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【第四章いちゃこら進行中】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第二章「二人だけの勉強会」

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「休四話(本編後日譚):くらべっこ」

本編のちょっと先。お楽しみください!

「伊織君。右手を大きく広げて前に出してください!」


「え? これでいいの?」


 伊織(いおり)和栞(のどか)に言われた通り、顔の前で手の平を和栞に見せる。


 客観的に見てしまうと何とも滑稽な姿だと思う。前にもこんなことやった気がするなと思ったが、神妙な面持ちの彼女に今はただ、従っておくことにした。


「ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね」


 和栞がそう言うと、自身の華奢な左手を広げて、ピタリと手を合わせてくる。


「大きさ比べです。伊織君も真剣に参加してください!」


 戦う前からこちらの勝利は一目瞭然な小さな手が張り合うように力を入れている。


 和栞の真剣な表情に思わず笑ってしまった。


 伊織は彼女に従ってされるがまま、微笑ましく見守ることにした。


「ズルはいけませんよ? ちゃんと最初からもう一回です!」


 小さな手が離れていくと、今度は手首の付け根から帰ってきた小さな手が、徐々に手の平や指へ、体温と柔らかい感触を連れてくる。起点を合わせてしっかり大きさ比べしたいらしい。


「やっぱり、大きいですね。勝てっこないです」


 そういって微笑みが和栞からこぼれると、次第に手の平に付いた華奢な手の力がなくなっていった。


「成長がもうそろそろ止まってきたように思うのですよ」


 やけに悲しそうにしょぼくれている顔が愛しい。


 伊織は和栞の手を損ねてしまわないよう指先に優しく力を入れ曲げる。


 全ての指の第一関節に届かなかった色白の手を指の腹で包めてしまうほど華奢な手だ。


「ちょっとは大きくなったんじゃない? なんとなくだけど」


「伊織君の手は大きくなった感じがするので、そうなのですかね?」


「このくらいがちょうど心地よいけど」


「それは嬉しいけどね? 伊織君の手、大きいもん。ずるい」


 薬指を一本、ほかの指から引きはがされると、彼女の手が子指を包み込む。


「小指だけで和栞さんと手を繋いでも、指切りしても足りちゃうね」


「えっ……。うーん。やだっ」


 戻るように今度は彼女の両手で右手を捕まえられた。


 どうも離したくないらしい不安な顔を見ていると、抵抗する気力もなくなってくる。


 この顔が悲しみで歪んでしまわないように声を掛けたかった。


「大丈夫だって。逃げたりしないから」


「ほんとにぃ?」


 不貞腐れている彼女の顔もすべてが可愛らしいと思いながら、伊織は頬が緩んだ。


 初めてこの手を取った日のことは、今でも鮮明に覚えている。


 あの時はどんな力でこの手を握ればよいのかわからなかった女の子の小さく頼りのない手。


 か弱いと感じていたが、離れまいと力を込めて、手の取り方を教えてくれた手。


 今では、安心を覚えてしまう温もりのある優しい手。


 素直に彼女の手を取るこの瞬間が、何より幸せな気分を満たしてくれる。


――あの時、深い意味を持たないまま、この小さな手を気まぐれに取った過去の自分に感謝したい。


「つめ。青色? 何色っていうの?」


「パステルのブルーっ! ふふっ、気が付いてくれた!」


 伊織は和栞の爪のおしゃれに目が留まる。


 付け根は血色のいいピンク色をしているが、指先につれて明るい水色になるようにグラデーションのかかったネイルをしている。


 嬉しそうに披露してくれる和栞の姿を見ていると、季節に似合わず身体が火照ってくる。


「学校が始まるまでには落とさないといけないので、この冬休み限定の私ですからね? 目に、よ~く焼き付けておいてください!」


 両手の爪を立てて、こちらに満面の笑みを向けてくる。敵意の一ミリもない猫が引っ掻く一秒前。可愛らしいポースから「シャ~~~」と聞こえてきそうなくらい愛おしい。


「猫耳が見える……」


 携帯を取り出すと彼女もその意味がわかるらしく、髪を整えて、ポーズを作り直してくれる。


「しゃ~~~」


 想像していた威嚇よりだいぶ可愛らしい一枚が伊織の携帯に納まった。


「チェックさせて!」


「駄目だよ、俺だけのもの」


 携帯電話を頭上高くへ掲げると、和栞の身長では届かない。


 ぴょんぴょん跳ねて、携帯を奪い取ろうとする様は、猫とじゃれているようで楽しかった。


◇◆◇◆


「今日は寒くなるから、手袋持って行った方がいいよ?」


「残念ですね、せっかく塗ってもらったのに……」


「さっき撮った写真、何度でも見られるから。ね? 手袋していこう?」


 冷えは乙女の大敵だ。いつの日か、あんな思いをしてしまうくらいなら、彼女が元気な方がいいに決まっている。


――あの時、気が付いた思いも十分、大切なものだったから今となっては感謝しかないが――


◇◆◇◆


「また、風邪ひいちゃうよ?」


「伊織君が温めてくれればいいのでは?」


 二人で家を出ると、すっかり辺りは暗くなり冬の夜空が広がっていた。


 目的地の最寄りの駅まで電車。そのあとはケーブルカーを使って、山頂に行き、イルミネーションと日本新三大夜景を望む道程。


「寒いって言ったら、手袋してもらうからね?」


「なら、帰ってくるまで寒いって言わないようにしますっ」


「心配だなぁ」


「心配性ですよ、伊織君の悪いところです」


「風邪ひいてこれからの冬休みの予定を台無しにしないようにね?」


「クリスマスにお正月に、寝たきりなんてごめんですっ!」


 勢いよく掴まれた右手が揺れる。


 なるべく包んで、温かくしてあげられればいいなと思う伊織だった。


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次回更新は9/1 8:00を予定しています。

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