交際スタート!恋人現るプロローグ
とうとう「恋人」になった伊織と和栞の激甘お砂糖モリモリな第四章!堂々、スタートします!!!
ここからお付き合いの方も、古くからの方も、よろしくお願いいたします!
では、お楽しみくださいませ!
打ち上げ花火を二人で堪能した後、和栞さんは寂しそうに言った。
「伊織くん……。ごめんなさい。明日はどうしても法事で実家に帰らないといけないので、一日、会えません……」
あろうことか、彼女は一日会えないことですら、申し訳なく思っているらしいのだ。
先ほど、告白したばかり。
しかも、彼女の事を名前で呼べるようになったばかり。
そして、和栞さんは、自分の恋人になったばかり。
天真爛漫な美少女との“適切な距離感”というものを考えながら過ごしてきた今までの日々が、たった一言「君の事が好きだ」と伝え、好きと言い合うだけで、今晩から一変した。
今の状況に正直、面食らっている。
でも、すぐに和栞さんの言葉の意味がわかった。
今まで何事もなかった“二人で居られない空白の時間”を、彼女は惜しんでくれての物言いなのだ。
途端に和栞さんの彼氏になった実感が湧いた一方で、彼女には持ち前の明るさを今すぐにでも、その顔に取り戻してほしいと思ってしまうのは強欲だろうか。
いや、そんなことないだろうと自己完結するまでに、時間は秒も要らなかった。
「残念がってくれるのは嬉しいけど、気をつけて帰っといでよ? 俺は逃げも隠れもしないし。焦る必要はないでしょ?」
苦虫を噛みつぶしたような和栞の顔が、伊織の言葉を聞くなり、ふっと柔らかくほぐれていく。
「ありがとう。じゃあ……明後日、一緒に過ごしませんか? お、おうちデート。です……」
彼女は珍しく恥ずかしそうに、もじもじ、ごにょごにょと口を開く。
その様子に心が跳ね、男心が疼く。
こそばゆいような、でも、もっと見守っていたくなるような可愛い顔。
「いいよ。楽しみにしてる」
今にも力なく萎んでしまいそうだった和栞さんの身体が一瞬震えたかと思うと、徐々に伸びて――直視すると危険な満面の笑みを見せてくれた。
「ありがとう! うれしいっ!!」
そうそう。
君にはやっぱり、笑顔が似合う――。
◇◆◇◆
一日をこんなに長く感じたのは、久しぶりだった。
朝起きて、携帯を見る。
「おはよう! 私の彼氏さん! 行ってきます!」
さすが、早起き上手な君だ。公園でお昼寝はしちゃうけど……なんて思いながら、メッセージをくれた和栞さんに返信する。
「おはよう。行ってらっしゃい。彼女さん」
理由もなく、朝の挨拶ができるだけで、こんなに嬉しいことはなかった。
そして、昨晩の一連の出来事は――彼女が第一声から肯定してくれた通り、幻ではないらしい。
今は幸せに浸って、二度寝するのも悪くないなと、伊織は再び布団に沈んだ。
告白は冷静に言葉にできたから、奇跡交じりの記憶が日中、頭に何度も蘇った。
その度に勇気を出して良かったと思えたこと、そして彼女も自分と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、鼻歌が出そうになる。
“恋は盲目”とはよく言ったものだとひとつ納得し、自分に呆れた。
焦る必要はないと自分で彼女に言ったくせに、浮足立つ感覚がある。
いや、これは地に足つかないと言う方が正しいのかと学習した。
彼女との未来に溢れるのは希望だけで、今は不安なんて無いのだから。
◇◆◇◆
通い妻ならぬ……通い夫だろうか?などと、くだらないことを考えている間に、見慣れたマンションの前に到着した。
伊織は、手で覚えている部屋番号を入力して呼び出しを行う。
「はい!」
「南波です!」
「伊織くん、いらっしゃい!! 待ってましたっ!! おあがりっ!」
インターホン越しに聞える和栞さんの声が一段と元気だ。
「おあがり」ってなんだ?と思ったが、とりあえず大歓迎してくれているのが伝わってきて笑えた。
顔はまだ見えないけど、きっとニコニコしてくれているような気がする。
エレベーターへ、十四階を指示すると、ゆっくり扉が閉まる。
以前にも、この狭い空間で呼吸を落ち着けたことあったなと、深呼吸を一回、二回。
緩やかな減速の後、扉が開くとそこに――
「伊織くん!!!」
「ふぁっ!?」
「待ちきれなかったっ!!」
喜色満面で出迎えた和栞を見て伊織は、恋人になった喜びを噛みしめた。
「ありがと」
「さっ、うかうかしてられないですよ!? まだ夏休みは二週間もあるんですから!! 作戦会議しましょう!!!」
手を掴まれ、廊下を二人で駆ける。
「危ないし、近所迷惑だって!」
カップルの笑い声は廊下にこだまして、一室の扉がバタンと閉まる。
二人の暑く、熱い夏は、まだまだ終わらない――
お読みいただきありがとうございました!
第一章~第三章ではお付き合いするまでのお話を描いています。
糖分たっぷりで読みたい方はこの章からお付き合いください!(最初から甘かったのは秘密です)
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