第六十一話「和栞の共同戦線」(第二章完結話)
第二章最終話です。お楽しみくださいませ!
テストの返却が始まる朝の事。
週末に冬川君が腕を怪我した。教室は朝のホームルームが始まるまで、その話題で持ちきりだった。
和栞は伊織と司が談笑している中で、ふと司の表情が目に入った。
(無理してないかな……?)
そんなことを思った。
同時に、千夏に視線の先を変えると、やはり想像していた姿が目に飛び込んでくる。
他の女子生徒との会話も上の空の彼女が、ひどく心配しているとわかるまで、そう時間はかからなかった。
昼休み。
ちらちらと司の様子を見ている目の前の表情が何よりも気がかりだった。
「唯依さん?今日、放課後空いてる?」
「えっ、大丈夫だよ。今日は部活無いし」
「じゃあ、うちで久しぶりに女子会しよう?二人だけの」
「なーに?」
「秘密っ」
「えーっ、勿体ぶらないでよ、のんちゃん!!」
話始めるといつもの調子だけど、無理しているのも伝わるから、今日は話を聞くのが私にできることだと直感した。
◇◆◇◆
「どうぞ」
「お邪魔しまーす!」
千夏が和栞の家のリビングに入室した。
お客さんとして私の家に何度か来てくれることはあったしお泊り会もしたけど、今日はちょっとだけ、緊張する。
言葉を間違えないようにしなきゃ。
友達の恋を見守る立場だし、そう思った。
「今日はね、唯依さん元気なさそうに見えたから、ゆっくりお話ししたかったんだ」
「私が? やっぱり? ……顔に出てた?」
「周りの人には気が付かれてないと思うけど、私にはそう見えたよ?」
「やっぱり、のんちゃんには敵わないやぁ……」
和栞が用意した紅茶のカップを揺する。
「冬川が大きな怪我するのって初めてなんだよね……」
「うん」
「それで、朝から心配してたんだけど、やっぱり一日中元気なくて。あんなに大人しい冬川見たの初めてだったからさ。余計に心配になってきちゃって。でも、こういうときって、治るのを待つしかないじゃん?それが余計にもどかしくて、どうすればいいのかわかんなくなっちゃって、勝手に落ち込んでたの」
和栞は静かに千夏の言葉に耳を傾けた。
「唯依さんは優しい子だね」
千夏は和栞の顔を見るなり、表情を硬く、目を細めて笑って見せた。
「のんちゃんは何もできないとき、どうやって助けてあげる?」
いつも元気な天真爛漫な少女は、今にも瞳に涙を浮かべて、泣き出しそうな雰囲気があった。
「そうだなぁ……。助けてあげることかぁ……難しいね……。でも、自分の事のように考えて、気持ちを理解してみるかなぁ。不安に思っているなら、少しでも話を聞いて、一緒に考えたいし、解決はできなくても、寄り添ってあげられたらいいなぁって思うかな?」
「落ち込んでるんだもんね……寄り添うかぁ。何かしてあげたいけど、わかんないやぁ……」
「私は小さなことでいいと思うよ?いつもより声をかけるとか、腕の怪我のせいで大変そうにしている事があるなら手伝ってあげるとか。でも、本人に気を遣わせちゃダメだよ?なるべく普通に接してあげて」
「どうして、のんちゃんはそこまで気が回るの?私はそんなこと考えられなかった」
「相手の立場になって想像しているだけ。私がその立場になったらどう思うか、何が大変で、何に苦労して、でも、何をしてくれたら嬉しいか、考えてみるの。もちろん、本人の助けになれているか?って言うことはまた、別の話。本人に聞いてみないとわからないことだってあるからね」
「大人だね、のんちゃんは。今から冬川の為になにかしてあげたいけど、恥ずかしいなぁ」
「素直にならないと勿体ないよ?」
「でもさ、もう三回もフッてるんだよ?今からじゃどうすればいいかなんて、わからないよ……」
確かに、私も気が気じゃなくなると思う。
自分ならどうするか、和栞は考え始めた。
司への好意を普段から度々聞かせてくれる千夏が、過去に行ってしまったことは今の関係性を払拭するにはあまりにも大きな出来事だった。
過去のことは一旦忘れて、手を素直に差し伸べられるかどうか。素直な気持ち一つ持っていたとしても、踏み出す勇気が出るかどうかはその時にならないと私も想像できない。でも、今は迷っている場合でもない気がしたし、客観的に見れば、今の状況を逆に利用できるのではないかな?と思ってしまう。彼女に勢いを与えてあげたい。
「過去のことは今は考えなくていいと思う。困ってるし、助けてあげたいと思ってるなら、今はそれだけを考えて行動すればいいんじゃないかな?きっと冬川君も嬉しいと思うよ?」
度々、千夏から司への好意を聞いていた和栞は、今は彼女の気持ちを汲みながら、寄り添ってあげたかった。
「結局、一度も今日は声を掛けられなかったよ?」
「それも、過去の話。大事なのは、今からどうするか。……だよ?」
「でも……」
「唯依さんは、冬川君にどうしてあげたい?」
「冬川って、落ち込むときほど元気に見せようとするの。私は小さいころから知ってる。あの笑顔は本当の笑顔じゃなくて、無理してる時の笑顔だって知ってるの。いつもみたいに笑っていてほしい。ちょっと調子に乗って笑わせてほしい」
「そうだよね?それだけ。その気持ちを大切にすればいいんじゃないかな?」
「そうなのかな?でも、きっかけ……。まだ、少しだけ、きっかけが足りてないって思っちゃう。大きな事が起こった後なのにね」
「唯依さんは本当は、どうしたい?自分はどうしたい?」
千夏は、真剣な眼差しの和栞を見るなり、過去に数回話題にした言葉に辿り着く。
「いつもの答え。彼女になりたい」
それだけ、本人の感情が前向きなら、大丈夫だと思った。
信頼をしている女の子の友達。
勇気を与えられるなら、私も彼女と応援し合える立場になりたいと、その顔を見て思った。
「じゃあ、私も唯依さんを勇気づけられるように、一つだけ白状するね?」
「うん」
誰にも言ったことがないし、今まで気持ちの整理が出来てなかったから、少しずつ大きくなっていく気持ちを見ないふりしてた。
でも、少しの勇気を与えてあげられるなら、唯依さんには伝えてもいいと思った。
だから決めた。
彼女の背中を押してあげられるなら。
私も素直になりたかった。
私も前を向いて彼女に白状する。
最近、気が付いたこの気持ちに嘘はなかったし、私だけ隠しているのはフェアじゃないと思ったから。
「私ね……」
南波君のこと、好きなの――
第二章(終)
以上、第二章が終了しました。
ここまでご愛読くださいましてありがとうございます。
お互いに前を向いた和栞と伊織。唯依と司。
二組の恋の行方がどうなるかはぜひ第三章でお確かめください。
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次回更新は明日を予定しております!




