12 翁草ー4
簡易登場人物紹介
◆ミルティア=アンスロッド=ウェザリア
王妃(41)ティオルの実母。
一人称:わたくし。藍色の髪に薄緑色の瞳。
第一王女(19)と第一王子(17)を産んでいる。
このルーンセイは四方を様々な国に囲まれているが、魔術技術の高さから攻め入られることはないし、各国から要人が自主的に留学してきているのだからこちらとしても相手を信用して攻め入ろうとも思っていない。
そもそもこの周辺国家は安定した統治をおこなっており、この3百年間戦争らしい戦争は起きていない。
だからこそわたくしも安心して隣国の爵位と領地を買い上げることが出来るのだが、どこの国にでも貧乏貴族というものはいるものだとつくづく思った。
やはり向き不向きがあるのだろう。
中には人が良すぎて貧乏貴族になった家もあったが、基本的に領地をうまく活用できなかったが故に没落してしまった家だった。
そんな家は家門からも外され孤立して、余所から手助けを受けられなくなっていく。
わたくしが爵位と領地を買い上げれば、少なくとも借金は返せるしその後一生苦労しない分の金額は手元に残るだろう。そこからどう動くかは人それぞれだ。
精霊魔法と契約魔術で、領地を出た後はもうわたくしと領地に関わらないようにすると契約を結んでいる。
「S.ピオニーはすごいよね。男性向けの商品が公にないのが残念だ」
「あまり事業を広すぎて手に余っては困りますもの」
スキンケア用品は男性も購入しているのは暗黙の了解だからね。
それに今の業績で安定しているし、ぶっちゃけ資金は十分に貯まって一生不自由せず暮らせるぐらいのことは出来るのだ。
「確かにあまり手広くしすぎて失敗するケースもあるな」
「ええ。あくまでも堅実が一番ですわ」
「そうだな」
「でも、ベアトリーチェ嬢は周辺国の爵位と領地をいくつか持っていますよね?」
「あらご存じなのですか?」
ゲオルグ殿下の言葉に思わず内心でドキリとしてしまう。
「輸出入の一部だけど父様……陛下から任せられていて、S.ピオニーの輸出入先が周辺国で爵位交代したばかりの領地から始まるって気づいて調べてみたんです」
「そうだったのですか」
油断ならないな。ティオル殿下も優秀だけど、ゲオルグ殿下もそれだけの情報からわたくしの動きに気づくなんて……。
「姉上が周辺国に領地と爵位を持っているのは事業のためですよ、ゲオルグ殿下」
「もちろんそうだと思っているよ、グレビール」
にこりと頷くゲオルグ殿下にとりあえず胸を撫で下ろす。
でも、これでティオル殿下もわたくしの周辺国での立場を知ってしまったから、ティオル殿下のルートに入ったら、婚約者候補からの除外をして国外追放をあっさりするかもしれないし、先に回り込んで周辺国にわたくしを指名手配するかもしれない。
うーん、予想が出来にくくなってしまった。
話を続けているとやっと王妃様が各テーブルを回り終えてわたくしたちのテーブルにやって来た。
「ごきげんよう、お茶会は楽しんでいるかしら」
「はい王妃様。本日はご招待本当にありがとうございます」
「シャルトレッド公爵家を代表して弟と共に感謝しておりますわ」
王妃様が座るとすぐさまわたくしとグレビールを見て口にしたので、まずそう感謝を口にする。
そのことに満足したように王妃様は次にアルバート様の方を見た。
「アルバートはどう?」
「十分に楽しんでいますよ。楽しみすぎてお腹がいっぱいになりそうです」
「あらあら、時間はまだまだあると言うのにそれは困ったわね」
「冗談です」
「そう? ティオルとゲオルグは……楽しんでくれているようね。この場を設けてよかったわ」
「ははう……いえ王妃様、確かにこんなに長い時間ベアトリーチェ嬢と話すこともなかったので楽しかったですよ」
「ボクもベアトリーチェ嬢とたくさん話せて楽しいです」
「有意義に過ごせているようで何よりです」
王妃様は鷹揚に頷いて見せると、お茶を一口飲んですっとわたくしたちを眺めた。
「それで、ベアトリーチェを口説き落とせそうかしら?」
「王妃様は無茶をおっしゃる」
「確かに、ベアトリーチェ嬢を口説き落とすのには難航していますね」
「うん、社交界デビューするまでは会ったこともなかったし、短時間でというのは難しいですよ王妃様」
「情けないわね」
あからさまに落胆を隠さ無い王妃様にこのテーブルに座っている全員が、思わず苦笑をこぼしてしまいそうになった。
わたくしと王族で年のつり合いが取れている誰か、強いて言えば王子殿下のどちらかと婚約して欲しいと思っているのはもはや隠そうとしないのか。
「これでジョセフが射止めたら愉快ね」
「勘弁してください王妃様。あの子は賢いからあまり冗談に聞こえませんよ」
「アルバート、貴方から見てベアトリーチェとの相性は良さそうに見えるかしら?」
「どうでしょう。賢いあの子ならベアトリーチェ嬢の事業を良く手助けできると思いますが、それだけで婚約者になれるとは思えませんから」
それはそうだ。そんなことで婚約者を決めるんだったら事業を畳んで国外に逃げる。
今まで稼いだお金を元手に新天地でまた一からスタートさせればいいのだ。
「そうなの。だったらいいのだけれど、ベアトリーチェに貴方たちを推せる理由が一つなくなってしまったわね」
「王妃様、わたくしはもちろん事業は大事ですが、それを基準に婚約を決めることは致しませんわ」
「そんなところもベアトリーチェらしくて好感が持てるのだけれど、付け入る隙がないのは難しいわね」
つまり隙があったらごり押ししようと思っていた? やめて怖いから。
そこまでしてわたくしを王族に取り込みたいのかね。わからない感覚だ。
「王妃様、あまりベアトリーチェ嬢を追い詰めるようなことを言わないでくださいよ。逆に逃げられてしまいそうです」
「……それもそうね。とりあえず機会は今後も作ってあげるから、それぞれ努力なさいね」
余計なお世話なので止めて欲しい。わたくしは悪役令嬢にならない平穏な暮らしを謳歌したいだけなのだから。
そこまで話すと王妃様は時間が来たのか、すっと席を立ってパンパンと手を叩いて注目を集めた。
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