act.3
3
私の眼前で繰り広げられている『戦闘』が殺意を孕んだ、本物の殺し合い。そこにあるのは相手への憎しみ、恨み、妬み、怒り、といろいろあるのだろう。それが『弾幕ごっこ』との決定的な違いなのだろう。
確かに、その違いには大きな隔たりがあり、なにより殺意なき攻撃はそもそも相手にすら当たらない。
当たらない攻撃に意味はない。
そもそも当たらないのではない、当てるつもりがない。
『弾幕ごっこ』は避けれることを前提とした、その上で美しさを――ああ、いい替えるのなら、互いのカリスマと呼べるものを比べあっているのかもしれない。
どちらがより美しい弾幕で、どちらがより高い存在であるのか。
その、比べ合い。
そんな『弾幕ごっこ』ではあるが、それでもなお、ここ幻想郷においてはきちんとした決闘方法である。
紅魔異変から多発しているどの異変でも、確かな決着手段として、正式な戦闘手段として。
その意味を保っているのは紛れもない事実であり、史実だ。
ならば。
きちんとした決闘方法であるのなら。
一撃必殺の、奥義を誰もが所有していた。
霧雨魔理沙の「マスタースパーク」。
言わずと知れた、最速を意味する――星の弾幕。
それは幻想郷の妖怪たちを幾重にも散らせた高名な弾幕。
されど、逃げられない、そんな奥義。
霧雨魔理沙。
アリス・マーガトロイド。
二人の間に緊張が迸る。
たった今、ここに到着したばかりの私にさえ伝わる、その緊張感。
アリスの方にも魔理沙の気配を察したのか、魔法陣を展開。
その数は四つ。
今までに見たことのない、未知の気配を漂わせる。
一撃。
この一撃で決着がついてしまう。
そう感じさせるには十分な緊迫感が、周囲を取り込んでいた。
逃れられない。
この一撃を邪魔できるとしたら、それは――
「あら、随分と楽しそうねえ。私も混ぜてもらっていいかしら?」
そう。
このような、部外者による妨害以外、ありえなかった。
思わぬ邪魔に、誰もがその声の方角を見上げた――更なる高みにいる『少女』を。
黒く、怪しげな雰囲気を纏ったその姿は言葉以上に禍々しいオーラを放つ。
宵闇よりも暗く――昏いそのイメージは単に喪服のごとく黒々とした衣服を身に着けているからだけではない。
ふわり、と些細な風に優美に揺れる白い下地を覆った黒色のスカート。
漆黒色をより際立たせようと裾に入った二本の紅色のライン。
上部の線は細く、その鮮やかさを。
下部の線は太く、存在の根強さを。
互いに強調した、そんな色彩で造られていた。
二の腕から手首まで伸びる振袖もまた黒を基調色とし、動揺に血のごとき朱色の線が、鮮血を彷彿させるように色めきだつ。
襟元にはネクタイ。
眩しすぎるくらいの、赤。
そして繊細な髪を束ねるリボンは、他の服飾と近い染色があしらわれていた。
けれど。
各人の思考を支配していたのはそんなことではなく。
神聖さすらも見せつけるそのダークな衣服をさらりと着こなすその人物。
『少女』。
ある魔法使いはその『少女』を捜索し。
ある人形遣いはその『少女』の行方不明を疑い。
ある烏天狗はその『少女』を辿ることで事件に迫った。
異変の真相を知るかもしれないその『少女』――
――博麗霊夢が、そこにいた。
その瞳に、侮蔑を宿して、凛然と。
この空間を――いや、幻想郷を統べる主であるかのように。
幻想郷が、自身の手の内にある、と言うかのように。




