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鬼束ハクの怖い話。〜獄卒Vtuberの集めた恐怖体験〜  作者: 鬼束ハク


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13/17

次は……です

あの男は、毎朝同じ車両にいた。


薄汚れたコート。


季節関係なく同じ服。


髪は固まり、

爪は黒く、

濡れた犬みたいな臭いがした。


誰も近寄らない。


でも、席が空くと必ず誰かの隣へ座る。


そしてガサガサと音を立てながら新聞を読む。


普通に読むんじゃない。


単語ごとに区切るみたいに、

変な読み方をする。


「……トウキョウ……デンシャ……シボウ……ミモト……フメイ……」


ガラガラの声。


車内に響く。


みんな聞こえてるはずなのに、

誰も反応しない。


僕は毎朝イライラしていた。


臭い。


うるさい。


気持ち悪い。


隣に来るな。


そう思っていた。


一度だけ、友達に写真を送ったことがある。


『またコイツいるw』


『臭そうw』


返信には笑いのスタンプ。


僕も笑った。


その日の夜、

通知が来た。


送った写真に、

知らないアカウントからコメント。


『みえてるんだ』


気味が悪くて、すぐ消した。






数日後。


帰宅ラッシュの時間帯。


電車が急停止した。


鈍いブレーキ音。


悲鳴。


車内アナウンス。


『人身事故のため——』


周囲がざわつく。


誰かが言った。


「さっきホームにいた浮浪者じゃね?」


僕は、なんとなく嫌な気分になった。


翌日から、

男は消えた。


車内は静かだった。


臭いもしない。


みんな少し安心していた。


僕も、正直ホッとしていた。






それから夏になった。


男のことなんて忘れていた。


その日も、いつもの帰りの電車。


疲れて、座席で少しうとうとしていた。


ガタン。


電車が揺れる。


その瞬間、

鼻につく臭いがした。


酸っぱいような、

湿った臭い。


目を開ける。


車両の奥に、

あのコートが見えた。


え。


生きてたのか。


そう思った。


でも、妙だった。


誰も男を見ていない。


女子高生は喋り続け、

サラリーマンはスマホを見ている。


男だけが、

世界から浮いていた。


男は座席の間を歩いてくる。


ゆっくり。


足を引きずる音。


ぐちゃ。


ぐちゃ。


……変な音だった。


逃げようとして、身体が止まる。


動けない。


喉だけが浅く鳴る。


金縛り。


いや、違う。


周囲の時間だけが、

妙に遅かった。


吊り革が、

同じ方向へ揺れている。


全て。


風もないのに。


車内広告を見る。


化粧品の広告だったはずなのに、

全部新聞記事に変わっていた。


『車内にて身元不明の男性が死亡』


『腐敗が進んでいた』


『乗客は異変に気づかず』


心臓が跳ねる。


男が近づく。


その顔を見てしまった。


顔が、

潰れていた。


骨が飛び出し、

目玉が斜めに垂れ、

口だけが裂けていた。


電車に轢かれた顔だった。


なのに、

男は新聞を読んでいた。


「……ショウネン……トナリ……スマホ……ワラウ……」


僕のことだった。


男が、

僕を見ていた。


「……キエテクレ……ソウ……オモッタ……」


違う。


そんなつもりじゃ。


ただ、

気持ち悪くて——


その瞬間。


車内の照明が一斉に消えた。


窓ガラスに、僕の顔が映る。


……違う。


僕じゃない。


顔半分が潰れている。


「ぁ……」


息が止まる。


周囲の乗客が、一斉にこちらを見た。


全員、

同じ顔だった。


無表情。


冷たい目。


そして、

ゆっくり席を立つ。


逃げ場がない。


男が耳元まで来る。


腐臭。


湿った息。


「……ツギ」


そこで目が覚めた。


朝だった。


いつもの通勤電車。


夢。


ただの悪夢。


安心した瞬間。


隣の女子高生が、舌打ちした。


小さく呟く。


「……臭っ」


胸が冷える。


周囲を見る。


空いている席があるのに、

誰も僕の隣へ座らない。


その時。


スマホに通知が来た。


知らないアカウント。


添付された画像。


——電車の中で眠る僕の写真だった。


その姿はあの浮浪者と同じ格好をしている。


そして、

コメントが一行。


『次は、あなたの番です』


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