第百四話「呼び捨て・さん付けの境界」
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「月待さんの顔見るまで伊織が何言ってるのか、正直信じられなかったわ……」
クルクルと手際よくたこ焼きをひっくり返したり、突いたりしながらしみじみとした物言いで、司が話した。
唯依は司の言葉に驚きを示す。
「えええ……。司はな~んも見えてないよねっ? 私の目からは南波くん……のんちゃんに向ける目が優しすぎて、気がつかない方が無理だったって」
「そうなの?? 俺は唯依しか見てないから、全く気がつかなかったな~」
「そ、そういってくれるのは嬉しいけどね……少しは恥じらいっていうのを持ってもらわないと、私、人前で困っちゃうからねっ???」
俯いて次の言葉が出ないでいる千夏さんを見る。
「伊織ぃ、うちの彼女……可愛いだろ?」
唯依の嬉しさとこっぱずかしさが混ざり合った顔は妙に新鮮で伊織は思わず頬が綻んだ。
和栞から伊織の事を好意的に思っていると聞いて以降の唯依は、静観して応援する立場を貫いていた。
まさか和栞の意中の相手が伊織とは思わなかった唯依だったが、二人で女子会中に急に打ち明けられたあの日から、伊織と和栞の様子を気にかけて観察していると、伊織の和栞に対する好意も一目瞭然だったという。
「そんなに顔に出てた?」
司に応戦する形で竹串をもってホットプレートを突いていた伊織は、軽く唯依に聞いてみる。
「もう……ね、あふれ出ているオーラ? 視線が優しさの塊って感じ? 勝手にキュンキュンさせてもらってました。ごちそうさまでしたっ」
頭を下げて唯依は伊織に感謝を表明する。
「お粗末様でした……」
「私は嬉しいですよ? 伊織くんが大切にしてくれるので、感謝しっぱなしですっ」
とりわけ皿の用意を始めた和栞さんが明るい言葉を寄越してくる。
「和栞さんにそう言ってもらえるのであれば、俺は本望なんだけど……」
すると、司と唯依はゆっくりと顔を見合わせて、すぐにくすくすと笑い始めた。
「なんだよ?」
「いや。お互いが下の名前で呼ぶのに、全く迷いがなくて……」
「っ!?」
「はへぇっ!?」
変な声を出して驚いた和栞さんの顔を慌てて見る。
そういえば二人でいるとき限定で、下の名前を呼んでもらっていたけど、そう呼んでくれだしてからは久しいので、和栞さんの口から「伊織くん」と呼ばれることになにも不思議に思ってなかった。
「しかも、月待さんのことは、さん付けなんだ? 伊織は」
「うっせぇ。敬意を込めてだよ、敬意」
「え~。のんちゃん大切にされてるなぁ、いいなぁ……」
「ひぇ!!?? わ、わたしは気を遣わずっっ、呼び捨てにしてくれてもいいんですけどねっっ??? 伊織くんにお任せしています……」
何やら物欲しそうに和栞さんが見つめてくるものだから、何か間違ったことをしているか?と思いながら、焦って視線を逸らし、ジュージューと煙が立っている生地の世話をする。
「女の子ってね、男の子に自分のもの! ってされるのは、案外嫌いじゃないからね? 南波君もちゃんとのんちゃんの事が好きなら、気を遣わなくていいと思うよ??」
「そうなの?」
伊織は、唯依と和栞を交互に見るように、自分の知らない乙女心を学んでみる。
「さん付けじゃなくて、呼び捨てにされたいって願望は……ありまぁ……っす……」
最後まで本当の事を言おうかと悩んだ和栞が、ちょっとの勇気と勢いを胸におねだりする。
和栞さんが息を詰まらせて、視線を合わせてくれずにぎこちなく進言してくるものだから、全く想定に及んでいなかったと少し反省した。
たまに「和栞」って呼んであげようかな……呼び捨てで――
「でも、唯依……唯依さん……? さっき、あなた、さん付けで呼ばれたいって顔、しませんでした??」
「司は気にしなくていいの!」
そういうと、司の手から竹串をひょいっと奪って、プレートを突きだす。
「女の子はコロコロ気持ちが変わるんだからっ、ちゃ~んと覚えておきなさいよねっ。雰囲気が大事なのっ! わかった!!??」
そういうと唯依は綺麗にできた一個に竹串を突き刺し、少し息を吹きかけて冷ましながら――
唯依は、恥ずかしさをごまかすように司の口元へ出来立てのたこ焼きを持っていく。
司は後先考えず、目を輝かせてパクっと一口で頬張ったものだったから、「あっ、やべっ……」と危機感で身体が硬直する伊織だった。
「はぅっ!!!!!!!!、んっ!!!……ほっ、ほっ……!!!!」
司は涙目で口の中と格闘し、コップをバタバタ指差して、今求めているものが水分であると主張してくる。傍から見ていても、火傷寸前なことくらい一目瞭然だった。
すかさず、和栞さんが司にお茶を渡してあげた。
良く仕事ができる彼女さんだ……なんて思いながら焦りに焦っている和栞さんの顔に見惚れてしまった。
みるみるうちに一杯を空にしてしまった司を、背中を優しくさすりながら、介抱してあげている千夏さんは満面の笑みで笑っている。
なんて罪なお方だ。
「火傷するって!!! ちょっと、唯依!!??」
司は身をよじって、胃の中で業火を燃やすたこ焼きを鎮静化させることで手いっぱい。
「ちゃんと焼けてた?? さっ、食べましょ~っ!」
「うふふっ」
その様子に口元に手を添えて楽しそうに笑う和栞さんと、先輩カップル二人の様子を交互に見ながら幸せに浸った。
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