第八十一話「和栞さんの地元やけん」
ゲリラで投稿したのだ<(`^´)>エッヘン
((デート先は具体的な名称出してもいいよね……??))
そして突然の改題すみません。ぜひ良き週末をお過ごしくださいませ。
「出発しましょう!」
「うん」
二人で近くの停留所からバスに乗り、バスの終着点。
モノレールが乗り入れる、街一番の大きな駅まで移動する。
九州の玄関口で新幹線も一休みしてくれる最初の駅、小倉駅。
そこから彼女の地元までは在来線の快速電車で一時間半くらい。
本州の首都と九州を結ぶ新幹線の終着点、博多駅。
高速バスを使えばこの街から同じくらいの時間で、向こうの街のバスターミナルへ着くこともできるが、彼女曰く「せっかくなら、お話ししながら行きたいじゃないですか」とのこと。
ひた走る電車の中で、今日行く場所をあれこれ教えてもらいながら、一瞬でたどり着いた。
「到着ですっ」
「到着だ~」
博多駅のホームへ降り立ち、二人で在来線の中央改札口を抜け、博多口方面へ出る。
直ぐ右側にでかでかと「博多バスターミナル」と書いた建物が現れた。
今日の目的地方面へは、バスを使うらしい。
これも彼女が考えてくれたルート。
地下鉄は直ぐ着くけど、バスに乗れば、海を見ながら向かえるらしい。
二人でターミナルからバスに乗り込む。
「今日は伊織君が窓側ですっ。特別ですよ?」
「ははっ。ありがとう」
彼女の特別に従って、窓側を譲ってもらった。
二人掛けの席を陣取れば、目的地まではあとは座っておくだけ。
「普通のバスなんですけどね……? すぐに高速道路を使うんですよ?」
「へぇ。珍しい」
都市高速へバスが乗り入れて走っている様子は珍しいことじゃないらしい。
流石、九州で一番栄えている街だ。
「あと、途中で橋を渡るの。結構高いとよ?」
そういう彼女から聞こえてきたのは方言。
耳に届いて、響いて。
この声から聞くと思わなかったから胸が跳ねた。
「君って帰ってくると、方言まざるんだ?」
「地元やけんねっ」
「なんか新鮮」
普段は方言が出ないように意識しているということだろうか?
「えへへ」
指摘するのも億劫になるくらいの笑顔が光っている。
「君の両親って福岡の人?」
何気なく聞いてみる。
「お父さんとお母さんは、北九州が地元。私が生まれたときに博多に引っ越したらしいです」
「そうなんだ」
「だから家に帰っても、バリバリの博多弁は出ませんっ」
「でも、バリバリって方言らしいよ?」
「へぇ~!知らんかったっ!」
もっと深く掘っていけば新しい彼女が知れると思うと会話が止まらなかった。
「北九州とか博多弁ってさ、女の子が使うと可愛いけど、男が使うとなんだかね」
「ええ?私は可愛い伊織くん見たいなぁ」
ことあるごとに「可愛いもの」を求めてくる彼女。
もしかして可愛い方が彼女に気に入ってもらえるのか?なんてくだらないことを考えた。
「勘弁してよ。俺は可愛さは求めてない」
「ええ~っ……」
「ええ~じゃありません」
「いじわる」
ご機嫌斜めになった彼女でも、目元が笑っているので知らぬ存ぜぬを貫く。
彼女から釣られて方言が出てくるのであれば可愛らしくて大歓迎だが、男一人の方言は身が悶える。
バスは都市高速を器用に進んでいき、一般道へ降りていく。
さっきまで上から見えていた青い海と広がる砂浜は一旦見えなくなって、商業施設やビルの合間を他の交通に混ざり、縫っていく。
遠くから景色の片隅に居た本日の最終目的地のドームを一旦通り過ぎ、バスは進む。
彼女が降りる準備を始めだした。
「あと四つ、五分くらいですっ」
バスの停留所がまだまだ敷き詰められているらしい。
「わかった」
伊織は短く返すと、目の合った和栞から笑顔を受け取った。
自分たちと一緒の停留所で下車する乗客がチラホラ居るみたいだった。
一番最初の目的地は福岡タワー。
外観は街並みに溶け込んで、地上からはビルのような三角柱が続き、各階層を埋め尽くす外壁は、遠くから見ると鏡状になっている。
切り欠きの頂上部分には電波塔としての役割を果たすアンテナが刺さる。
下車した彼女が深呼吸をしている。
「ふぅ~」
彼女に視線で「深呼吸を一緒に」と促される。
「さんのーがーはい」
『すーーーっ。ふぅ~』
「海の匂いしました?」
「わかんないかも?」
「私もわかりませんでしたっ!」
あははっと笑う彼女。
快晴の空に笑い声は舞い上がっていく。
晴れてよかったなぁと彼女の顔を見て思う。
伸びをした和栞が伊織に言う。
「さあ、伊織くん!上りますよ!高いところ大丈夫ですよね?」
階段を使って上るわけでもないのに横でやる気一杯に彼女は言ってくる。
「舐めて貰っちゃ困りますなぁ」
「良かったっ。いきましょっ」
さらりと手を掴まれ、引かれた。
そういえば、乗り物を乗り継いだからか、今日彼女の手に触れるのは初めてだった。
以前、次はいつ手を繋いでくれるの?なんて嬉しいことを言ってくれた彼女が今日も自分の隣を歩いている。こんなに嬉しいことは他に無かった。
「私の街を見せてあげますっ」
得意げに目配せしてくる彼女。
まるで自分が治めているかのような言い草だ。
健気に笑っているので、この顔を眺めておくためにも、野暮なことは言いたくない。
「天下取りに行くかぁ」
彼女のやりたいように、彼女の赴くままに。
彼女の仰せのままに。
今は長いものに巻かれておくのが良いに決まっている。
今から二人で、海と空の境目を探しに行く。
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