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【第四章いちゃこら進行中】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第一章「出会いと二つの契り」

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第二十七話「悪戯な和栞からの置き土産」

 

 土産を和栞から受け取った後のこと。


「ゆっくり家族水入らずできた?」

「ええそれはもう。ショッピングに、妹とお菓子作り。ほかにも、時間がないとできないことをこれでもかー! とやってやりましたよ」


 余程楽しかったのだろう。

 和栞は表情をほころばせている。


「そりゃ良かったな」

「父にも久しぶりに会えたので、いつもの週末の帰省より特別でした」

「普段お父さんは家にいないの?」

「海外に単身赴任中なので、連休くらいにしか家に帰って来られません」

「へえ、月待家はワールドワイドなスーパー家族なんだな」

「わーるどわいど? ですか?」


 和栞は首を傾げ、伊織に視線を向けてくる。


「だってそうだろ。海外で仕事中の父に、一人暮らし中の娘。この連休中に一同終結となれば、映画みたいだなと」


 ふふっと笑って和栞はおかしそうにしている。


「なにか悪い影響受けてませんか? そんな大層な話ではないと思ってましたが」


 ありきたりだと彼女は言いたいのだろうか……。

 娘をおいそれと一人暮らしさせる親がこの世にいてもらっても困る。


「いや、女子高生を一人暮らしさせるなんて、俺が父親なら心配だと思うけど」

「普通はそうかもしれませんね」

「やっぱり普通の家族じゃないな」

「いえ、私もたくさんお願いしましたので」

「沢山?」

「そう、たくさんです!」


 彼女と家族との間ではこちらにわからないような話し合いが重ねられたのであろう。


 だが、彼女なりの考えもあって今の生活を勝ち取ったことも想像できる。

 浅はかな憧れや願望ではなく、計算されつくした話術がそこにあるような気がした。



「その交渉術に興味があるな」

「父は私に甘いので、主に苦労したのは母の説得でしたが……」


 彼女の父は彼女に対して甘いらしい。

 傍から見ていれば、なんとなく意味を察することも容易いが……。


 この笑顔に懇願を求められれば、世の中の男は首を縦に振ることしかできないことは、例え育ての親でもあっても変わらないだろう。


「家族会議の勝因は?」

「まず、父を味方にして、母を口説き落としてもらったことです。母は父が大好きなので、父の決定には従います。それを利用しました」


 ニコッと笑う和栞を見て、伊織は「女って……怖ええ」と思いながら、話に耳を傾ける。


「母が私の一人暮らしに反対した理由は、危ないからという話ももちろんありますが、私を家から出したくなかったようです。お恥ずかしながら、本気で離れるのは嫌だ嫌だと泣きつかれてしまいました」


 苦笑いでこちらに話してくる和栞は、懐かしむような表情で当時のことを語ってくれた。


「珍しいお母さまだな」

「そうですね、唯依さんをそのまま母親にしてしまったような人です。だから唯依さんとも仲良くなれたのかもしれないと思うほど、そっくりです」


 千夏はベタベタ癖があるが、それが大人になってしまう姿を想像するに、相当和栞の母親も厄介者だなと感じて、伊織は表情が緩んだ。


 自分が思っている以上に美少女の家族仲は良く、故にこの少女ありと言ったところだ。


「落としどころはどこだったの?」

「私が花嫁修業できることと、通学に時間がかかることと、病気せずに……元気に過ごす事が出来るなら、との許しを貰ったことですかね?」


 なんとなく含みを持った言い方で彼女が発したものだから引っ掛かりがあった。


 和栞は立ち上がり柵の方へと歩き始める――

 彼女の表情から今の言葉の真意をうかがい知ることができない。



「まさか、不治の病を患っているとかでは……」

「ないですね。この通りピンピンしているから大丈夫です」


 和栞は振り返るなり、即答。

 

 手をぐっと握りこちらに元気をアピールしてくる。

 実際に病に侵されていたとしても、彼女のアピール通り、眼前の少女は元気なので反応に困る。


「伊織君はすぐ悪い想像に話を持っていきますね。悪いところですよ?」


 「天は二物を与えない」という言葉が彼女には通用しないようだ。

 とはいえ、彼女の場合、容姿の良さは天から授かったものであろうが、それ以外のところ、学力や運動能力その性格などは、彼女自身で後で身に付けていったものであろうから、この言葉を引き合いに出すことも憚られる伊織なのである。


「何も不調がないならいいけど」


 伊織が安堵した様子をみて、和栞が付け加える。


「でも、そういうところが良いところでもあるので自信を持ってくださいね?」

「今しがた、悪いところだと言われたばかりだったんだが?」


 先ほどまで責められていたような感覚に陥っていたのに、今度はいきなり彼女がこちらを褒めてくるものだから、その言葉が理解できなかった。


 和栞は伊織に顔を向け、伊織の理解が追いついていない顔を見ながら静かに口を開いた。


「常に悪い想像ができるというのも、優しさの一つだと思うのです。他人を尊重したり、心配して痛みを察することができるから、頭に浮かび上がるようなことでしょう? 想像力が豊かであるということは優しさに繋がるし、私もそうでありたいと思うのです」


「本当になんというか、ポジティブに生きてるな」


「えへへ。なので、悪い想像も気に病む必要なないはずです。人生一度きりなので、伊織君も前向きでいないと勿体ないですよ。ここ、テストに出ますからチェックしておいてくださいね?」


 こちらに笑顔を滲ませるその姿はなんとも誇らしげだった。




◇◆◇◆




「伊織君は連休課題、終わりましたか?」

「釈迦に説法だな。連休が始まる前には終わらせてたけど?」


「それはえらいですね。中間考査もバッチリなことでしょう」

「テストと課題の消化は別の話として切り分けような。今日はたまたま、課題とは別に復習してた程度だけど」


「明日も勉強ですか?」

「まあ、ほどほどにって感じかな」


「私も宿題は終わっていますが、家に籠って一日中復習の予定です」

「えらいじゃん」



 なにやら一瞬考え込んだ和栞が次の瞬間発した言葉――

 伊織はその晩、頭を抱える羽目になった。




――「どうせなら、うちで一緒に勉強しませんか?」




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ところで、、いったい何を考えているんだ、、和栞さん???

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