第六十五話「宣戦布告 和栞視点」
彼が帰った後、さっそく私は行動に移した。
「唯依さん、時間ある?」
和栞は心して千夏にメッセージを送る。
友人の恋を応援するため、冬川君の元気付けの為、伊織君と考えたんだもん。友達が元気ないなんて勿体ない。あんなに二人は想いあっているのだから。
それと、神様。
伊織君と話してたあの時間も、私にとっては宝物だったし、楽しかった。少しだけ、二人のことを忘れて話していたのは許してくれるかな?お願い。
「のんちゃん!」
メッセージに気が付いたらしい唯依さんからすぐに返信が返ってきた。
いつの間にか「のんちゃん」って言われるようになった。あだ名なんてあまり付けられたことがなかったから、嬉しかったなぁ。
「はい。のんちゃんです!」
和栞は、元気にお気に入りのあだ名で返信した。
「大丈夫だよ?どうかしたの?」
「今から電話できる?大事な話」
「いいよ。準備してこっちからかけるね」
その数分がちょっとだけ緊張した。もう唯依さんには隠し事なんてしてないのにね。
◇◆◇◆
「のんちゃん、おまたせ」
「こんばんは。いきなり連絡してごめんね?」
まずは夜遅くに連絡したことについて唯依さんに謝っておく。明日だって、朝から学校があるのに申し訳ない気持ちでいっぱいだったから、念を吐き出して許してもらいたい。でも、きっと喜んでくれると思ったから、今は早く話を先に進めたいのはワガママかな?
「大丈夫。大事な話って?どうかしたの?」
「うん。冬川君に何かしてあげられないかなって考えてみたの」
「うん……」
きっと唯依さんの事だから、一緒に話したあの日から、自分でいろんなことを考えて悩んでたと思う。返事にも元気がない。
「相合傘だよ!唯依さん!」
自室で電話口から聞こえてきた単語に突拍子がなくて、千夏は焦りだした。
「相合傘??冬川と?」
「そう。相合傘」
「いきなりハードル高いってぇ。のんちゃん……」
少し唯依さんの声色が高くなった。やっぱり、ちょっと恥ずかしいだけ。後押ししてあげたい。
「駄目だよ?冬川君困ってるよ。助けてあげないと!」
「困ってる?」
「腕を怪我してるじゃない?冬川君。きっと、傘させないと思うんだ。そこに救いの手を差し伸べるのが、唯依さんです! 登下校でタイミングが合うときに、冬川君と一緒に行ったり、帰ってあげて。お家近いでしょ?」
「そういうことかぁ~なんとなくわかった。でも、いきなりは恥ずかしいって」
「恋する乙女は待ってるだけじゃダメ。自分からも沢山攻めていかないと!」
「でも、どうやって誘えばいいか、頭の中真っ白になってきたよ?……」
「そこは私に任せて!雨が降る日に唯依さんは冬川君のお家に迎えに行ってあげて?早寝早起きと、朝ほんの少しだけ勇気を出す……だけでいいからね?」
「考えてくれたの?」
「そう。いつだって和栞ちゃんは唯依さんの味方なのですっ」
和栞は慈愛に満ちた表情で千夏に語り掛ける。
「ありがとうのんちゃん」
「無理にじゃないよ?あくまで二人の事は二人にお任せします。後は唯依さんがほんの少し勇気を出すだけ。楽しい夏休みにするんでしょ?」
唯依さんとの女子会で本人から教えてもらった。
せっかくなら「彼氏と彼女」として、今年の夏は過ごしたいと。
その先のアドバイスできなかったけど、私は彼女の顔を見て、早くこの恋は叶えてほしいなって思えた。
「……わたし……やってみたい」
沈黙を挟んだ後、聞こえてきた美麗な意思表示。
やっぱり、唯依さんは正直でいい子だ。
自分の気持ちに素直で、いつも前を向いている。私もそうなれたら嬉しい。
「うまくいくといいね。でも、行動に移すことが大切だから。忘れないでね?」
「うん……」
顔は見えてないけどわかる。きっと甘い顔してる。
恋ってこういうことだと思った。
誰かと一緒に居たい。元気でいてほしい。
大切にしたいって気持ちに気が付いて、前に進んでいくこと。
じれったくて、恥ずかしいけど、まっすくで透明。素敵。
和栞は聞きたかった唯依の賛同を得ると、今度は詳細に達成したい条件を伝えた。
「じゃあ、案を説明するね?よく聞いて」
「わかった」
和栞は伊織と考えた内容を千夏に説明する。
熱心に聞いていた千夏は時々、和栞の説明に笑ったり、感謝したり。
「でも、なんでそんなに朝早く登校するの?」
「唯依さんには冬川君との時間を大切にしてほしいと思ったからだよ?周りに誰もいなければ、目立たないし、恥ずかしくないでしょ?」
伊織の言葉を参考に千夏を丸め込みにかかる和栞。
「のんちゃんは上手くいくと思う?」
確かに唯依さんが不安に思ってしまうのもわかる。
でも、男らしい冬川君が相手なのだ。多分、唯依さんが考えてない事くらい平気で起こるとも思っている。
「最後の一押しを忘れなければ。ね。」
和栞から千夏に声を掛けられる言葉はこれが最後だった。
◇◆◇◆
「雨の日には、千夏さんが司を迎えに行くらしい。それだけ。期待して早起きしろ」
伊織は悪友に、シンプルかつ悟られないように自室のベッドでメッセージを送った。
「は?」
直ぐに返信が返ってきた。寝るには早く、ゆっくりしたい時間だ。
「異論は認めん。頑張れよ」
彼女と考えた案にしてはキラーパス過ぎる気がしたが、今の落ち込んだ司にはこのくらいが丁度いい。
誰もあいつのしょんぼりとした顔なんて見たくないのだから。
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