黒い婚姻式
勢いでかきました。
すいません。
染み渡るような青い空。
光り輝く太陽がとても眩しく、絶好の婚姻式日和でございます。
私、シルビア・ナタスはアルノイド殿下と本日婚姻させて頂く運びとなりました。
この日を私も殿下もどれだけ待ち望んでいた事でしょう。今日は国を挙げて王族の婚姻を祝う日…の筈なのですが、少し様子がおかしいのです。
まず、婚姻式には新郎、新婦の家族やお世話になっている方々を招待する筈なのですが、どなたともお会いしておりません。加えて、誓いを見守って下さる神官様もお見えになっておりません。
驚く事に、陛下や王妃様ですらこの式場にいらっしゃらないのですよ ?
もちろん、殿下は私の隣にいらっしゃいますわ。
今日の殿下は全身黒色の軍服を召してらっしゃいます。銀色の美しい髪との対比がとても美しく、思わず見惚れてしまいました。
かくいう、私も殿下とお揃いの全身黒の羽根のように美しいドレスを身に纏っております。
ドレスは殿下が送って下さったもので、殿下の瞳と同じ色ですのよ?私もとても気に入っております。
え?殿下の瞳は緋色ですか?
いいえ、最初から殿下の瞳は美しい黒色をしておりましたわ。
何かの勘違いじゃないかしら?
「どうかしたの?シルビア。」
「いいえ、ただ、私たち以外の方々はいついらっしゃるのかと思いまして。」
「ふふ…おかしな事を言うね。可愛いシルビア。みんなもう来ているじゃないか。ほら」
「あら?」
殿下の指した方をみると、いつのまにか沢山の方々がいらっしゃっているのが見えます。
陛下や王妃さま。私の母様や父様も来ているわ
いつの間にいらしたのかしら。
参列している皆様をよく見ると、皆様真っ白く生気がない様子が見られます。また、何か黒いモヤのようなものが体にかかっておりますね。
「皆様ご気分でも優れないのでしょうか。」
「シルビアは優しいね。けど、その優しさも今後は僕だけにしか見せてはいけないよ?」
そういうと、殿下は私の腰を引き寄せ、軽くこめかみにキスをして下さいました。
「ふふ、心配なさらないで。今日から私は殿下の妻ですもの。うんと優しくして差し上げますわ」
殿下の黒い瞳が楽しそうに揺れております。
「嬉しいな。ねぇ、シルビア。ずっと二人で楽しく暮らそうね。」
「まぁ!でも、いつか私達の子供が生まれたら3人になりますわよ?」
「ふふ、そうだね。」
二人で楽しくお話をしていましたが、一向に式が始まる気配がありません。
そういえば、私式の準備や練習も何一つ教えてもらっていないのだけれど、いいのかしら。
「殿下?式はいつから始まるのでしょう。」
「大丈夫、そろそろ始まるよ?」
すると突然、目の前に皆様同様、生気を失った神官様が現れ何かをブツブツ話しだしました。
不思議に思い、殿下を見上げると、殿下は優しく微笑んで下さいました。
神官様が何かを言い終わると、 黒い石が埋め込まれた指輪を二つ私達の前に差し出しました。
「さぁ、これをつけたら婚姻は成立だ。」
私は迷わず、殿下に薬指をみせます。
殿下は優しく私の手を取り、指輪をゆっくりとつけて下さいました。私も殿下の指につけます。
瞬間、私と殿下の指に黒い魔法陣が現れました。魔法陣は二つに分かれ、私と殿下の体に刻み込まれまるした。
「っ!?」
「大丈夫かい?シルビア。」
「はい、でもなんだか熱くて。」
魔法陣の刻まれた所が、熱を持っているのがわかります。
「大丈夫。これで僕達は全て一緒になった。」
「一緒ですか?」
「そうだよ。君や僕のどちらかが死ねば、残された方も死ぬんだ。そして、輪廻に組み込まれ、また一緒に生まれ変わる。」
「では、次の生でも、殿下と共に?」
「そう。次だけじゃない、その次も、また、その次も。ずっと魂は僕と一緒だ。」
「まぁ、なんて素晴らしいのかしら。」
「ずっと一緒だよ。シルビア。」
「はい。一緒ですね。殿下」
何だか頭がふわふわしてきました。
最近、多いのです。殿下の事以外何にも考えられなくなってしまい、この前なんて、殿下以外の名前が全く出てこなかったのですのよ。
お母様やお父様の名前すら。
でも、何だかそれでいい気がしてきました。
どうせ、私は殿下以外の人には会わないのですから。
着替えや、お風呂ですら支度を殿下がして下さいますのよ。
そういえば、最後に従者を見たのはいつかしら。
こうして私達は殿下の美しい黒色に包まれ、婚姻式を終えたのでございます。