17 薫衣草ー1
簡易登場人物紹介
◆リゼン=ファイウル=シャルトレッド
魔術師団総帥(37):姪のベアトリーチェを溺愛
一人称:わたし。薄茶色の髪に藍色の瞳。
家に着くと見慣れた馬車が停まっており、来客があるのだということが分かった。
「叔父上が来ているみたいですね」
「そうですわね」
「きっと姉上がお茶会で何もされていないか不安になって来たに違いありませんよ」
「…………そうですわね」
勘弁してくれ……でも本当にそうなんだろうな、あの極度にわたくしを溺愛する叔父はそういう人だ。
玄関先でクリストファーが待っていて、中で叔父のリゼンが待っていると知らせてきた。
すぐに向かうと伝えて中に入る。
「ぼくもご一緒しましょうか? 叔父上は姉上と2人きりのほうが嬉しいでしょうが」
「貴方も知っているでしょう叔父様のわたくしへの溺愛ぶりを。あれは度が行き過ぎていますわ。防波堤としてぜひとも一緒に来てくださいまし」
「承知しました」
そう話して応接室の扉の前まで行くと、クリストファーがドアをノックする。
中から「どうぞ」と声が聞こえたのを確認してクリストファーが扉を開けると、そこには優雅に足を組んでいた叔父が立ち上がり、両手を広げてわたくしの顔を見られたことを喜んでいる姿があった。
「やあ、ベアトリーチェおかえり。大変だったね、お茶会なんて気を使ってばかりで楽しくなんてなかっただろう? わたしと仕切り直しをしないかい?」
「ただいま戻りました、叔父様。確かに気は使いましたが、とても楽しいお茶会でしたわ」
これで楽しくなかったなどと言った日には、叔父はどんなことをしてでも今後わたくしがどのお茶会に参加することも無いように手を回すだろう。
叔父はそういう人間だ。わたくしを溺愛するあまりなんでもしようとする。
そうしてわたくしを周囲から孤立させようとするのだ。
機嫌がよさそうに答えれば叔父は一瞬だけどこかつまらなさそうな顔をしたが、瞬きの間に元の笑顔に戻る。
「そうかい? それならよかったけど、何かいやなことがあったらいつだってこのわたしに言っていいからね。どんなことだってベアトリーチェのために叶えてあげよう」
「ありがとうございます」
まじでやめろください。
引きつりそうになる顔を必死で維持して、叔父が手を引くのに合わせてソファーに座ると、残された弟がいまだに扉の前で呆れた顔をしている。
「叔父上、一応ぼくもいますよ。姉上しか目に入らないのはいつものこととはいえ、お茶会にはぼくも一緒だったんですから少しはねぎらってくれてもいいじゃないですか」
「おや、すまないね。可愛いベアトリーチェしか見えていなかったよ。君もご苦労様だったね。わたしの可愛いベアトリーチェに悪い虫がつかないようにちゃんと見張っていただろうね?」
「それ、今回の王妃様のお茶会の趣旨をわかったうえでの発言ですよね? まったく、そもそも姉上が承諾しないのですから虫なんてつきませんし、つかせませんよ」
そう言いながらわたくしの向かいのソファーに座る弟。
弟よ、とりあえずわたくしが叔父の隣に自然に座らされていることに疑問を抱いてくれ。
そして叔父よ、当たり前のようにわたくしの腰に手を回して体を近づけてくるな。
ああ、この場に義兄が居ないから叔父の暴走が止まりそうにない。
流石に弟だけで叔父を止めることは出来ないか。
内心でげんなりしつつも笑みを浮かべて少しでも叔父から距離を取ろうとするが、魔術師団総帥のくせに力が強く離れることが出来ない。
「叔父様、これではお茶が飲めませんわ」
「おや、飲ませてあげようか?」
「遠慮いたします。クリストファー、わたくしにお茶菓子は結構ですわ。これ以上食べたら夕食が食べられなくなってしまいますもの」
「かしこまりました」
叔父用に出されていたお菓子に手を付けない理由を話さなければ、どうしてわたくしが手を出すようなお菓子を用意しておかなかったのかと、叔父があとで使用人を責めそうなので一応わかりやすいように言っておく。
「ベアトリーチェは胃が小さいね。もっと食べて肉付きが良くなった方がいいんじゃないか?」
「わたくしに太れとおっしゃいますの? 冗談じゃありませんわ」
「どんなベアトリーチェだって可愛らしいさ」
「叔父様はそうでしょうけれども、わたくし自身が許せませんの。そもそも、本当に王妃様のお茶会でたくさんいただいてきたのでお腹がいっぱいですのよ」
「そうかい? それにしても本当に長いお茶会だったね。お昼ごろに迎えに行ったらまだ行われていると言われて追い返されてしまったよ」
おいこら、今なんて言った? 迎えに行った?
「あのまま待っていてもよかったのだけれども、王妃様の使いに帰るように言われてしまってね。ここでベアトリーチェの帰りを待っていたのさ」
「そうですの」
ひぃっ。何時間ここにいた!?
「それにしても、王妃様も何を考えているのやら。ベアトリーチェには王族と婚約する意思はないというのにいつまで経っても諦めの悪いことだ」
それ、貴方が言う? 姪であるわたくしをこれでもかと甘やかそうとしてはわたくしに断られるのに、諦めない貴方がそれを言うのか?
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