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【第四章いちゃこら進行中】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第三章「二つの点と一本の線」

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第八十七話「カップル未遂と思いの表れ」


 百道浜から目と鼻の先。

 本拠地をこの場所に置く黄色で鷹がモチーフの球団の巣に到着。


 今日はナイターゲームなので、まだ人の賑わいは本調子ではないように思う。


「気を付けて」


 早くも様々なものに視線を奪われている彼女がよろよろと歩いている。

 こんな長い階段から転んでしまうようなことがあれば、楽しむものも楽しめなくなるので、今はしっかり彼女に注意を向けておく。


「ありがとうっ! 大丈夫だよ? 伊織君も気をつけてね」

「ん」


 見上げると大きくドームの名称が書いてある。

 小さい頃に何度か家族で訪れたことはあるが、この名称になってから来たのは初めて。


 大人の都合でプロ野球のドームは直ぐに名称が変わる。そんな認識だった。


 球団名が書かれた旗や選手の名前が刻まれたのぼりが風に揺れている。


「野球見に来たって感じがするねっ」

「今おんなじこと考えてた」

「えへへっ」


 二人で階段を上り切ると、物販を行っているテントが沢山見えた。

 親しみを込めてダグアウトと呼ばれるらしい。

 行き交う人々は球団ユニフォームを着ていたり、食べ歩きをしていたりと様々。


「まずはメガホン買いにいこっか?」

「うん!」

「んっ……」


 伊織は和栞に手を差し伸べる。


「はいっ! お願いしますっ!」

 彼女の手を引いて、逸れないように散策を始めた。





『いらっしゃいませ~』


 店頭で店員が忙しなく客の呼び込みやお会計の列をさばいている。

 近づいて商品をよく見てみた。

 メガホンひとつにとってみても沢山の種類があって、黄色にピンクに……と好みのものが手に入りそうだ。


『いらっしゃいませ~。そこのお姉さん、いかがですか~?』

 人目を引いてしまったのか早速、店員の女性に話しかけられた。

 主に注意を向けられたのは彼女の方だろうが……。


「私の事かな? 伊織くん」

「多分そうだと思うよ?いろいろ教えてもらってみたら?」

「そうだねっ!」


 店員に近づいていく和栞。

 手を繋いだままついていく伊織。


『はーい。カップルさん、ようこそ~』


 傍から見たらこの状況が交際している男女に見えない事の方がおかしいので、店員の女性は何も悪くない。

 ただ、繋いだ小さな手が、じわじわと力を入れてくることの方がよっぽど問題だった。

 しかも、彼女はこちらに一瞥もくれない。

 そんなにぎゅっと握らなくても逃げたりしないというのに。


 無意識だろうか?それとも……。





「こんにちは! メガホンを探してて」


 人がごった返していない時間帯に来れてよかった。


 和栞は持ち前の明るさとコミュニケーション能力で店員の懐に入り込む。


『はい! あそこのワゴンに沢山種類があるのでぜひ見に行ってくださいね~』


 店員が案内してくれた商品が山積みになっているワゴンに近づいてみる。


「伊織くん。どれが良いか迷っちゃいますねっ」

「確かに」


 細長いものから、一時代前の映画監督が手に持っていそうな太いものまで。


「黄色とピンク両方欲しいなぁ」

 彼女が一つ一つ手に取りながら言う。


「君の手はふたつでしょ? ワンセットにしときなよ?」


 メガホンは基本、ひとセット二本。簡素な紐で二本は結ばれている。

 何セットも手に持つと、沢山の筒を抱えることになる。


 こちらの言葉を聞いた彼女が考え込んだ。


 本気で応援をするつもりらしい彼女。応援グッズ一つ選ぶにしても真剣だ。


「これって……分解する事ってできるかな?」

「分解って? 紐を解くくらい? 留め具はすぐに外せそうだけど……」


 今から買う新品を早速、壊すらしい彼女。

 何を考えているのだろうか。


「伊織くん。お揃いにしませんか?」

「君が選んだのを、俺も選べばいい?」

「違います! お互いに好きなのを選んで片方ずつ交換したいですっ」

「あー、そういうことね。いいよ?」

「やったぁっ!!」


 和栞はピンク色、伊織は球団カラーの黄色のものを選んだ。


 そのほかにも、観戦の記念になるようなマフラータオルをお互いに選び、手に取る。


 そして、彼女がかねてから欲しがっていた、例のもの。


「伊織くん。どの子が一番元気が良さそうですか?」


 彼女は球団のマスコットキャラクターのぬいぐるみが並んでいるワゴンの前で聞いてくる。


 全て丁寧に縫い合わされたユニフォームと帽子を被った愛らしいもの。

 どれを見てみても、自分を選んでくれと言わんばかりの凛々しい顔が並んで座っているので、大きな違いは無いように思う。


 その顔に違いが表れるようなことがあれば、品質に問題があるので、大変なことだが。


「一番綺麗に座ってる子じゃない?」

 何気なく返事した。


 和栞はしゃがみ込むように、ぬいぐるみと視線を同じ高さにする。


「この子にします!!」


 大切に彼女の腕に抱きかかえられた人形の顔は、少し誇らしげに映った。





 和栞と伊織はレジで会計を済ませ、試合開始に合わせて増えてきた群衆に混ざる。


「何か持とうか?」

 購入した応援グッズの数々は和栞に抱えられると、自分のものより大きく見える。


「じゃあ、この子お願いします!」


 彼女にぬいぐるみを渡されて顔を合わせる。


「今のうちに仲良くなってくださいよ? 私の家の守り神になってもらうんですから」

「そりゃ、挨拶しとかないとなぁ」


 伊織は腕でぬいぐるみを抱えながら、今日は頼むぞ?と勝利を願った。


お読みいただきありがとうございました。

続話までお付き合いいただける方は是非、ブックマークをお願いします。

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