると、チラチラと視界に王族たちが入り込んでくる。
皆、優秀と言われている令嬢とダンスを踊っており、その顔には微笑みを浮かべており、相手をしている令嬢はうっとりとその顔を見つめている。
やはり王族と踊りたいのか、現在他の子息と踊っている令嬢の多くは王族の動きを気にしているようだ。
ダンスは男女ともに誘ってよいことになっているが、断られたのにしつこく誘うのはマナー違反となっている。
それでも王族は出来る限り誘いを受けるように教育されているのか、声をかけてきた者が居る限りほとんど断ることはない。
ただ、声をかけてくる者が多すぎて遠慮してもらう事はあるみたいだ。
婚約者を選ぶのと同じで、ダンスを踊る者も選抜しなければいけないというのは人気者ならではだろう。
わたくしも多くの子息に声をかけられるが、爵位やその人の能力を鑑みて相手を選ぶことが多い。
「それにしてもお兄様、王族の皆様の傍で踊らなくて大丈夫ですの? いざという時にお護りできないのではありませんか?」
「今は魔術師団第四師団長が傍で踊っているよ。それに彼がそれぞれに結界を張っているからわたしが傍に行くまでの時間は稼げるさ」
「なるほど」
魔術師団第四師団長は攻略対象者の一人で、ファルク=リャンドル=アンダーソンという名前だ。
ルートに入るとアーシェン様が悪役令嬢になる。
確認すれば確かにファルク様がティオル殿下の近くで踊っており、他にもすぐ駆け付けられる距離にゲオルグ殿下たちもいた。
義兄はダンスホールの中央からは少し離れたところを選んでいるとはいえ、護衛が務まる位置にはいるようだ。
養子になる前は伯爵家の次男であった義兄は、今では名ばかりの公爵家長男となってしまったため、あまり目立つことを好んでいない。
それは自分へ向けられるやっかみを少しでも減らしたいと考えているからだろう。
もしかしたらわたくしが知らないところで誰かに何か言われているのかもしれない。
両親は様々なところに挨拶回りをするために早々に離れてしまったし、弟がついていたとはいえ口さがないものをどこまで止められたかわからないし、わたくしと弟がダンスをしていた時、義兄は1人だったのだから標的にはなりやすかっただろう。
しかし義兄は何を言われてもわたくしたちに愚痴を漏らす事はない。
それはわたくしたちを恨んでいるからかもしれないし、自分で処理できるから黙っているだけかもしれない。
いずれにせよ、義兄の心の中はわからず、わたくしは義兄を心の底から信頼できずにいる。
自分が素直に信頼出来ていないのに相手から信頼して欲しいなどという無茶を言う気はないし、言う資格がないこともわかっている。
わたくしが望むのは、義兄のルートに入らずに本当の意味で兄妹として信頼できる関係を築き上げ、再スタートすることだ。
それが叶うかはヒロイン次第だが、出来ればわたくしが悪役令嬢にならないルートを選んで欲しい。
―――ヒロイン……そろそろ精霊に本格的に探りを入れさせるべきなのかもしれない。
社交界デビューをしていない理由も、世界の強制力だからなのか、わたくしやジョセフ様のように前世の記憶があってわざと遅らせているのかわからない。
もし前世の記憶を持っていてその中に『誘惑のサイケデリック』の記憶があってその通りに動こうとしているのなら、彼女は誰を選ぶのだろうか?
それとも物語に逆らって誰も選ばないのだろうか?
未来の事は誰にもわからないけれども、それでも平和を望む気持ちは誰にでもあるのだ。
よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m
こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




