第百六話「冷たいサプライズと涼しげな探検」
「こんなものを用意してみましたぁ~」
キッチンからぱたぱたと帰ってきた和栞さんが、うっきうきで顔の前にハの字に掲げているものは、いちごシロップと練乳。
「助かりますっ! よっ、月待っ!!」
司が和栞に煽てて呼びかけると、和栞は「えっへん」と聞こえてきそうな顔で、サプライズの成功を確信している。
この二人を突き合わせてしまったのはほかでもない自分だったが、自分を差し置いてキャッキャとはしゃいでいる二人の顔が案外気持ちのいいものだなと思った。
「クールダウンしながら、どこに行くか決めましょう!」
和栞はそういうと、またキッチンへ消えていく。
どちらかといえば司や唯依よりこの部屋で客人気分の抜けている伊織は、そそくさと「手伝ってくるからゆっくりしてて」と、その場を離れると、和栞のもとへ行く。
「和栞さん、手伝うよ?」
「ありがとっ。じゃあ……氷を削るのお願いしますっ」
「任されましょう」
「ふふっ」
「楽しそうだね、和栞さん?」
「うんっ!」
明るく答えてくれる彼女の笑顔が眩しかった。
◇◆◇◆
目の前に並んだ四つのかき氷――
後先考えずに贅沢にシロップがかかって、負けじと練乳が赤に覆いかぶさり、陣取り合戦で張り合っている。自宅でしか味わえない豪勢な配分で作られたかき氷を突きながら、四人は考える。
「俺さ、プールは一旦置いとこうと思うんだけど、どうよ?」
司が神妙な面持ちで続ける。
「何というか、俺たちだけでもモノレール乗ってりゃ行けるし、何より……そういうのはそれぞれ二人の方が、最初はいいのかなって思ったんだけど……」
「珍しくどうした、女々しいな……」
かき氷の器に隠れるように、自信なさげに言葉にしている司を見て、意味が理解できない伊織は問いただす。
「伊織だって……彼女の水着は……最初はひとりじめ、したいだろ?」
「!?」
そういうことかと合点がいくと、流石に和栞さんの方を見れない。
プールで過ごすともあれば、普段露わにならない魅惑的な場所だって、彼女は白日の下に輝いてしまう。否が応でも目のやり場に困ってしまうし、心が踊ってしまうのは避けられない。
「やー、えっち」
冷めきらないが、棒のような声と視線で司と伊織に圧力をかける唯依。
司から離れるように移動すると、和栞の背後を取る。
「ちょっと気にしたんだって、それだけだよ……」
視線の片隅に物珍しそうな表情で見つめてくる和栞さんがいる。
絶対に目を合わせてはいけない。和栞さんの水着への期待を悟られてしまうと、後々大変な目にあうのが想像できるのだから。
「のんちゃんと新しい水着買いに行こって約束してたけど、まだ行けてないから私たちの準備も出来てないしねぇ。賛成ではあるけど」
そういうと、唯依はいつものように和栞に後ろから抱きしめて離さなくなった。
「そ、そうですねっ。水着は新しいものをしっかり用意したいので、今回は違うところで考えてみたいですねっ??」
「そっ! 私とのんちゃんで悩殺水着を用意しておくので、後でのお楽しみにしておくといいよ、男子諸君っ!」
「!!??」
確かにこんな天使みたいな人が水着姿で駆けよってきてくれたら、自分はものの数秒でプールサイドに沈んでしまうかもしれない。
だが、夏のイベントに甘えて和栞さんの水着姿がいつの日か眺められるのであれば、邪な気持ちを差っ引いて考えてみたとしても、プラス勘定だ。
「ちょっ、唯依さん!!??」
「いいじゃん、のんちゃん! 南波くんも嬉しいでしょ?」
「そこで俺に話を振られても……」
「嬉しいの!? 伊織くんっ!?」
和栞さんと過ごせればなんでもいいのだが、男として期待してしまうものがあるのもまた事実なのだ。
素直に目を瞑って、深く頷いておこう。
「えっち」
珍しく和栞さんがジト目でこちらを見てくる。
「男はそんなもんだって」
司からフォローが入ったのが何よりの救いだった。
「でも、頑張ってみよう? 唯依さん! お互いに二人を“いちころ”にしましょ?」
「あーあ、南波くんの寿命縮まるなぁ……可哀そうに……」
唯依はそういいながら、和栞の言葉に承諾をスキンシップで返す。
後ろから千夏さんに抱かれ、頭を撫でられながら不敵な笑みを浮かべる和栞さんは悪いことを企んでいるらしい。
今から動じない精神を身に着けておかねばと気を引き締めた伊織だった。
「で、でもさ! 涼しいところ行きたいよなぁ? 外に出るのも億劫なくらい暑いし」
これ以上乙女に当てられていては伊織の身が持たないと思った司は、話を振り出しに戻す。
「涼しいところ……結局、海とかプールになっちゃわないかなぁ……」
伊織は唯依の言葉に連想して考えてみた。
(水辺……、冷たい……)
一瞬の静寂が四人を包む。
(あっ、確か……濡れるよな?……いいとこあんじゃん)
「鍾乳洞……とか行ってみる?」
伊織は一案を口にした。
「あー。平尾台のやつ?」
司が伊織の意見を掘り始める。
「そうそう。小さい頃に行ったっきりだけど、涼しいし、足元はプールみたいなもんじゃない?」
「なに? 私たち、鍾乳洞で水着着させられるのっ!!??」
「きゃ~~っ!!! あははっ!!」
楽しくなってきている女子二人がいちゃいちゃしながら、暴走してしまっている。
全く……明るい美少女たちは混ぜるな危険だ、覚えておこう。
伊織は唯依と和栞の言葉に「我関せず」を貫いて、司と話を進める。
「理沙さんが車出してくれるならいけない場所じゃないかなと思って」
「いいね、確か近くにバーベキューできる場所なかったっけ? 海じゃないけど大自然のド真ん中で、スイカわりとかいかがですかね?」
「だってよ、和栞さん?」
「さんせ~いっ!」
和栞さんは右手をグーにして、「おー」と掲げてくれた。
「だいさんせーいっ!」
唯依は和栞の背中に貼り付いていた顔をひょこっと出し、左手をグーにして同じことをする。
二人からコミカルな返事を貰えたので、もうほぼ決まりかけた予定を整理する。
「じゃあ、洞窟探検からのバーベキューからのスイカ割りでいかがですかね……?」
『さんせ~い!』
最早考える気もなくなった三人から、明るい言葉が飛び出してきた。
「決まりね? じゃあ、お二人には水着姿でスイカ割りしてもらうということで……」
「や~ぁ! 伊織くんのえっち!」
和栞さんが楽しそうに笑い、司と唯依の笑い声が続いた。
自分の冗談が不発に終わらなくてホッっと一つ、胸をなで下ろした伊織だった――
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