舞踏会の恋と気絶作戦
20章 舞踏会の恋と気絶作戦
院長気絶作戦を立ててから2日。
今日は誰もが楽しみにしていた舞踏会『ミッドナイト・ダンスパーティ』がある。
この日だけは夜遅くまで学校にいることができ、豪華なバイキングが並ぶ。
女子は華やかなドレスを身に纏い、男子はタキシードを着ろというのが創校時からの伝統だ。
魔法学校 大ホール
「エミリア!」
いつも女装をしているアビスが、タキシードという珍しい服装をして走ってくる。
化粧もしてないので男には見えるものの、やはりポニーテールが余計だ。
「ボクと踊ってくれる?」
「アビス……ごめん! ちょっとだけ待って!」
黄色のドレスのすそを持ってエミリアは階段を駆け上がる。
向かう先は屋上より一階下のバルコニー。
特にその場所に用はなく、ただある人がそこにいると予測してそこに向かう。
「シュンくん!」
思った通り、瞬矢はバルコニーにいた。
彼の服装は学校で配布されたものだ。
何もかも適当な着こなしはいつもと変わらない。
くじで決めた服だったが男子はどれも同じで、変わるのは女子だけだ。
持っている人間は自参なので、エミリアは高級ブランドのドレスを着ている。
「返事、聞かせてくれる?」
壁に寄り掛かったまま瞬矢は何も話さない。
「何を迷ってるの? わたしじゃだめ? でも、他にいるの? 女の子」
「……お前な。いい加減にしろよ」
エミリアは何も聞こえなかったような顔をする。
「こういうことはそんな強引に決めるもんじゃねえだろ? 結局自分が思うとおりに権力と金で人間を操ってるだけじゃねえか。お前が平民だったらできることじゃない」
「何? わたしがマリアンド王の娘だからだって言うの?」
エミリアの声が低くなった。
「地位が高い人間なら全員嫌って訳じゃねえ。権力という名の卑怯さをなんとかしろよ。お前はそれが滲みでてる」
「そんなこと言ったら、ほとんどの王様とかお姫様とか当てはまるじゃない」
「自分の問題を自分で解決する、筋を通せる人間になったらどうだよ。……クレイエルの女帝みたいにな」
「私より、悪魔皇帝の方がいいって言うの!? ひどい! あんなのただの人殺しじゃない! あんなののどこがいいの? ……もういいわ。私はアビスと踊ってくる。でもあなたのことは絶対に諦めないから!」
少量の涙をぬぐってエミリアは階段を駆け下りていく。
「ただの人殺しじゃねえから筋が通せるんだろうが。あんなしつこい奴は嫌いだっての」
瞬矢は上を見上げながら、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
同時刻 屋上
バルコニーの一階上にある屋上。
そこに来たエリアは偶然に姉を発見した。
「姉さん!」
白い鳥が人間の姿に戻る。
「マリンチキンか」
「そうそう……って違ーう!」
エリアは大声を上げる。
「それはともかく姉さん、エミリア見なかった?」
「エミリアなら瞬と下で話してた。さりげなく私のことを話していたようだな。」
「うわっじーごーくーみーみ!」
エリアは地獄耳のところをわざとらしく間延びさせて驚く。
「あいつらはすぐに大声で話すんだよ」
「もしかして、エミリア振られちゃった? けっこうドジだし」
「人のことを言える立場なのか?」
エリアは何もいえなくなって話題を変える。
「そういえば姉さん。姉さんのお父さんの居場所が分かったの」
「何?」
「メイラン王国の城で、どれいだったか忘れたけどそこで働いてるんだって」
「やはり奴隷……大臣があの紙をよこしたのはその為だったのか」
「じゃああたしは姉さんと……の恋の邪魔だろうし、またなにか情報集めしてくるね~」
そう言って白い鳥になって去っていく。
エリアが去るのがあと10秒遅かったら半殺しにていたかもしれないとシャルルは思った。
独りになって間もなく、屋上に現れたのは瞬矢だった。
「微かに人の声が聞こえたと思ったら」
「エミリアを怒らせて大丈夫なのか?」
「……別にいいんだよ。俺なんかより、優しいアビスと踊ったほうが楽しいに決まってるじゃねえか」
「自分が優しくないと思っているのか?」
「俺が優しかったらエミリアにあんなことしねえし、ヘルバルムのおっさんに早く楽になれとか言わねえよ」
と言って瞬矢は笑う。
「……そうか」
「それにしても、ケチな人間がそんな紫のドレス着てたら別人だな。もうすぐ作戦の決行時間だけど、そんな格好してクソハゲ明日まで気絶させられるか?」
「ケチは余計だ」
「ま、俺はここで待ってるさ」
「すぐ帰ってくる」
そう言ってシャルルは階段を下りていく。
院長室はここから3階下の2階だ。
魔法学校 院長室
酒に酔った院長は変な歌を歌って踊っている。
「わしは~異界最強~その名は~キリアル~デニッシュ~」
一言で表すと、音痴である。
「2題目~わしは~宇宙最強~その名は~キッ」
シャルルはキリアルの頭を蹴った。
「痛い~痛いぞお~だがわしは~銀河最強~その名は~キリッ」
気絶するというより、さらに頭がおかしくなったようだ。
シャルルは飽きれつつキリアルの項を肘で強打する。
「痛くない~痛くないぞお~」
そのままキリアルは地面に倒れ伏す。
「悪いな。父親の命が係ってるんだ。明後日、ゆっくり懺悔してもらおうか」
シャルルは睡眠薬をキリアルの口に突っ込んで部屋を後にした。
魔法学校 屋上
「おいおい、五分も経ってねえぞ」
瞬矢は腕時計を見ながら言う。
「作戦は成功したが、馬鹿みたいに酔っていた」
「でもさ、奴隷国家をやめさせて院長に真実を白状させるってのは分かったけど、なんでお前がそんなにマジになってるんだよ」
「私の父親ユーリが、奴隷としてメイランにいるからだ」
「おい、それって」
「おそらくお前の父もいるだろう」
「救出も院長の白状も全部明日に係っているんだな?」
悲しみを誤魔化しているようにも見えるが、瞬矢は妙に張り切っている。
「だからさ、今日はいっぱい食って、楽しもうぜ? な?」
「結局、食うことと寝ることしか考えてないのか。大食いなコアラだ」
「要するに父親帰還の前夜祭ってやつだ。別のことも考えてるんだぜ。俺は、食って寝るだけのコアラじゃねえし」
別のことというのがいまいち理解できなかった。
「お前のこともあるのにさ、ただの平民の俺のことも考えてくれてありがとな。だからさ、俺と」
「待て。その前に始末しないといけないことがある」
シャルルは後ろのベンチに向けて闇の魔術を放った。
黒い煙から出てきたのは白い鳥エリアだ。
「痛たた……もう! いいとこだったのに!」
「あと10秒で帰らなかったら焼き鳥にする」
「あーはいはい。帰りますよぉ」
そう言ってもエリアは帰る気配を示さない。
「瞬。こいつを煮るか焼くか炒めるかなんかして食え。捕まえるのは簡単だ」
「そうだな。……邪魔されたし」
「こっこのドSコンビ! 分かったよ! 帰ればいいんでしょ? それじゃ、お幸せにぃ~」
ふらつきながらも飛び去っていくエリアを確認すると、シャルルは小さな笑みを浮かべて、
「クライマックスまでいるのか?」
と、瞬矢に尋ねた。
「えっ? えっと……エミリアは嫌だったけど」
「分かった。行こう」
戸惑う瞬矢を置いて、シャルルは階段を下りた。
魔法学校 大ホール
院長が寝てしまったという理由で、プログラムにあった院長の言葉は無くなった。
「あーっ! シャルルじゃない! 何処行ってたのよ! 探してたのよ!」
エミリアが走ってくる。
後ろから遅れてアビスがついてくる。
今現在、瞬矢の姿が見当たらないのは、食べ物に目がいったからだ。
「私がお前に探されることをしたか?」
「相手いるのかなぁーって」
「一応いる」
シャルルが食べ物の方を見たのをエミリアは不審に思った。
「それと! シュンくん見なかった?」
「私は知らないが、後で嫌って程見るだろうな」
エミリアはこの台詞を気にせず視線を下に向けて、
「あーあ。せっかく本名聞こうと思ったのに。知ってる?ここだけの話だけどシュンくん日本人なんだよ」
と小声で言った。
「あいつの本名は、瞬矢だ」
「えっ!?」
「私は相手のところに行ってくる。もうすぐ舞踏会の時間だからな」
「ちょっと待ってよ!」
エミリアが走って追いかけても、シャルルは人ごみが多すぎて見えなくなった。
「エミリア。そろそろ行こうよ」
アビスはエミリアの手を取って言う。
「ええ。でも瞬矢って名前何で知ってるの」




