6-9
「ミリザリア殿下が消えました」
その言葉を聞いて、ノエルは思わず瞬きをした。
他国へ嫁ぎ、一時帰国している王女が姿を消した。
ユーリスの口調はいつも通り落ち着いていたが、伝えられた内容は決して穏やかなものではない。王族の失踪ともなれば、王宮中が大騒ぎになっていてもおかしくない事態だった。
室内に、わずかな沈黙が下りる。
それを破ったのは、ラザの深いため息だった。
「……またか」
「はい」
「あのお転婆娘……嫁いで多少は落ち着いたかと思えば」
「相変わらず、お元気ですねえ」
ノエルはしみじみ呟く。ラザもユーリスも、驚いた様子はない。ラザにいたっては、むしろ呆れているようにも見えた。
しかし、それは王家を少しでも知る者であれば、ごく自然な反応でもあった。
ミリザリア・バルバロック。
隣国バルバロックの国王へ嫁いだ、エルディア王国の美しき姫君である。
華やかな容姿と明るい人柄で知られ、国内外を問わず人気の高い人物だが、その名を聞いて王宮の人々が思い浮かべるのは、母譲りの美貌や気品ばかりではなかった。
趣味は狩りと乗馬。好奇心旺盛で、興味を惹かれたものがあれば自分の目で確かめに行かなければ気が済まない。
剣の稽古に興味を持てば騎士団の訓練場に現れ、珍しい品が市に並ぶと聞けば、いつの間にか供も連れずに王都へ出かけてしまう。幼い頃から行動力があり余っていたらしく、王宮の侍従や教育係たちは、長年その自由奔放さに振り回されてきたという。
嫁ぎ先が決まった際には、歴代の教育係たちが「我々はやり遂げたぞ!」と雄叫びを上げ、互いに抱き合いながら涙したという逸話まで残っている。
もっとも、長年苦労をかけられたという話のわりに、誰もがミリザリアのことを愛情深く語るので、その人柄がどれほど人々に親しまれていたかもうかがえた。
そんな、エルディア王家随一のじゃじゃ馬姫である。
王宮を抜け出し、王都へ遊びに行ってしまうことも、かつては珍しくなかったらしい。
つまり、今回もそういうことなのだろう。
「……しかし、まずいな」
ラザは腕を組み、少し考えるように眉を寄せた。
「エルディアの姫様だった頃は、城を抜け出すくらいなら笑い話で済んだが……今はバルバロックの王妃として帰国してんだろ。さすがに外に対して見え方がよくねえ」
「そうですね……」
ノエルも頷いた。
「バルバロック王は、ミリザリア殿下のそういうところを大変気に入ってくださっていると聞きますけど、臣下の方々も全員がそうとは限りませんし……」
王女であった頃と、他国の王妃となった今とでは、その立場が違う。
本人が少し外へ出かけただけのつもりでも、受け取る側が同じように考えてくれるとは限らない。警護の不備を疑われる可能性もあれば、王妃の行動を快く思わない者に、余計な口実を与えることにもなりかねなかった。
「幸い、バルバロック側で殿下の失踪に気づいているのは、現段階ではエルディアから付き従った側仕えの侍女数名のみです」
ユーリスが補足する。
「侍女たちから王宮の担当者へ内密に報告があり、現在は関係者を絞って捜索しています」
「なるほどな。とはいえ、時間の問題だろ」
ラザは小さく息を吐いた。
「確か、バルバロックの宰相殿も夜会に招かれてたよな?」
「はい。オルディス・ラーベルト公は、午前中に陛下との会談を予定されています。その後は午後から視察に入り、夕方までは王宮を離れるとのことです」
「……ふうん」
ラザはしばらく黙って考えていたが、やがて顔を上げた。
「なら、夕方までにはケリつけとかねえとな」
「はい。その方針で動いています」
夕方まで。
ノエルは窓の外へ視線を向けた。
オリバーを見送ったばかりなので、まだ昼を少し過ぎたところだ。今から捜索に加われば、時間はある程度残されている。
とはいえ、王都は広い。
行き先に心当たりがあったとしても、その全てを短時間で調べるのは簡単ではないだろう。
「はぁ……」
ラザは天井を仰ぎ、深々とため息をついた。
「俺の休暇、終わったな」
「お疲れさまです」
名残惜しげな言葉に、ノエルは少しだけ気の毒に思った。しかし、そう悠長にしている場合ではなさそうだというのも、また事実だった。
「ところで、ユーリス」
「なんだ?」
「ミリザリア殿下の行き先に、目星はついてるの?」
「ああ。いくつかは」
ユーリスはノエルへ視線を向け、説明を続けた。
「以前からよく訪ねていた孤児院や施設、それから気に入っていた公園などは、手分けして確認することになっている。ただ、状況が状況なだけに、あまり大々的に人を割くわけにもいかない」
「そうだよね」
王妃が行方不明になったと知られれば、王都の人々の間にも噂が広がるだろう。
かといって、何も知らないふりをして放置するわけにもいかない。事情を知る人間だけで捜索を進める必要がある以上、動かせる人員には限りがある。
「それで、日陰の第三室に回ってきたってわけか?」
ラザが口を挟んだ。
「はー……魔法局の連中、面倒くせえからってこっちに投げやがったな」
「正確には、第三室と第一騎士団の三分の一、それから王家の侍従が数名です」
ユーリスは淡々と訂正した。
「他の者は来賓対応や視察への同行、晩餐会の準備などで手が回らないようです」
「……そういや、今日も夜会あるとか言ってたな」
「はい。主に王家とバルバロック側の交流が中心ですので、先日のような大規模なものではありませんが……所長も参加では?」
「兄貴に投げた。エルヴェスターの御当主様が出てりゃあ十分だろ」
ノエルの脳裏には、ラシルの無表情ながら苦々しさを感じる表情が浮かんだ。ひとまずそこは考えないようにしよう。
「そうですか。そちらは構いませんが、どちらにせよ各国の来賓を迎える予定が以前から組まれていますので、そちらも急に人員を減らすわけにはいきません」
「そりゃそうだろうがな」
ラザは不満そうに頭をかいた。
ノエルも、事情は理解できた。
今回の捜索には、単に人手があればよいというわけではない。王宮の事情を知っていて、なおかつ秘密を守れる者でなければならず、表向きの業務も滞らせるわけにはいかないのだろう。
そう考えると、第三室が呼ばれた理由もわからなくはない。
もっとも、休暇中のラザをわざわざ呼び戻すほど人手が足りないというのは、少し気になるところだった。
「第一室の連中は?」
ラザはなおも納得がいかない様子で続けた。
「こういう時こそ、あいつらに働いてもらえばいいじゃねえか。普段から偉そうにしてんだから」
「第一室は現在、パーミラ国境警備へ急遽人員を割いているとのことです」
「あー……」
ラザはそこで言葉を止めた。
何かを思い出したように眉を寄せ、しばらくしてから小さく息を吐く。
「そういや、そんなんあったか」
パーミラ国境警備。
その言葉が指す事情については、ノエルも夜会の日にオズワルドを通じて少し聞いていた。
「大型の魔獣に関する目撃情報があるって話は少し聞いたけど、第一室が動いているんだね」
「どうやら近くに中規模の魔窟があるようだ。おそらくは、その探索と討伐だろう」
「医療班として第二室も同行してるだろうし……うん、だとしたらこの件は第三室って流れになるのも自然かなぁ」
なるほどな、とノエルは頷いた。
大型魔獣の調査や討伐となれば、専門の魔術師だけでなく、負傷者に備えた医療班も必要になる。王宮の人員が限られている中で、それぞれの部署に優先すべき仕事が割り振られているのだろう。
ラザもそのあたりは理解しているらしく、やれやれと肩をすくめながら立ち上がった。
「で? 上はなんて?」
「エルヴェスター第三室所長指示のもと、夕刻までにミリザリア殿下を保護するように、と」
「指示役まで投げやがって……まあいい。時間も限られてるし、行くぞ」
「はい」
ユーリスが応じると、ラザは自分の荷物を置いてある客室へ向かおうとした。
その背中を見て、ノエルも席を立つ。
「あ、所長。荷物、まだお部屋ですよね?」
「おう。まとめてくるわ」
「手伝いましょうか?」
「いや、そんな量ねえからいい。お前は自分の仕事しとけ」
「はい。じゃあ、移動扉のところでお待ちしてますね」
「頼む」
ラザは軽く手を振り、廊下の向こうへ姿を消した。
先ほどまで、休暇の最後をどう過ごすかなどと話していたのに、帰還の予定が急に早まってしまった。
もっとも、王宮の仕事というのは、時にこういうこともある。ノエル自身も、第三室にいた頃は急な依頼で予定を変更することが何度もあった。
少し寂しい気もするが、仕方のないことだろう。
「ノエル」
「ん?」
呼ばれて振り返ると、ユーリスがこちらを見ていた。
「しばらくは、本当に一人になるんだな」
「ああ、うん。オリバーさんが戻ってくるまではね」
「支部の業務は問題なさそうか?」
「今のところは大丈夫だよ。オリバーさんにも一通り教えていただいたし、引き継ぎも済んでるから」
「そうか」
「それに、ここは王都ほど依頼が多いわけでもないしね。もちろん、急ぎの仕事が入ることもあるだろうけど」
ノエルは笑って答えた。
実際のところ、支部の仕事には慣れてきたものの、まだ一人で判断したことのない案件もある。
オリバーがいる間は相談しながら進められたが、これからはそうもいかない。必要に応じて本局へ問い合わせたり、近隣の支部と連絡を取ったりすることになるだろう。
それでも、不思議と以前ほどの不安はなかった。
村の人々の顔も覚えてきたし、仕事の流れもだいぶ掴めている。何より、オリバーから支部を任された以上、できるだけしっかり務めたいという気持ちの方が強かった。
「何か困ったことがあれば、連絡をしてくれ。直接話した方が早ければそうする」
「ありがとう。でも、ユーリスも仕事があるんだから、あんまり無理しないでね」
「俺のことは気にしなくていい」
「そういうわけにはいかないでしょ」
「時間は作れる」
「……もう」
一度言い出したら頑固だなあ、とノエルは苦笑した。
ユーリスは入局してよく話すようになってからというもの、ノエルの優先順位を高くしがちなところがある。
今回も、緊急招集という急ぎの用件を抱えているのに、こうして支部のことを気にかけてくれているのだから、本当にありがたい友人だと思う。
もっとも、ノエルはなぜユーリスがこれほど親身になってくれるのか、いまいち分かっていないのだが。
「仕事の合間じゃなくて、今度はお休みの時に遊びに来てよ」
「……所長のように、か?」
「うん。その方がたくさん話せるし……あ、でもユーリスはお家の用事もあるよね。中々お休みっていっても忙しいか……」
こうして気軽に話しているが、ユーリスはヴァレンベルク家の嫡子だ。仕事だけでなく家の事も手は抜けない。だとしたら、気軽に遊びに来てと言うのは迷惑かもしれない。
「……いや。大丈夫だ」
「え?」
ノエルがやっぱり無し、と言う前にユーリスが答えた。
「次の休みに来てもいいか」
「……ふふ、早いね」
「ダメか?」
「ううん、いいよ。ユーリスの都合が良ければいつでも」
友達を気軽に家へ招くというのは、ノエルにとってあまり経験のないことだった。
もちろん、ここは自分の家ではない。それでも、なんだか親の留守中に友達をこっそり招くような、妙にわくわくする心地だった。
「まずは色々落ち着いてからだね。今は殿下の捜索に集中して」
「ああ」
頷くユーリスも、どこかわくわくした顔をしているような気がした、
◇ ◇ ◇
それからほどなくして、ラザが荷物を手に戻ってきた。
ザーレンへ来た時と同じ鞄を肩にかけているが、どこか収まりが悪そうで、何度か持ち手を直している。
「……あれ? ちょっと荷物が増えてません?」
「ん? ああ。日記の写しとか、星の考察を書いた紙とか……いろいろな」
「なるほど」
ノエルは鞄を見つめた。
あれだけ熱心に星について調べていたのだから、観測記録や術式の控えが増えていても不思議ではない。
それに、昨夜作った眼鏡の試作品も、ラザに預けたままだ。
「眼鏡も忘れてないですよね?」
「入れた入れた。忘れたら怒ったお前に、ザーレン支部立ち入り禁止令出されそうだし」
「ふふ、よかった。ガレスさんによろしくお願いしますね」
「はいはい。犬みてえな奴に渡しときゃいいんだろ」
「もう……その覚え方、本人の前では言わないでくださいよ?」
「大丈夫だって」
ラザは適当に答えた。
その返事は少し信用ならない気もしたが、今はそれを指摘している時間もない。
「……で、移動扉は使えるんだよな?」
「はい。特例申請が先ほど下りました」
「助かる。んじゃ、行くか」
ラザが先に歩き出し、ノエルとユーリスもその後に続いた。
支部の廊下は、昼間だというのにひどく静かだった。
朝から村人たちが何度も訪ねてきた賑やかさが嘘のようで、足音が普段よりもよく響く。
オリバーが旅立ち、今度はラザとユーリスも帰ってしまうんだなぁ。
そんなことを考えながら歩いていると、ラザがふと振り返った。
「そういや、ノエル」
「はい?」
「星の観測、引き続き頼むぞ」
「あ、はい。もちろんです」
「例の消えた星だけじゃなくて、周囲の星の位置もできるだけ詳しく記録しといてくれ。見えなかった日も、観測できた時間帯とか天候とか、わかる範囲でいいから残しとけよ」
「わかりました。昨日も、そのあたりは日記に書いておきました」
「お、いいねえ」
ラザは満足そうに言った。
「特に、最初に見つけた辺りの空は、これまでと同じように確認してくれ。今後また変化があるかもしんねえしな」
「はい」
ノエルも、あの星が再び現れる可能性については気になっていた。
日を追うごとに大きく、明るく見えるようになり、ある日突然、姿を消してしまった星。
ラザからいくつもの可能性を聞いたものの、まだどれも決め手にはなっていない。
あれが何だったのか。
単なる天体の変化なのか、それとも、今まで知られていなかった別の現象なのか。
答えはわからないままだが、だからこそ、これからも観測は続けていきたいと思っている。
「もし、またあの星が見えたり、何か変化があったりしたら、対話水晶を使って連絡しますね」
「すぐ連絡くれ。夜中でも構わねえから」
「え? 夜中でも、ですか?」
「当たり前だろ。そんな面白そうなもん、朝まで待ってられるかよ。俺を叩き起こせ、絶対怒らないから」
「あはは」
ノエルは小さく笑った。
この調子なら、きっと別件で連絡したとしても、開口一番は「星に何かあったか!」となるに違いない。
たとえ夜中であっても、いや、むしろ夜中だからこそ、観測のためにこちらへ向かうと言い出すかもしれなかった。
「それはそうと、ミリザリア殿下の件が片付いたら、所長もちゃんと寝てくださいね?」
「なんだよ急に」
「一昨日も昨日も、あんまり休んでないでしょう?」
「俺は慣れてるから平気なんだよ」
「そうは言っても、もう若くないんですから」
「おう言うじゃねぇか、このガキ」
ラザは笑いながらノエルの頭を軽く小突く。そのやり取りがどこか懐かしく感じられて、口元を緩めた。
そうして話しているうちに、三人は移動扉のある部屋へ到着した。
「んじゃ、予定より早いが帰るわ」
「はい。お気をつけて」
「おう」
ラザはそう答えたが、すぐには扉を開けなかった。
何かを思い出したように、少しだけ視線を上へ向ける。
「……あー、そうだ」
「はい?」
「今回、おかげさんでなかなかいい休暇になった」
思いがけない言葉に、ノエルは顔を上げた。
「そうですか?」
「おう。来てよかったよ。星のこともそうだし、久々にお前といろいろ話せたしな」
ラザはいつもの気安い調子で笑った。
「ありがとな、ノエル」
「……!」
ノエルは一瞬、何と返せばいいのかわからなくなった。
ラザがわざわざ休暇を取ってザーレンまで来てくれたことも、星の観測に付き合ってくれたことも、魔術を教えてくれたことも、嬉しかったのはこちらの方だ。
それなのに、そんなふうに礼を言われるとは思っていなかった。
「……いえ。僕の方こそ、ありがとうございました」
「ん?」
「所長が来てくださって、楽しかったです。星のことも、魔術のことも、たくさん教えていただけましたし」
「そりゃよかった」
「ふふ。また、何か面白いものを見つけたらお知らせしますね」
「期待してる」
ラザはそう言って、ノエルの肩をぽんぽんと叩いた。
普段と変わらない、気軽な仕草だった。
「それ以外は力抜いてのんびりやっとけ」
「はい、頑張ります」
ノエルが笑って答えると、ラザも口元を緩めた。
「だから頑張るなって。ま、いいか。んじゃ、またな」
「はい、ラザさん」
休暇の最後くらい、所長じゃなくてもいいよね。
そう思って返事を返すと、ラザは満足そうに目を細めて笑みを浮かべた。そうしておもむろに手がノエルの頭に伸びかけたところで、今度はユーリスが一歩前に出た。
「所長、急ぎます」
「ん? あー……わかったわかった」
「それと所長。部下の頭を小突くのは、いかがなものかと」
「ここにいる間はまだ休暇中だからな。俺は部下じゃなくて、昔から知ってるガキを小突いただけ」
ラザがユーリスをあしらいながら、移動扉の取っ手に手をかける。
魔力が流れ込むと、扉に刻まれた術式が淡く輝き始めたのを見計らい、扉を開く。
その向こうには、ザーレン支部とは異なる石造りの空間が広がっていた。
「んじゃ、行ってくるわ」
「はい。お気をつけて」
ラザは片手を上げ、先に扉をくぐった。
続いてユーリスがノエルへ軽く手を振る。
「またな、ノエル」
「うん。またね、ユーリス」
ユーリスも扉の向こうへ姿を消した。
ほどなくして術式の光が収まり、扉は静かに閉じられる。
残されたノエルは、しばらくその場に立っていた。
朝にはオリバーがいて、ラザもいて、そこへユーリスまでやって来た。
つい先ほどまで賑やかだったこの部屋も、今はすっかり静かになっている。
「……行っちゃったなあ」
ノエルは小さく呟いた。
わかっていたこととはいえ、いざ一人になると、少しだけ寂しい。
それでも、オリバーからは支部を任され、ラザからは星の観測を頼まれ、ユーリスは休みの日にまた来ると言ってもらえた。
皆、それぞれの場所でやるべきことがあるのだ。
やるべきこと。その言葉に紐付くように、ふと思う。
「結局、ミリザリア殿下はどこに行っちゃったんだろう?」
幼い頃から自由奔放で、王宮の人々を困らせてきた人物だということは、ノエルもよく知っている。
実際に顔を合わせたこともあるが、華やかな見た目に反して気さくで、誰に対しても分け隔てなく接する人だった。
好奇心が強く、少々破天荒なところはある。
けれど、周囲への気遣いができない人ではなかった。
むしろ、困っている人がいれば放っておけず、自分から手を差し伸べるようなところもあったと思う。
……こういう時に、わざわざ皆を心配させるようなことをする人じゃないんだけどなあ。
そう思いながら少し考え込むが、答えが出るはずもない。それを考えることは、今ここにいる自分のすべきことではないのだろう。
であるならば、自分はここでの仕事をきちんと果たすことに注力しよう。
そう思い直して、ノエルは移動扉の部屋を後にした。




