第百二話「悪友への交際報告」
「何だよ、急にあらたまって。彼女でもできたか?」
「……!?」
司を呼び出して、久しぶりに遊ぼうと画策していた伊織は、司の第一声から梯子を外された気分だった。普段色恋話をしない司が珍しい弄り方をしてくるのだ。
幸福のオーラでも感じ取られたのだろうかと心配になってくる。
確かに本題はその“色恋話”にあるのだが、勘が鋭すぎやしないか?と、冷えた汗をかく。
今日は和栞さんの言う「ダブルデート」の行き先決めをするために、たこ焼きパーティーをしようということになった。
和栞さんが言うには、「仲良くなったお友達と一回はやるものよ」と彼女の母親――美鈴さんに勧められたらしい。
母親のモノマネをした和栞さんが妖艶で、これは親子二代続く生粋の人間たらしだ……と戦慄したことと、和栞さんの将来に期待してしまったのは、当人に秘密にしておいた。
もちろん、和栞さんと自分の間だけで強引かつ勝手に決めてしまった真夏のたこ焼きパーティーだったが、千夏さんや司はたまたま予定が空いており、トントン拍子で参加が決定。今日はちょっとした顔合わせをやるつもり。二人に話しておかねば、今後何かと不都合だ。
和栞は唯依を自宅に招き入れて、二人は材料の準備を担当する。
自分は何も知らない司をそれとなく誘導して、和栞さん宅へ向かう道中で、付き合ったことを報告。
早速、和栞さんとご対面という訳だった。
悪友の顔を見ながら、昼ご飯をおごるという嘘でおびき寄せた罪については、陳謝しておく。
「とりあえず、腹、空かせてきたか?」
「おうよ。珍しくいおりんの奢りとあっちゃぁよぉ」
がははと横で笑う司と歩きながら、今のうちに恥ずかしいことは全部さらけ出しておきたい。
司に加えて、和栞さんまで愛嬌たっぷりにぺらぺらと色んなことを話されてしまうような事になれば、和栞さん宅で防戦一方だと思ったからだ。
「司さぁ……千夏さんから、なんか聞いてる?」
「え? なんでそこで唯依が出てくるんだよ?」
「あー。そういうことか。じゃあもう、本題……いい?」
「おうおう」
不思議そうな顔で司は伊織を見ている。
「俺、彼女できた」
「はっ!?」
「以上」
「いやいや、以上じゃねぇって!!!! マジで言ってる!?!?」
「うん」
「え、マジどうしたっ? 今日は雪でも降るんか???」
「ほんとにそうなら、助かるねぇ……」
和栞さんに告白した時に比べて、司に報告するくらい造作もないが、長い付き合いの中で見たこともないくらい驚きの表情をしている。
司は驚愕を通り越して、絶句していた。
「んで、今から俺の彼女さん宅で、千夏さんも誘ってタコパするから」
「ええええええ!!!!???? 聞いてない! 聞いてない!! マジ????」
灼熱の外気温が、司の反応で二度くらい上昇したかもしれない。
暑っ苦しい顔を眺めながら淡々と説明を続ける。
「という訳で、すまんが今日は俺の奢りじゃない。会費は千円な……よろしく」
「その感じなら、唯依のと合わせて俺、二千円じゃん」
「そういう気はまわるのな……勉強になるわ。俺も二千円払おうっと……」
「じゃないのよ、伊織さん? 誰よ、お相手は……?」
(和栞さん……やっぱりこいつは何も知らないよ……)
心の中で和栞さんに嘆く。
「お前が良く知ってる人だよ……」
「亜希ちゃん?」
「アホか。お前が言ったんだろうが。教師と生徒じゃ無理なんじゃないか? とかなんとか……その後お前、楽しそうに言ってただろうが」
少しヒントを出してみる。
こんな遊びができる日が来るなんて、人生何が起こるか本当にわからないものだ。
伊織は、司の顔――目を真ん丸にした様子を見て、正解にたどり着いたことを悟る。
「もしかして……月待さん?」
何か言葉にしてしまうと、和栞さんをクイズの材料にしたみたいで悔しかったので、真顔でコクリと一回だけ深く頷いた。
「おまっ!!! え??? 冗談は、妄想だけにしとけよな」
「とりあえず、信じてくれなくても、今から遊びに行く家の表札に月待って書いてあるから、よろしくな」
「え、頭パンクしてんだけど、いつから? どこから?」
一気に司の顔がうるさくなった。これも想像の範疇だったけど。
「お付き合いさせてもらってるのは四日前。交流があったのは約四カ月前くらいから」
「四カ月前って……入学式じゃん」
「信じて貰えないだろうけど、ご縁がありましたので……」
「ん!? ってことは、俺が唯依と付き合い始めたころ、もうお二人は親密なご関係だったんでしょうかっ?」
司がグーを作って口元でそう話すと、自分の口元にそのグーは意見を求めるように移動してくる。
多分、リポーターか記者をやっている司に乗っかっておく。
「はい。相手の方のために詳細は差し控えさせておきますが、仲良くさせてもらっておりました」
「ええええ!!?? マジ???」
「何で嘘つくんだよ……。二人で一緒に勉強とか、させていただきました」
「それでお前、中間、期末の結果が良かったわけか。妙に納得したわ……」
うんうんと頷いている司をじっと見る。
予期せず、和栞さんと交流があったことに納得いただけたようだ。
だが、聞かれていないことは不用意に話さないスタンスを貫きたい。
「愛の力だなぁ……」
ポツリと司が呟いた。
「はっ?」
「そんなもんだよな、いーおりんっ」
バシッと身体を強めに叩かれてよろめく伊織。
「月待さんのどういうところが好きなんですか?」
再度グーを構えた司に聞かれる。
ここで調子に乗っても和栞さんに悪いので、少し正直になって考えてみる。
「頑張り屋なところ?」
「そんな真剣な回答求めてねぇって!!!」
大爆笑の司に少し腹が立ったが、気兼ねなく話せる司の顔を見ていると、冷静になれるので助かる。
司は笑顔で、眉を上げて茶化すように話してきた。
「まー、でも、可愛いだろ。彼女ってホントに」
「な。本当に、俺も困ってる」
「ああ、俺はいおりんに春が来て嬉しいよぉ」
伊織を肘で突いて、不敵な笑みを浮かべる司。
「なんだよ、お前からの祝福は嬉しくねえ」
そう言い残すと、伊織は司から距離を取る。
「ちょっと待てって、俺は月待さんの家知らないんだからさ!!」
駆けて寄ってくる司には脚力で勝てやしない。そんなことはわかり切っていたけども、この数日舞い上がってしまいそうな気持ちを瞬発力に変換する。
「んでな……彼女さんがどうやらダブルデートしたいらしいんだよ。俺は一向に構わないんだけど、司と千夏さんはどう…」
「え!? 楽しそうだなっ!!!! やろやろ!! ダブルデート!!!」
司に「どうかなとおもって……」と口にする前から、司は割って入ってきた。
「おうおう。夏の思い出だと思って楽しくできればと思ってんだけど、多分千夏さんには話が行ってると思うから、ほぼお前の返事次第だったんだけど……」
すると、司は満面の笑みで陽気に――
「俺らの青春……始まったなぁ、おい!!」
「ちょっ! おい!」
一つ返事で決まっていく「すーぱー夏休み」の予定に安堵し、自分を無視して駆け出す司を眺めて「そっち、和栞さんちの方向じゃないんだけどな~」と笑った伊織であった――
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