16 翁草ー8
お茶会が始まったのは午前10時だったのに、終わったのは午後の3時だった。
はあ、随分長いお茶会だったな。
通常のお茶会が2時間ほどだという事を考えても、異常な長さだ。
前世でお見合いパーティーというものに出たことあるが、それもこんなに時間をかけたことなんてなかった。
それもこれも当たり年ゆえに子女がたくさんいるベビーラッシュ世代だからなのだろうか。
やっぱり高位貴族はあわよくば自分の子供をと考えて子作りに励むからね。
帰りの馬車に乗っていると、流石に疲れが出て眠気が襲ってくる。
お茶会の最後のほうに王妃様が再び顔を出してわたくしがいたテーブル席に座ったけども、いなかった間は執務をしていたと苦笑していた。
王妃様ってやはり忙しいのだろう。うーん、悪役令嬢云々を除いてもあまりなりたくない職業にランクインしそうだ。
もちろん想い合った相手と婚姻してその結果待っている物なら乗り越えられそうだけれども、ただの政略で結ばれた末の物ならむなしいだけなので勘弁してもらいたい。
「グレビール、今日のお茶会で得るものはありまして?」
「はい。普段は話さない方々とお話しできる機会を得ることが出来て大変ありがたいものでした」
「それはよかったですわ」
確かに今日はあまり話さない人としゃべったな。
もちろん、普段から親しくしている友人たちとも話したが、いつもなら近づいてこない子息たちが多数わたくしが座っていたテーブル席に来ていた。
やっぱり王妃様公認の簡易集団お見合いというのは心を大きくさせるのかもしれない。
あれからわたくしの有力婚約者候補とは近づかなかったのも大きかったのかもしれないけど、とにかくわたくしとしては気を張る長いお茶会だった。
魔術学院の中でも気を張るけど、授業中は話しかけられることもないので疲労の度合いが違いすぎる。
長時間気を張ると体がガチガチになるから、今日は念入りにマッサージをしてもらうようにメイドたちに頼まないといけないな。
今世でなにがいいって毎日丁寧なマッサージを受けられることだ。
その分大変な事もあるが、前世で家電量販店のマッサージチェアの体験コーナーや、デパートの十分いくらのマッサージチェア、たまの贅沢にお店に行くというぐらいしかできなかったのが毎日無料で受けられる。
うん、これはいい。
肌も髪もしっかり手入れされているし、流石はお嬢様という感じだ。
前世の所詮は素人がちょっとケアしただけの物とは比べ物にならない。
もちろん年齢もあるんだろうけど、プロの手によるケアって大事だな。
それに精霊と契約しているおかげで、素材の良さは格段に上がっている。
病気やケガのケアも精霊がしてくれるので大病になったことはないし、怪我もすぐに治ってしまう。
今日も恐らくティオル殿下以外は見えていなかっただろうが、精霊がわたくしの周囲に飛び交っていたのだ。
ただしどんな内容を伝えていたかは流石のティオル殿下にもわからなかっただろう。精霊魔法とは契約者との関係次第でどうにでもなるものなのだから、他者にはわからないものがある。
生まれた時から精霊が居るのが当たり前だったし、乳母には精霊と話せる人はほとんどいないため、人前では精霊と話してはいけない、精霊は見えていないふりをしないといけないと何度も言われた。
その反面、精霊は大切にしなければいけないとも言われていたので、最初のころは混乱したが、5歳になる前には自分の中で折り合いをつけて、精霊とはテレパシーのようなもので話しつつも、人前ではいない物として扱うようにすることが出来るようになった。
もちろん、精霊魔法の訓練をするときは別というおまけつきだった。
こういう制約があるからこそ精霊魔法の使い手は苦労するのだと思い知らされる。
ティオル殿下も似たような苦労をしている事だろう。
「グレビールも婚約者を決めなくてはいけませんわね」
「まだ早いですよ」
「貴方はシャルドレッド公爵家の跡取りですのよ。貴方が選んだ正しいご令嬢であればだれもが文句を言うことなく応援いたしますわ」
「正しい、ですか……」
「今日お話しなさった方々の中にはいらっしゃいませんでしたの?」
「いえ、魅力的なご令嬢はたくさんいましたよ」
「お眼鏡にかなうご令嬢は?」
「どうでしょう? 姉上より素晴らしいご令嬢となると難しいですね」
「あら、わたくしが基準ですの? ふふ、姉冥利につきますわね」
「……本心ですよ」
うーん、シスコンの演技だとしても褒められればうれしい。
これが子供の時ならば隣に座って頭を撫でたのだが、16歳の多感な時期の男の子の頭を姉とはいえ撫でるのはありなのだろうか?
昔のままなら、弟の髪質はサラサラなので撫で心地がいいのだが、撫でちゃダメかな、やっぱり。
前世の仕事先のお子様でも高校生以上って扱いが難しかったからな。
弟は『誘惑のサイケデリック』ではわたくしには幼いころは憧れを抱いていたけれど、次第に自分の能力を笠に着て傲慢になっていくのを見て軽蔑していくのだったな。
傲慢になっている気はないけど、世界の修正力というものがある限り油断は出来ない。
うん、油断したらそれは死ぬ可能性を持っていると考えるべきだろう。
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