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【されされ】〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第二章「二人だけの勉強会」

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第三十四話「冬川理沙と千夏唯依の蚊取り線香こと司」

 

 伊織にとっていつもと変わらない日々が再び始まってしまった連休明けの朝。


 教室に着くなり、華やかな雰囲気をあちらこちらから感じていた。

 各自、連休にあったことを語らいあっては笑いが溢れているので、皆にとって良い連休になったのだろう。連休が終わってしまったというのに表情の明るい顔が並んでいる。


 にぎやかな声が次第に大きくなってきた頃、話しかけてくる聞きなれた男の声が伊織を呼んだ。


「伊織、おはよ」

「うっす」


 眠たそうな目を擦りながら司が近寄ってきた。


「流石に、朝早すぎなんだよな。休み明けしんど過ぎ」

「眠そうだな」

「みんなが元気すぎるんだよ」

「それな」


 司との肌感覚は似ている。

 活気に満ちている教室内で、どこか周りの生徒を俯瞰し、けだるさが抜けきらない朝を過ごすにはこの顔しかない。


 司とは連休初日に映画に行ったきりで、その中で本人が言っていた一大イベントについて、それとなく聞いてみることにする。


「蚊取り線香業務はどうだったんだ?」

「伊織……まだ馬鹿にしてるだろ、俺の事」


 具体的な場面を口にしてしまい周りに聞かれても具合が悪いので、ここは気を遣って話を始めたつもりだったのだが、司はどうも気に入らなかったらしく小突きが飛んできた。


「心配して聞いてるんだよ」

「おうおう。それは友達思いなこった……」

「まあ、話を聞いて、笑いたいだけだったんだけどな」


 さらに失礼を吐いた伊織を、やれやれと言わんばかりの呆れた顔で見た司だった。


「無難にこなしてきたよ。俺がいるからって二人とも気を遣えばいいのに、途中から完全に執事状態でしたとさ」

「ないものにされてたのか? 笑えるな」


 基本的に司は優しい性格をしているので、自分ができる限りのことは断りを入れずに、承諾を繰り返したのだろう。まして、この弟にあの姉ありなはずなので、理沙の要求にも東奔西走、振り回されたに違いなく、不憫に思えて笑えて来る。


「ひたすら荷物持ちは想像してたけど、流石に女の買い物は長すぎた。マジで一日潰れた」

「ほったらかしにされたのが目に浮かぶな」


「女二人で盛り上がる、盛り上がる……。終いには、俺に待機を命じて下着を見に行く始末だ。参ったもんだぜ、全く」


 言葉では憂いを発している司なのだが、その表情は想像していたよりも晴れやかな様子がうかがえた。


「得られたものもあるんじゃないか?」

「そうだな、最初の方は姉貴も面白がってたから、それなりに楽しかったぞ。よく言うあれだ、二着並べてどっちがいいかな~ってやつ」


 司は伊織の前で両手を交互に上げ下げし、正面に当てて見せるので、伊織も司が言わんとしていることが理解できた。


「理沙さん何着ても似合いそうだな」


 司は周りを気にしてきてこちらに小声で話しかけてきた。


「違う、千夏のやつだ。姉貴が千夏を着せ替え人形にして遊んでたんだよ。調子に乗って全ての分岐で俺に聞いてきやがった」


 おそらく、千夏本人に聞かれまいといった行動ではないことに察しがつく。これまで何度か言葉にして千夏へ好意を伝えている司であるので、今更隠すものなど何もないだが……。


 これはおそらく周りに感づかれないようにするために取った行動だろう。


 千夏に対してライバルは多いはずなので、むしろ声を大にして言う方が他の悪い虫を寄せ付けない予防線になるのではないかと思ったが、司の不用意に敵を作らない性格が透けて見えてきたので、余計なことは押し黙った。


 目の前の司は光景を思い出しているのだろう。

 先ほどまでの冴えない寝起きの顔からいつもの爽やかさが戻ってきた。



「ほう。それはお前なりに思うところがあったんじゃないか?」

「それはもうな。俺好みにひたすら誘導できた。二勝三敗です。隊長」

「うむ。これは大きな勝利だ。良くやった」


 珍しく、伊織は司のことを褒めるのであった。


 司にとって、これが大きな一歩になったかと言えば、千夏本人に聞いてみなければわからないのだが、客観的に見ても理沙に助けられ、自分が好意を寄せている女性の仕立てを任され、賛同を得たということは悪い話ではない。


「でも、さすがに服だけ。下着選びまでついていこうとしたら千夏が顔真っ赤にして姉貴の後ろに隠れてた。姉貴があんたはここまでだってさ。つまんねえ」


 女性同士の秘め事もあるだろうにと伊織は思うところがあるのだが、真剣な眼差しで話題を寄こしてくるので、本当に彼女達についていく気が司にはあったようだった。


 想像の範疇だが、伊織はそんな司の性格が丸く収まってくれば、千夏が振り向いてくれる日も遠くないなとしみじみ思うのであった。


「そういうところだぞ。今度はお前が調子に乗りすぎたんだな」

「千夏のあの顔が見られただけで俺は満足したから、良いイベントだったよ」

「ホント、お前は千夏さん好きだな」

「違う。大好きだ」

「そうだったな」


 相変わらず、千夏への気持ちを清々しく言葉にする司。


 寝ても覚めても千夏と言ったところの司は、千夏のどこに惚れたとかそういう話をたまにしてくれるのだが、ここまで突き動かす好意は相当のものなので、今まで失礼ながら聞き流していたそのような話に、これからは真剣に耳を傾けてやろうと心を新たにした。



◇◆◇◆



 授業再開は仕方がないものとして、これから先すぐに中間考査が始まる。

 点数取りに躍起になる日々が始まるというのに、連休明け初日は流しというか、慣らし運転というべきか、連休気分がどこか抜けきらない周りの様子が見て取れた。


 伊織は授業が始まってからもそんな浮ついた雰囲気の中でひたすらに時間が流れていくのを感じていた。



 連休前に比べて、伊織の中にはある変化が生じている。

 それは、然るべきことなのだが、後方の自席から和栞の姿を以前より目で追うようになったということだ。


 和栞は今日は黒髪を普段より高い位置で束ね、簡素な青のヘアゴムで束ねてある。


 休み中は実家帰省のお土産をいただいてしまったり、勉強のため、和栞の部屋にお招きされた伊織であったが、髪を下ろしている姿を見慣れてしまっていたので、逆に今の束ねた髪の姿も新鮮な気分になった。


 凛々しいまでに姿勢を正して崩さず、教師たちの説明に集中している姿は、昨日彼女の口から聞いた目標について、その言葉に恥じぬような意識を体現していた。


 こちらとしても昨日の宣言通り、良きライバルになれるように、まずは目の前のテスト対策に取り組むスイッチが入っているので、周りが気を抜いている間に、やるべきことはやっておく必要がある。


 教師たちが口々に「ここ、テストに出るかもな」と口を滑らせる瞬間を逃すまいと、メモを取る伊織であった――


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次回更新は8/21 8:00を予定しています。和栞さん回です。

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