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Darkness Empire  作者: 豹牙
メイラン王国編
22/36

嫉妬と転校生の謎

21章 嫉妬と転校生の謎


 パーティで予定されている5曲のうち、3曲が終わった。

4曲目が始まっても、瞬矢は疲れたのか踊る気もなく食べ物に走っている。

再び暇になったシャルルは学校の外に出た。

冬を感じさせる涼しい風がふいている。

来ると思っていたしつこい妹が現れないことに少し違和感があった。


「一人でいるとは余程の余裕の持ち主ですな」

目の前に全身を鎧で包んだ騎士が現れた。

声からしてかなりの歳の様だ。

「私には貴様が誰だか分からないが」

「わたしは、メイランの上級騎士でございます。当王国の王女メイリン様よりお手紙を預かっております」

 騎士はシャルルに高貴な雰囲気を漂わせる手紙を手渡した。

『最近気分が変わって夫に内緒で王国に戻らせて頂きました。

 やはりメイラン王国は貧乏くさいリフィールとは大違いですわ。

 明日、一緒にお茶をしましょう。

 ついでに賭けをしませんか?

 内容は貴方が断るとは言えないものです。

 来ないと貴方の父親が死にますよ? メイリン』

 読み終えるとシャルルは紙をくしゃくしゃにして後ろに捨てる。

「やはり、ユーリは貴様等が預かっている様だな」

「その通りでございます」

 騎士というより王国全体に向けてシャルルは舌打ちした。

「ですが、一つだけ伺いたいことが。メイリン様と共に原界へ向かったベリーズ様をご存知ですか?

 ベリーズ様を殺したのが皇帝陛下だとか王女様は言っています。今回の賭けはそれが関係している模様です。もしそれが事実なら」

「事実だ」

 騎士が少し笑っているのが見えた。

「成る程。ならばわたしは貴方をここで殺すか、王国で処刑しないといけない様ですな。わたしはベリーズ様の親戚ですから」

 そう言って騎士は長い槍を構えた。

「仇討ちか? 残念だが私は今戦う気は無い。この格好ではな」

「貴方のやる気を出さないといけない模様ですな。なら、お聞かせしましょう。メイリン様に奴隷国家を薦めたのは紛れも無くわたしです。それに、異界に何故クレイエルの人間がいないか。それはわたしが殺したからだ。魔界の人間は皆穢れている」

「……今、何て言った?」

「もう一度言いましょう。魔界の人間は皆穢れている」

 シャルルは棍を1本だけ取り出した。

「穢れているのはメイランの屑どもだ」

「ほほお。やっと戦う気を出してくれましたな。だが、一国の皇帝が学んだ武術なんてデス・クルーエルの子孫のわたしには敵いませんなあ」

 デス・クルーエルという名を聞いたのは何度目だろうか。

彼の子孫は数少ない。

騎士は笑って十字架をどこからか取り出し、チェーンから外した。

兜があってよく分からなかったが、たしかに髪が白くなっている。

「いいのか? そんなことして。10分しか生きられないのに」

「知っている。だから捨て身でお前さんに挑む。どうせわたしの余生なんて短いんだ」

「これから死ぬ人間なのにもったいない人材だな。私を殺す為だけに命を落とすのか」

「もしわたしが死んでも、孫がお前さんをやってくれるだろう。だから、どちらにしろ死ぬのは貴方です! クレイエル帝国皇帝シャルル・ヴィスティア・クレイエル!」

 騎士は槍を両手で持って走ってきた。

「名前を覚えていたのか? もっと腐っていると思っていたが」

 槍を難なくかわしてシャルルは言う。

「安心しろ。貴様の子孫は全員抹殺してやる」

 棍の刃先が騎士の鎧を切り裂いた。

寒そうな肌が顔を出す。

真っ二つに斬るつもりだったが、死の覚醒をしているだけあって動きが速い。

先程から共鳴している十字架も気にならないほど速かった。

「どうしました? 貴方も信じたくありませんがクルーエルの子孫なら、その十字架を外したらどうです」

 騎士は試すように言うものの、攻撃を止まる気配が無い。

「私には死の覚醒ができない。ヘルバルムの仕業だろうがな」

 棍が起こした風で兜が取れる。

金色の目と白色の髪が外灯の光ではっきり見えた。

「こんなの邪魔で仕方なかったんです。次は本気で行きます!」

 騎士の動きが数倍早くなった。

覚醒すれば疲れるのが遅くなる。

それもシャルルには分かっている。

このまま闇雲に高速で逃げ続けると覚醒の10分より先に疲れ果てる。

だが少しでも速度を落とすと待ち受けるのは串刺しだ。

覚醒した騎士は今までの中でかなり強い分類に入る。

瞬矢より上か下かと言われたら下に傾く。

だが、メイリンから父親を取り返す為に負けるわけにはいかなかった。


同時刻 魔法学校 大ホール


「はあ……ねえアビス。疲れたから休憩しましょうよ」

「うん」

 エミリアは最初から疲れてなどいない。

ただ、数人の女子生徒に囲まれる瞬矢を見かけて邪魔したくなっただけだ。

「ねえ、シュン。あたしと4曲目踊って?」

「あー私が先に来ていたのに!」

「何よ! あたしが先に誘ったのよ!」

 自分の為に争う女子達を、瞬矢は見ようともしない。

「どっちでもいいじゃねえか。喧嘩すんな。俺は女とかダンスより食べ物の方が興味あるし」

「じゃあさっき踊ってたの誰?」

 突然女子の間にエミリアが割り込む。

「私見たのよ? あれ、シャルルでしょ?」

「えーあの人男じゃないの!? もしかしてホモ?」

 女子が驚きの声をあげる。

「男みたいな性格で男みたいな服着てるけど女よ。そういえば、彼女は何処行ったの?」

「それは俺も知らねえよ」

「私が探してくる!」

 エミリアは走って大ホールを出て行った。

女子達はエミリアを黙って見ていたが、しばらくして去っていった。

「あの糞眼鏡……」

 瞬矢はエミリアを止める為に早足で後をつけた。


学校外


 夜の真っ黒な地面に横たわっていた騎士の死体が、あの時のキマイラの様に消えていった。

原界人や魔界人とは違い、異界人が死ぬと消える理由は解明されていない。

そのおかげで返り血以外証拠は無くなる。

武器の長さのおかげか、今回の戦闘では珍しく返り血が付かなかった。

シャルルは棍を指輪に変えて学校に戻ろうとした。

しかし、目の前にエミリアが立ちふさがった。

「こんなところで何してたの?」

「暇だったから散歩していた」

「こんな寒いのに?」

「そんなの人の勝手だ」

 エミリアは無言で何かを疑っている。

何を疑っているのかはなんとなく分かる。

「どうして彼の本名を知っていたの?」

「あいつが自分で言ったんだよ。私が聞き出したんじゃない」

「……あなた、私に何か隠してるんじゃない?」

 エミリアに隠していることは腐るほどある。

だがここで言ったら、エミリアが怒り狂ってクラスの全員にばらす。

それはもう予想できている。

その予想を踏まえてシャルルは話題を変えた。

「そういえば、エリアがお前に会いたいと言っていたな」

「え? エリアって、エリア・マリン?」

「ああ」

 それを聞いたエミリアは嬉しそうに涙を零した。

「何処? 何処にいるの?」

「今はいない。だが、何時か屋上に来れば会えるかもな」

「良かった、生きていて。……ありがとう。この知らせを聞いて不安が一つ無くなった。明後日にでも屋上に行ってみるわ」

 エミリアは先程言っていたことを喜びで忘れ、中に入っていった。

その様子を見て瞬矢が中から出てきた。

「なんだ。俺が心配……じゃなくて止めに行く必要なかったな」

「あいつが単純な方法で誤魔化せる人間だったことに、ほんの少しだけ感謝してやるか」

「ほら。もうすぐ終わるぜ。せめてクライマックスまで一緒に……あー、いや何でもねえ。寒いし旨い肉料理でも食おうぜ」

「結局食い物か」

 2人が中に入った直後、空には小粒の霰が降っていた。


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