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【されされ】〜超ポジ清純ヒロインな和栞さんにしれーっと、美少女に夢を見ない俺の青春が、癒されラブコメにされた件〜  作者: 懸垂(まな板)
第一章「出会いと二つの契り」

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第十九話「雨雲の切れ間と心の晴れ間」

 

 春の連休前最後の週末。


 この週末の二日間は五連休に比べてみればおまけのような休みになるはずだった伊織にとって、この一週間やけに落ち着かない日々が続いていた。


 それもそのはず、先週末。

 街案内を終えた伊織に和栞の方から「ピクニックしませんか?」との打診があった。


 今週の平日は雨続きで、よもやこの誘いはお呼びでない雨雲によって、白紙に戻るのでは?とやきもきしている自分がいたので、妙な胸騒ぎを感じていた。




 お誘いしてくれた彼女の立ち居振る舞いについて、普段から欠点はない。

 誰の目から見ても好意的に映っている。


 悲しいことに、彼女と性別は違うために周りから見ると、仲のいい二人と言う関係以上の疑いを掛けられても仕方ない付き合いである。


 身の潔白を証明したい伊織は、和栞については新学期早々にできた異性の友人で、それ以上のものではないと心の平穏を辛うじて保っていた。

 だが、流石に異性の友人からもてなしを受けるといった体験も、人生の中で早々に起こることではないのでは?と感じて、少しばかり意識と期待をしてしまう心があった。


 今週平日の雨続きの中。

 天気を司る神と打ち合わせをしたかのような、雨の切れ間を見せてくれた今日の天気。

 自分に味方してくれているようだ。

 朝起きて自室のカーテンを開けた時から心が晴れやかなのは、正直に飲み込めた。



 クラスで一番の美少女の手料理を食べられる機会など、学生身分を終えてしまえば、今後一生来るはずないと思っているので、今日は良い思い出になるなと前向きに思う。



 朝起きて、顔を洗って休日朝のルーティンであるコーヒーを入れながら、何気なく自分の携帯を手に取る。まだ目覚めていなかった朝早い時間帯にメッセージの受信があったようだった。


 送り主はこの少しばかりの心の晴れ間を作り出している、月待和栞からだった。



「おはようございます。晴れてよかったですね! 今から準備するので、正午丁度にいつもの場所で待ち合わせでいかがでしょうか?」


 もとより彼女とは、もし雨であったら中止しようと話をしていたので、本日決行の便りは内心嬉しくあるメッセージであった。



「おはよう。今起きたところ。十二時に高台ね? わかった」


 軽く返信を済ませてから、リビングにあるソファに腰掛けテレビをつける。


 惚れた腫れたとかそのような言葉にするつもりはないのだけれど、どうして彼女がここまでのもてなしを用意してくれるのか、正直わからない。


 勘違いを犯すほど自分も浅はかではないと思いながらも、彼女が平然とやってのける行動の数々には男心にグッとくるものを感じており、おそらく普通の男子高校生ならばコロッといってしまうだろうにと、美少女の素行の良さに畏怖(いふ)を覚えていた。




(どうしたら、あんなアイドルみたいな少女に育つのだか……)



 彼女をアイドルと形容するには何ら不思議ではない。


 彼女が落ち込むような姿をこれまでに見たことは無かったし、口を開けばこちらを褒めたり励ましたり、前向きで嬉しくどこか晴れやかな気持ちにさせてくれることが多々あった。



 容姿は完璧。愛嬌もあり、誰からも好かれるような明るい性格であるので、目前のテレビに映って今ぼんやりと眺めている、売り出し中の新人アイドルと何ら変わらないと思ってしまうほどの存在だ。




 アイドルは朝の情報番組の中でコメントを求められ、少し抜けたような物言いは周りを和ませていた。

 もちろん彼女たちの中にも不安や葛藤、苦悩といった人間が一般的に持ち合わせるような負の感情を持っているのだろうが、笑顔を振りまいている瞬間には、その裏を見せていない。



 一般人の和栞に対してもその印象は当てはまる。

 ポジティブを具現化したようなその裏で、こちらには見えないところで悩みがあるはずだ。



(そりゃ普通の女の子だもんな)



 実際に一人暮らしをしているとの彼女は、きっと自分とは比べ物にならないくらい日々の心労が尽きないはずなのに、学校や友人の前ではその疲れを一切見せない。

 あの華奢な身体のどこに、その苦労を耐えうるスタミナが搭載されているのか、不思議でならなかった。




(まさかとは思うが、悩みなんかなかったりしてな)



 そんなありもしないようなことを考えるくらいには、彼女が持っている明るさの根源を突き止めたいと思っている。

 どこからそのポジティブは生まれてくるのか、できることならあやかって自分にもお裾分けしてほしいくらいだ。




(爪の垢を煎じて飲みたいとはこういう時の言葉か……)



 衛生観念上、本当に言葉の意味通りをいくわけではなくもちろん、過去の先人が残した言葉の一つ。

 比喩表現であるに変わりないのだが、妙にしっくりくる表現であるなと伊織はしみじみ思うのであった。




(まあ、そんなことに近いような気がするな、今日は)




 まだ、覚醒を促せないままであれこれと考えていた脳に、口をつけられるくらいの温度のコーヒーが目覚ましの合図をしていた。



 短針が挿す数字は十の文字。


 和栞との待ち合わせの時間にはまだ時間があったが、何か口にすると腹を膨らませそうで勿体なく、お昼の当てがある伊織は朝食をこのまま取らないことにした。


 思い(ふけ)り、心を整理するこの時間も、伊織には心地の良いひと時だった。




良かった。晴れてよかったね、伊織。。

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