第七十九話「お互いの誕生日」
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期末考査は、とうとう明日から三日間。
中間考査に比べて試験科目も増えるので、油断するとこの美少女との点数差も馬鹿にならないと思うと、最後の悪あがきは必要だ。
決して今度こそ打ち負かしてやろうなんて思ってない。
自分にできる範囲の事を出し切るまでだ。
カチカチと時計が響く中、伊織と和栞は追い込みを終了した。
「伊織君。今回の試験は準備万端ですか?」
「君に勝っても、負けても悔いはないかな?」
「それって……まさか、どっちでもデートできるからとか言わないで下さいよ?テストはテストですからね?」
彼女に見透かされたように言葉を浴びせられ、思わず委縮してしまう。
よくもまあ、恥ずかしげもなく「デート」なんて言葉を使えるなと思ったけど、確か最初から彼女と二人きりで行動するときは、自分からお道化て使ってきた言葉であるので、彼女の中では、深い意味がない言葉になっているのかもしれない。
彼女の事を特別に好意的に見てしまう様になった今では、言葉一つとっても、自分と彼女との感性の違いに、過去の後悔が付きまとう。
「了解」
軽快に丸が付いたノートを畳み、片付けながら、改めて試験に向けて気持ちを引き締めなおした。
◇◆◇◆
「これが原因で睡眠不足にならないでくださいよ?今日はちゃんと休むんですからね?」
彼女にオーダーした、ありったけ濃いコーヒーを差し出されたかと思ったら、ひょいっと彼女は手を引いて「待て」を命令されている犬のようにお預けされる。
母親のような言葉をかけられた。
「わかってるって。いつも、ありがとう」
こちらを気遣って言ってくれたことくらい自分にもわかる。
優しい顔つきからカップを受け取った。
「あと、徹夜で抜け駆けも無しですからね?」
「ちょっと見透かされてるのが悔しいな」
「伊織君のことは何でもお見通しですっ」
得意げに戻った彼女がソファに座る。
「野球。ちゃんとチケット取れたから、全力でやりましょう。期末。」
和栞が心配してくれていた伊織の重要なミッション。
一般発売の野球観戦チケットを難なく二枚手に入れた報告を彼女にしておく。
「わぁ!ありがとう!楽しみは取っておいて、まずは頑張ろうっ!」
楽しみにしてくれているのであればよかった。彼女の人生初めてのプロ野球観戦の隣が自分で良かったのだろうかと思ったが、口にするときっと怒られる。
「我々の席は一塁側のライトスタンド外野席。今回は球場の雰囲気込みでホームだし、やっぱり外野席で皆に混ざって応援でしょって、独断と偏見です」
「その点、お任せしましたし、心配しなくて大丈夫だよっ! ありがとうっ!」
話を進めていくたびに彼女の笑顔が深まっていくので、見ていて癒される。
「他にはテラス席とか、ペアシートとか。誕生月には安くなるチケットも、色々準備すれば買えるみたい」
「へぇ~~! 商売上手さんですねぇっ!」
和栞が驚きを露わに伊織の顔を見る。
身体を仰け反らせ驚き、ソファの反発で遊んで揺れている姿を見る。
彼女はきっと、明日から始まる三日間の試験の事なんか、既に頭にない。
気持ちが野球観戦に前のめりになってしまっていることが窺えた。
「ペアシートってどうやってペアを証明するんですか?」
彼女は突然、疑問を投げてくる。
「いやっっ」
思わず吹き出してしまった。
「えっ??何かおかしいこと言いましたか?」
「ごめんごめん。ペアシートっていうのは、このくらいの仕切りのないシートの事を言って、二人で見ますよ~ってだけ。ペアである証明はいらないかな」
伊織はお互いの状況を手を使って指し示す。
今、ソファに横並びで座っているより近い距離ではあるのだが……。
彼女が知らないのも無理はない。
自分だって初めて知ったのだから。
「へっ!? 私はてっきりカップルさんとかが……使うものかと思ってましたっ」
たまに抜けた天然が出てくるのも彼女の魅力。
普段はしっかり者のおっとりした彼女だから、目を見開いてお茶目に舌を出して固まっているこの顔はなかなか見られない。
「あははっ!」
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですかぁ~」
太腿にぺしっと飛んでくる力の無い抗議。
何度も、何度も、ぺちぺち。
ぺちぺち。
「ごめん。ごめんって」
和栞の頬の風船が膨らみながら小さな手は戻っていった。
◇◆◇◆
「伊織君は何月生まれ?」
「ん?十二月。君は?」
「私は十月ですっ。私の方が少しおねぇちゃんですっ」
同学年に括られる彼女と年上も年下も無いが、言い張る顔が幼くて、この顔が年上と言ってくるのが納得いかない。
「お姉さんなら、弟には優しくしてもらわなきゃなぁ」
彼女を焚きつけてみる。
「弟ならもっとお姉ちゃんに甘えてもいいよ!」
「へっ!?」
あまりに無策で仕掛けてしまった伊織は和栞に返り討ちにされた。
甘えるだなんて考えたこともみなかった。
言葉の響きからして男たるもの、この言葉は素直に従ってはいけないと思った。
更に彼女の事だ。
その後の自分がどうなるか想像もしたくない。
溶けて無くなってしまうかもしれない。
でも、気になるのはきっと君のせい。
「具体的には?」
「ぎゅ~ってしたり、よしよししたり?」
「二カ月しか変わらない弟によくもそこまで……」
「お望みなら、甘やかしてみせますけど、いかがです?」
とんとんと自分の膝を叩いて、寝転がれとでもいうのか。
「流石に……」
「膝枕ではご不満ですか?」
「いや、多分……極上だけど、その後が保証できないので勘弁してください」
彼女は余裕綽々で言ってくるが、おそらく自分が行動に移さないことを見越しての事だろうと思った。
こっちの気も知らないで、彼女は悪気なく言ってくれたのかもしれないが……。
心が締め付ける思いをしたが、もうそろそろ帰宅しなければいけない時間帯なので、さらりとかわして逃げておく。
それがこの家、この部屋での処世術。
「何日生まれ?聞いておこうと思って」
伊織は和栞に日付を聞き出す。
「私は十月十九日生まれ! 伊織君は?」
こう聞かれると多分驚かれるけど、仕方ない。
「十二月二十五日生まれ」
彼女が驚いた表情をする。
自分が想定していたよりも彼女の脳内に湧き上がってきた感嘆符の数が多そうで面白い。
「クリスマスの日?? 素敵ですね!しかも覚えやすい!!」
「小さい頃から誕生日とクリスマスがいっぺんに来て迷惑してるけどね」
「プレゼントはひとつですか?」
気になるのか、彼女が聞いてくる。
「サンタの秘密を知るまでは二つだった」
「二ついっぺんにですか……素敵なご両親ですねっ」
まさか、今でもサンタクロースを信じているような彼女でなくて良かった。
少しだけ言い回しを気を付けていったことが自分で阿保らしく思えてくる。
「でも、ケーキはひとつだけど。流石にね」
「うふふっ。食べきれなかったら勿体ないしっ」
「ね」
彼女はさっと立ち上がると、壁掛けのカレンダーをぺらぺらとめくりだした。
十二月の一枚にたどり着く。
どうやらカレンダーは三月はじまりのものらしい。
テーブルから取った赤ペンで十二月二十五日に丸をつける。
「でも、今年は十二月二十五日はお腹を空かせていてくださいね?」
「え?」
「誕生日会しなきゃ。今年からケーキはこの日、二つ食べる!覚悟を決めてくださいっ」
得意げにそういう彼女を見ながら、少しの驚き。
(今年から……ねぇ……)
そして伊織も和栞の誕生日を忘れないように心に刻み込んだ。
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次回より、【めちゃあま】なデート始まります!!!
前書き・活動報告にてお伝えさせていただきましたが、
以下、大切なお知らせです。
本日を境として更新スケジュールの改定を行います。
ご理解のほど、お願いします。m(_ _)m
・スケジュール
改定前:毎日更新
改定後:毎週3〜4話投稿
・目的
「読者様の読後感向上を念頭に、作品品質を担保するため」
(皆様の大切な時間を頂戴してお読みいただくので、ご満足いただける内容にしたい)
・お願い
毎週3〜4話投稿と銘打っておきながら、ゲリラで一日に何度も更新が発生する場合がございます!
これを機に【作品をブックマーク登録いただき、次話を見逃さないようにチェックください!!】
今後、物語は「盛り上がり満載」でお届けできる予定です!
( *´艸`) 和栞さん、笑ってくれてるみたいですねぇ
これからも応援のほどよろしくお願いいたします!




