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【第四章いちゃこら進行中】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第三章「二つの点と一本の線」

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第七十話「司の雨の日(二日目)」

物語のターニングポイントです!お楽しみください!

 

 やっと雨が降る。最高だ。千夏に傘に入れてもらえるのだから。


「明日雨。また、おねがい」


「わかった。六時半ね」


 昨日連絡を入れたとき、千夏は思いのほかそっけなかった。


 こちらとしては願ったり叶ったりでありがたいが、千夏はどう思っているのか気になって昨日はよく眠れなかった。それに思い出が頭を過ってきたから、当時のことを思い出して感慨深かったのも否めない。


 小学校六年生の時。初めて千夏が好きだと思ったのは、自分が馬鹿して公園で怪我をして、膝を擦りむいた時だった。下校中。同じ学区の生徒で集団下校しなければならなかったあの頃。


◇◆◇◆


 家が近所で、他の友達が一人また一人と別れていく中、最後まで千夏と帰り道は一緒だった。


 家の近くの公園で寄り道していこうとなったとき。


 彼女と他愛もない話をしながら、ちょっと調子に乗って勢いよく鉄棒で回った瞬間。


 盛大に一回転半した。


 膝から地面に着地した時には、小石が膝を傷つけた。


「だいじょうぶ!?」


 目の前で起きた光景に恐怖を感じた千夏があわあわとしながら司に走り寄る。


「やっちまったー!あはは!!」


 千夏が駆け寄ってきてくれた時には、司の膝からは血が滲んでいた。


「早く洗わないとばい菌が入るよ?あっち!!」


 少し身長の高い千夏に手を引かれて、司は公園の水道蛇口に引っ張っていかれた。


「こんなの唾つけてれば治るって!」


 足を引きずりながら、本当に唾を付けて治すわけでは無かったが、彼女を心配させたくなかった口が勝手に言った。


「唾は汚い!水道の方がずっとマシだって!!」


 千夏が栓を捻ると蛇口から勢いよく水が出てきて、二人でびしょ濡れになった。


「きゃっ!!」


「わっ!!」


 二人して水の勢いにおされてしまったが、一歩下がった千夏は司に声をかける。


「早く洗って! 絆創膏あるから!」


 司は千夏に従い、傷口を流しながら千夏の方を見る。


 必死に処置してくれようとしていた彼女の顔を見て思った。


 なんて優しいんだって。


 自分が調子に乗って怪我をして、服も濡れていたのにお構いなしに処置してくれようとしていた姿。女の子っていつでも絆創膏を持っているんだと驚いたあの時。


 ベンチに移動して、彼女がティッシュで傷口をトントンと拭いてくれた。


「痛たぁ……」


「悪いのはあんたでしょ!」


 彼女は淀みなく絆創膏の保護シートを剥ぐと、傷口を手当てしてくれた。


「はい!あとは家に帰ってからちゃんと消毒しなよ?」


 そう言い残すと、千夏は司に貼った絆創膏の上から一発はたきをお見舞いした。


「痛ってぇ!!!」


「あはははは!!」


 その時の楽しそうな顔がやけに頭にこびりついて、千夏を女の子として意識するようになった。一回目の告白したのはもうちょっと後。


◇◆◇◆


(なんて幸せな朝だ)


 司は玄関を開けると望んでいた赤色の傘と少女が一人。


「おはよ」


 人通りもない住宅地に千夏の声が響く。雨音をすり抜けて、一言も聞き逃したくない声が聞こえた。


「おはよ。おねがいします」


 妙にぎこちなく声が出てしまったと思いながら、彼女に自分の傘を渡す。昨日、布団の中で思った言葉をいつ言おうかと考えていたからだ。


「んっ」


 口を開けるでもない噤んだままの千夏が喉から声を出し、傘を受け取る。


 千夏は自分の傘を畳む。受け取った大きな傘をばさりと広げ、相手を待った。


「おじゃましまーす」


 待ってくれていた傘に司は入る。


 今日も少し屈んで中に合流すると、彼女の傘を持つ手が高くなった。


 昨日余計なことを考えていたからだろうか。


 もう身長は彼女を追い抜かしてしまった。そんなことを考える。彼女の目線は自分のちょっと下にある。


「濡れてない?大丈夫?」


 少し上目の彼女から声をかけられる。


「大丈夫。ありがと」


 少しドキッとしたが、タイミングは今じゃない。


「いこっか」


 彼女がそういうと二人で歩き始めた。


◇◆◇◆


 彼女はちらちらとこちらを確認しながら歩いてくれた。


 目線の先が怪我をした左腕と傘を行ったり来たりしているので、ギブスが濡れなくていいように気にしてくれていることがわかった。


「頭が濡れないようにしてくれればそれだけで十分だって。それより何かないの?面白い話」


 自分の心配なんかより、少しでも彼女と他愛もない話で通学路を埋めていきたい。


「そういうのはあんたの方が持ってるでしょ?何かないの?」


 むすっとしていた千夏が司に話題を振る。


「昨日さ、思い出したんだよね。覚えてる?あれ」


 司が指さす先は昨日ベッドの中で思い出したその公園。あの鉄棒。


 指さした先を見た千夏が数回、頷いた。


「あんたが前回り失敗した鉄棒」


 少し笑いながら彼女が話してくれた。


 自分が話題にした内容が伝わっていたようで嬉しい。


「そう。めっちゃ思い出した」


「私も人間ってあんなに勢いよく回れるんだってびっくりしたんだから」


 彼女の笑い声が大きくなって、傘の骨が頭を掠める。


「あの時だったんだよなー。千夏のことを好きって初めて思ったの」


「え?」


 彼女が笑うのをやめてこちらを見てくる。


「いやさ。絆創膏なんて普通持ってないんだよ、男って」


「うん」


「だから、スッと絆創膏が出てきた時に驚いたんだよ。俺はそっちの方が思い出に残ってるけど」


「へぇ」


 自分から視線を外して千夏が前を向く。


 話の流れで今なんじゃないかと思った。


「で。今も好きだなぁって思ったって話」


「何これ。私は告白されてるの?」


「いや。伝えとかないと色褪せるかなと思って。忘れられないように定期宣言だな」


 からっと笑った司。


 前を向いていた彼女が言う。



「ちゃんと目を見て言ってくれない?」




「え?」


「今の言葉。やり直して」


 面と向かって彼女が言ってくるので、真意はわからなかったが、こちらとしては嘘偽りなく、今更恥ずかしさの欠片もない宣言だった。


「お前の事、好き」



 少し自分の目線の下。綺麗な瞳を見ていってみた。


 彼女がいきなり立ち止まる。


 いきなりだったので相合傘から外れて、雨に少し打たれそうになった。




 次の瞬間。心が打たれた。




「じゃぁさ……付き合ってみよっか……。わたしたち」

お読みいただきありがとうございました。

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次話更新は明日を予定しております。

(あーーーーっ!!!司くん、唯依ちゃん、マジかっ!!!)


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