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【第四章いちゃこら進行中】『されされ』〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第一章「出会いと二つの契り」

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第二十話「休日のおうまさん」

 

 伊織は家を出て、待ち合わせ場所へと続く公園の階段を上る。


 時刻は正午の十分前。


 階段の頂上で空を見上げると、蒼の色に、風向きと同じ方向に流れる雲がちらほら見える。

 澄み渡る空を眺めるよりも、遠くの方で雲が見えていた方が天気としてはリアリティがあり、好みの空の姿だった。


 連日の雨を感じさせない晴れやかな空は、絶好の行楽日和。


 伊織は、待ち合わせ場所の高台を目指し歩みを進めている。


 普段、和栞が腰掛けている長椅子の方を覗くとそこには彼女の姿がなく、少し先の方で景色を眺める少女がいた。




 今日は、休日恒例となった黒の長髪を風に遊ばれている柔らかな雰囲気の和栞とは違い、普段学校で見る、束ね髪の姿がそこにはあった。


 帽子の後ろから束ね髪をたらし、細身の身体に似合うパンツスタイル。

 露出も極力抑えてある。ボーイッシュな、いでたち。



 こちらが持つ彼女の印象がガラッと変わる。


 遠目から見る分に普段の様子と似つかわしくないので、和栞本人であるか若干迷いが出た伊織であったが、近づくにつれ迷いも薄れてきた。


 脳裏に焼き付いている美しい黒髪を持つ少女など、この町……。

 とりわけ誰も立ち寄らないようなこの場所には思い当たる人物は、ただの一人だ。



 伊織の近づいてくる気配に気がついた和栞は、くるりと向き笑顔で声をかける。



「伊織君、こんにちは! お待ちしていましたよ」

「おはようからこんにちはまで、光栄だな。雰囲気が違ったから一瞬迷ったよ」

「似合いませんかね? この格好……ピクニックですし、日当たりを考えてのコーデです!」


 不安そうな表情でこちらに意見を求めてくる。


 似合っていないわけではなく見慣れていなかっただけに過ぎないのだが……。

 はっきりと意見を求められると、気恥ずかしい思いがした。



「いいや、普段見ないだけで面食らっただけだよ。いいんじゃない?」


 伊織が返答をよこすと、和栞は露骨に膨れた顔をする。



「何がいいかはっきりしてくれるまで、お昼ご飯は抜きですね!」


 どうやらこの美少女は、ファッションセンスについても言葉に出してほしいタイプのレディーらしい。




「美人は何を着ても負けず劣らず、引き立つんだなと思いました。許してください」

「ありがとうございます。上出来ですっ」


 彼女は返答に満足してくれたのか、及第点くらいは貰えたらしい。

 昼ごはん抜きを免れた。


 この調子で点数稼ぎできるほど口が達者ではないが、彼女の髪型に違和感を覚えた。

 気が付いた変化は口にしようと思う。




「今日は髪下してないんだ?」

「食事中に風が吹いてもうっとおしく感じちゃうので。これなら大丈夫でしょう?」



 彼女は頭を振ってゆらゆらと、こちらにポニーテールを披露している。

 馬の尻尾と名の付くこの髪型に、幼少は「何で馬なの?」と不思議に思っていたが……。

 つい目で追ってしまうくらいには好みの髪型だった。



 優雅さと気品を持って髪は風に乗っていくし、見ているこちらの目が奪われてしまうほど情景の美しさたるや、目の前の少女が持つ尻尾にも当てはまった。



「なるほど、理にかなっているな」

「髪を食べちゃうのに比べれば、楽ですね」


 束ねた髪の毛先を掬うなり口の前に持っていき「ぱくぱく」と仕草を見せてくる。


 口に触れているわけではない。

 彼女は説明を入れながら、髪の毛先を確かめたり透いたりしながら、いかに長髪には気遣いが絶えないかを伝わる説明がしたいらしい。



 例え、頭の上の方で一つに束ねようが、和栞の髪は腰のあたりくらいまで達するほど長い。

 風に(なび)くことに変わりはないだろう。

 その姿を見て「たかだか一つに結んだだけで、本当に効果があるのか?」と疑問に感じてしまったが、自分自身はもちろん長髪の経験がないので、伝聞した情報を飲み込む他なかった。



 長髪には美しさを保つため、それなりの対策や手入れが必要なよう。

 彼女の気苦労を察すると、先ほどの疑問は一旦飲み込んで、「へぇ」と一つ、ため息をつく。



「お腹すいてますか?」


 話を戻した彼女がこちらに問いかけてくる。


「そりゃもう、万全の状態でやってまいりましたので」


 伊織はお腹辺りを擦って空腹をアピールすると、和栞も柔らかな笑みで問いかけた。


「朝ごはんはちゃんと食べたのですか?」

「いや」

「その様子だとそうだと思いましたよ、全く」


 和栞の少しばかりの疑念だったものが確信へと変わってしまい、残念そうな呆れ顔を伊織に向けてさらに続ける。


「朝ごはんは脳の働きを活性化させるためには必要不可欠ですからね? ちゃんと召し上がってはいかがですか?」


 本気でこちらの身体に労りを入れている様子。

 わんぱく坊主を窘めているような彼女の物言いは、こちらが悪いことをしてしまっていることを暗示させる、妙な説得力があった。



「なんか、前々から思ってたけど、母親みたいな言動……?」

「口うるさいって意味ですか?」

「いや、そうは言ってないけど……」

「そういうことはご自身で非のない行動をしてから言うべきですよ」

「そういわれてはぐうの音もでません。すみませんでした」



 率直な指摘を受けて気負けしてしまった伊織を見て、仕方のない人ですねと笑っている和栞。

 笑みをそのままに、伊織に近づいて、長椅子に置いてあった荷物に手を伸ばす。


「お昼ご飯にしましょうね」

「待ってました」

「準備しますから、横に腰掛けてお待ちくださいね」



 晴れやかな青空のもと、二人だけの野遊びを始めた――


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