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第九十五話「告白。二つの点が線になるとき(後編)――第三章最終後話」

第三章最終話です。お楽しみくださいませ!あとがきにはご報告ございます!



「わたしも……伊織くんのこと! だ~~~いすきっっ!!!」




 彼女の泣き顔はなんて美しいのだろう。

 こんな晴れやかな涙なら、何度でも見たいと思った。


「これからも、よろしくお願いしますっ!!!」

「ありがとう……」


 思わずこぼれた感謝の言葉は、胸に灯る想いが間違いではなかったという、答え合わせ。


 途端に和栞は頬を熱く染め、恥ずかしさを滲ませる。



 伊織は立ち上がり、和栞の横に並ぶように近づく――

 今の心持ちを彼女に伝える以外、逃げ道はなかった。



「こういう時、どうしたらいいんだろ。伝えたかっただけで……先走っちゃって。どうしたらいいかわからないや」


 正直に胸の内を白状すると、彼女はきゃっきゃと笑った。


「どうしたらいいんでしょうね? 私もわかりませんっ!」


 心がじわじわと歓喜に満たされていくのに、その先の言葉が見つからない。


「一般的には……恋人になる? のかな……」

「一般的にはカップルですね? ふふっ。伊織くんはどうしたいんですかっ……?」


 いたずらっぽく問いかけるその瞳は、どこか期待を含んでいた。


「このまま君と過ごせるだけで、めちゃくちゃ嬉しい」

「私もっ!」




 少しだけ、欲を出してみる。

 ずっと心に秘めていた願い。


「君を下の名前で呼びたい」

「どうぞっ!!」


 彼女は笑顔で即答してくれた。





 好きだと伝えあった今だからこそ、次の関係を望みたい。



「和栞さん……俺の恋人になってくれますか?」





「よろこんでっ」





「ありがとう」




 この笑顔はきっと、ずっと忘れない――

 真夏の大輪の華だと思った。





◇◆◇◆





「暇だから、お互いの好きなところ、言い合いっこでもします?」


 和栞さんが、お茶目な笑顔で提案してくる。



「ごめんね。告白は花火の後で……とかが普通だよね」

「一秒でも早く伝えたかったんですよね? ねっ?」

「そういうことにしておいてくれると助かります」

「きゃぁ~」


 なんだか見たことないほど穏やかに接してくれているなと思ったら、和栞さんは悶え始めている。


「でも、お互いの“何が好きか”って大切にしたくないですか?」

「え?」

「私は少しずつ、小出しにしていきたいんですよ。伊織君の好きなところっ」

「じゃあ、一個教えてくれたら一個返す、ってことで」

「十個伝えたら、十個言ってくれるんですか?」

「うん」

「なんだか、はりあってるみたいですね」

「負けず嫌いが出ちゃってるかも」

「お互い様ですっ」



 くすくすと笑ってくれた和栞さんを見て、この子の苦悶に歪む表情は見たくないなと思った。



 いつだって笑ってそばにいてくれるだけで心が軽くなる。そんな彼女なのだ。

 できるだけ、この花には沢山の笑顔で咲いていてほしい。



「私はね、伊織くんが静かな時間をくれるところが好きです」


 面と向かって言われると、心が跳ねた。

 それと同時に、掘り下げていくのがなんだか、むず痒い。


「私は春から頑張ることが多くてね……」

「一人暮らし?」


 そう尋ねると、彼女は小さく頷いた。


「自分で決めたことだったんですけど、初めてやることが多くて。学校から帰ってすぐに家事をして……って、気が付いたら陽も暮れてて。“これだけ頑張っていれば大丈夫!”っていう安心が、いつの間にかできなくなったんです。“学生だから勉強だけ頑張っていれば大丈夫!”みたいな安心が……」


 ゆっくり話してくれる和栞に聞き入る伊織。


「そんなとき、私は、公園で疲れ果てて寝てしまいました」


 伊織の脳裏に四月第二週の珍事がよみがえる。


「伊織くんと初めてお話したときです」

「覚えてるよ? 和栞さん、気持ちよさそうにひなたぼっこしてた」

「寝顔は忘れてくださいね?」

「あんなの忘れるわけないでしょ?」


 少し恥ずかしそうに和栞さんは笑ってくれた。


「あの時、伊織くんなにしたか覚えてますか?」

「なにもやましいことはしてない」

「そう。なにもしなかったんです」

「ん?」


 伊織は和栞の言っている意味がわからない。


「なにもしてこなかったんです。ただ、そっと伊織くんは、私を寝かせてくれてたんです」

「うん」

「偶然会った友達が公園で寝てたら、普通起こすでしょ!? って私は思ったんです」

「でも、何もできなかっただけだよ? 前の週にたまたま会ったクラスの女の子だし」

「それでもですよ? 私を揺らして起こそうとか、考えませんでした?」

「全く。手も足も出ないというか。触るだなんてあり得なかった」


 触らぬ少女に祟りなしとまで思った伊織だ。


 ふふっと和栞さんは笑った。


「伊織くんは予期せず、私を寝かせてくれただけなんでしょうけど、私には優しさに思えたんですよ?」


 和栞は続けた。


「二回言いますけど、その行動は私にとって優しさに思えたんです。この人は眠たいときは寝かせてくれるんだ~って」


「え? それだけ?」

「あなたにとってはそれだけ?って思ってしまうかもしれませんが“その人の好きなようにさせてあげられる人”ってきっと少ないですよ」


 伊織は和栞の言葉に真意を探す。


「感じ方は人それぞれですが、あの時の私には疲れた心に染み入ったんです。勝手にもうちょっと頑張ってみようって思えるし、応援されているみたいな……? でもそんなふわっとした気持ちは、伊織くんと過ごすうちに安心に変わったんですよ。言ってること、変ですよね」


 ふふっと笑う和栞さんは、言葉を探しているように見えた。


「何気なく過ごした時間が癒しになったのかもしれません。どこか中学の時の時間を取り返そうと焦っていた私に安心をくれました」


 和栞さんが言う「中学の時」というのは、彼女の過ごした一年間の入院生活の事だろうか。

 疑問に思ったが多分そう。




「だから、私にのんびりした時間をくれた伊織くんが好きです」


 いや、それはそっくりそのまま彼女にお返ししたい言葉だ。

 彼女との交友の中で安らぎを得たのは、自分だって変わらないのだから。


 コロコロと変わる表情に癒されて、天真爛漫を欲しいままにして。

 でも、ひたむきに目標達成に向けて取り組む彼女を、自分は眩しく感じて惹かれていたのだから。


「難しく考えなくていいんじゃないかな? って思ったけど……」

「え?」

「君の名前はノドカなんでしょ? のんびりしてればいいよ」

「うまいこと言っても、伊織くんから私の好きなところ聞き出すまで、私は許しませんからね?」

「んじゃ、笑顔が可愛い」

「もーう!」


 和栞さんの「ぺしっ」っと、優しく小さな抗議の手が、腿に降ってきた。


「俺が和栞さんの好きなところ言い出したらキリないよ?」

「それについていけるように私でもたくさん用意してますから、心配ご無用です……」

「んじゃ……公園でうたた寝しちゃうところが可愛い」

「え~っ」


 和栞さんはしょぼくれた顔をして、ぷいっとそっぽを向く。


「ごめんごめん」


 小出しに普段思っていた何気ない一言で応戦したが、不服だったらしい。

 そんなことわかりきっていたけど、焦らなくても、お互いの気持ちは同じなのだから水掛け論が始まってしまうのが本意でなかった。




 次の瞬間――




 下関側から轟音とともに、花火が上がった。


「ほら、始まったよ?」

「うわぁ……くっきり見えますね! きれい!!」


 話を邪魔されるように花火が上がってしまったが、和栞さんには安心してほしい。


「まあ、これからたくさん知ればいいよ。お互いの好きなところ」

「そうかもしれませんね? 今は花火を伊織くんと見られるだけで、嬉しいです」

「俺も」

「今日から私の彼氏さんの伊織くんですからね?」


 ドキリとしてしまった言葉。


(今日から私の彼氏さんかぁ……)


「今日から彼女さんの和栞さん。これからもよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いされましたっ」

 



 涼やかな顔で君が花火を見つめている。






 ――今日から。





 彼女は――

 君は――

 和栞さんは――大切な【彼女】になりました。




 底なしに明るくて、いつも元気をくれて、癒しをくれて。

 でも、尊敬できて。


 少し負けず嫌いなところもあるけど、真剣でひたむきで。




 まだまだ、知らないことはたくさんある。

 けれど「長いものには巻かれておけ」――そんなことわざのように、和栞さんに巻かれておけば、楽しくて発見の多い日々が続いていくのだろうと思った。





 対岸の打ち上げから遅れる事、二十分。

 門司側の打ち上げ花火が始まった。




 打ち上げ場所が近い分、迫力は比べ物にならない。


「こっちも負けてられないですね!!!! 伊織くんっ!!」


 二つの花火と、横で笑う大輪の華を見ながら、伊織は思った。






 あぁ、和栞さんってやっぱり……負けず嫌いだ。






第三章(終)


ーーーー



第四章予告


清らかに交際をスタートさせた伊織と和栞。

【夏休みはまだ二週間「も」ある!】と言い始めた和栞さんは、伊織にも止められない。

恋人関係で始まる晩夏はまだまだ暑く、熱―く、終わらない!

「福岡県北九州市の花火は二度咲く」その訳とは……?


第四章もお楽しみにっ!


お読みいただきありがとうございました。第四章をお見逃しなく!

ブックマークへのご登録お願いします!

また、ランキング反映の要でありますので

作品評価をお願いします





以下、第三章完結・作者あとがき

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あ~~~~~っっ!!!!!!!

苦節約三十万文字……。

文庫本換算にして三冊分ラストに、二人はとうとうくっつきやがりました!!

やっと、二人は恋人関係になりました!!

めでたし、めでたし……なんて(笑)


ご安心を。。

一つお伝えしたいのは【物語は全くと言っていいほど終わってない】です。


だってまだ「高校一年生の夏休み」なんだから……。

この物語が何のために二人をフィーチャーして描いてきたか、それもこれもここから始まる【健全なイチャイチャを、皆で溶けながら見守るため】に決まっているでしょう!!??(続きは次話、活動報告にて)


ご報告

先日、累計PV数が10000件を突破しました!

いつもご愛読・応援いただきありがとうございます!!!


いよいよ、主人公、ヒロインは交際をスタートさせました。

これまでの作品内容を含め、ポイント評価の程、ぜひぜひお願いします!

( *´艸`)


信じてくれたあなたの目は間違ってない。

裏切らぬよう、これからも全力で執筆いたします。


懸垂(まな板)

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