第169話 種火
———2018年8月9日 櫛灘病院
ガラガラガラ
「あっ神原…と伊武さん」
「おはよう時雨ちゃん」
「…朝から嫌なもん見ちまったな」
「悪態を吐くのが君の挨拶のようだね」
時雨の病室を訪れた奈津緒と祥菜。
室内では時雨とドクターが朝食を食べているところだった。
「麦島は?」
「寝坊。昨日全力疾走したからな。電話で起きただけマシってもんだ」
「……私の荷物は?」
「財布はこれ」
祥菜はドクターに財布を返却する。
「……道具は奈津緒君か?」
「それは麦島、俺は『超常の扉』。後10分もすれば来るはずだ」
「そうか、大丈夫かな…」
「何がだよ」
「零君達が収納玉に入ったままなんだ。麦島君が開けたりしていないのなら半日以上閉じ込められてることになる」
「……………」
「……………」
祥菜と時雨は固まる。
4人は祥菜の『箱入り娘』によって気絶している。その時からずっと玉に入ったままであればその間食事を摂っていないということだ。
「ヤバい。完全に忘れてた」
ドクターを気絶させて麦島に道具類が渡った時に伝えていればこの事態にはなっていなかったが、久しぶりの恋人との再会や『超能力』を得たことによる目まぐるしい変化によって頭の片隅に追いやられてしまっていた。
「ドクター。その玉は中から出られる仕組みか?」
「出られない。というか眠っていないと玉の中に入れないんだ。コールドスリープのようなものだ」
なので内側から出られる仕組みにはなっていない。
「半日なら……まぁ餓死はしないだろ。祥菜から受けたダメージはどうなる?」
「応急処置はしているから悪化することはないだろう。だが玉に入っている間は回復もしないから早く出してあげる必要がある」
「麦島は後10分だから……セーフだな。祥菜、櫛灘先生に急患が4人来るって伝えて来てくれ」
「わ、分かった」
祥菜は時雨の病室を出て櫛灘医師を呼びに行った。
「というか、その"人や物を収納する玉"はなんなんだ?それがお前の『超能力』なのか?」
「違う。あれは私が数年掛けて開発した物だ。だが……『超能力』が無関係というわけではないな。私の『超能力』が発明の手引きをしたようなものだ」
「あんたの『超能力』ねぇ…。まぁそれは麦島が来てからだな」
「分かった、麦島君が来てから話そう。…ところで、『超常の扉』は持って来ていないのか?」
「あんな劇物、おいそれと持ち運ぶわけねーだろ。それに、連中は『超常の扉』を求めてお前を狙ってるんだ。2つを同じ場所に纏めとくのはリスキーすぎる」
「それじゃあ今は奈津緒君の家にあるのか?」
「……………」
「その質問には答えない」
「……何故だ?」
「comcomの『認識誘導』対策だ。comcomが敵なのか味方なのかはっきりしていない以上、『超常の扉』の所在はトップシークレットだ。向こうにパワーバランスが傾いているんなら少しでも抗う必要がある」
「…君の『超能力』なら『認識誘導』が効かないということか?」
「いや、俺は『認識誘導』の力を借りてパワーアップしたことがある」
麦島に教わっても速度が上がらず、comcomの動画を見たら球威が上がったことからもcomcomの『認識誘導』に支配されるのは確定だ。
だがあの時と違って『自己暗示』の練度が上がってる。
実験を繰り返しているし実際に『箱入り娘』や『一時の邂逅』を突破している。
「なら意味がないじゃないか」
「お前が持ってるよりマシだ。俺とお前なら俺の方が『認識誘導』に抗える目算が高い。つーかうだうだ言うなら今すぐぶっ壊す。もしもの保険なのは承知してるが結局俺や白ウサギが頑張れば使わずじまいだからな。むしろ背水の陣になってモチベーションアップに繋がるかもしれん」
奈津緒は本気だ。『超能力』を毛嫌いしている彼なら壊すことに躊躇はないだろう。
それに……奈津緒が『超常の扉』を誰にも知られないように隠していたとしても、ドクターは自力で見つけることが出来る。
そういう『超能力』を持っている。だがそれを口にすれば衝動的に破壊されるかもしれない。
「………分かった」
だから素直に了承する。
これから能力を開示するわけだからもしかしたら奈津緒に気付かれることになるが、今ここで会話を交わしたのにそれを覆したりはしないだろう。そもそも『確実達成』は無自覚発動型で知りたくなくても情報が頭に流れてくるためブロックが出来ない。
(私が取りに行かなくても奈津緒君が所在を知っているという事実だけで義晴君に有利に働くことになる。下手に取り返しに行かない方が良いかもしれない。だが…多分だが、『超常の扉』が手元にないと『確実達成』が勝手に発動して場所を教えてくれるんだろうな…)
それでは奈津緒の抵抗も無駄になってしまう。その場合には取り返しておいた方が都合が良い。
♢♢♢
———10分後
麦島が昨日預かった小道具を持って櫛灘病院にやって来た。
ちょうどそのタイミングで櫛灘医師の準備も整い、一堂は時雨の病室の隣にある大人数用の病室に来ていた。
「夏休みだからって病院で休んでほしくはないんだがなぁ…、次から次へと病人が運ばれる」
「医者冥利につきますか?」
「つくわけないだろう。長期休暇の間はスタッフも休んでしまうからな。私1人にかかる負担が大きくて敵わん」
「なら微力ながらお手伝いしますよ。部屋を手配していただいただけで十分です。俺と麦島でベッドに寝かせるくらいはわけないです。ドクターも最低限診れるようですし、先生は自室で冷たいジュースでも飲んでいてください」
「………」
「………大丈夫だよ神原君。私を排除する必要はない」
「……仰っていることの意味が分からないですね」
気取られないように平時のように表情を殺す神原。だがそれは無駄に終わった。
「奈津緒君、櫛灘先生は既に『超能力』を知っている」
「「「「!!!」」」」
普通ではないと分かっていても踏み込んで来なかった櫛灘医師の前で『超能力』という単語を口に出した。
それだけで奈津緒、迅疾、祥菜、時雨の4人は、櫛灘医師がこちら側に足を踏み入れたのだと理解させられた。
「……お前、喋ったのか」
「正確には喋らされたが正しいね。命が惜しければ…というやつだ」
グイッと櫛灘の方に視線を移す。
「…彼を脅して私も一枚噛むことにした。君らにとっても櫛灘病院を自由に使えるようになるんだ。悪い話じゃない」
「ばっ………何を言ってんだ先生。なんで自分から死地に……」
馬鹿と言いそうになるくらい奈津緒が動揺している。
(巻き込まないようにしていたのに、まさか自分から巻き込まれに行くとは…なんでだ?)
「……」
「なに〜?こっち見てどうしたの〜?」
同じ加入方法であったために思わず麦島を見てしまったが、向こうもそう思っていたのか目が合ってしまった。
「…ドクターが脅しくらいで喋るはずがない。そんな軟弱モンならここまで生き残ってないはずだ」
(ほぇ〜。嫌ってるのにちゃんと見てるんだね〜)
嫌な奴ほど意識して深く知ってしまう所為だろうか。ドクターが嫌いであっても10年戦い続けてきた点は評価している。それ以外がクソすぎるが故の結論マイナス評価だ。
「脅しじゃない取引だ。時雨君や彼自身の治療費との相殺で2つ条件を飲んでもらった。1つは私も一枚噛むこと。そしてもう一つは………『神原君達への全面的な金銭援助』だ」
「金銭…」
「援助?」
「……でも俺らが金が入用なんて先生に言ってないですよね〜?」
そもそも金の問題を意識し出したのは昨日大島総合病院にいた時だ。
金に困ってるなんて話は櫛灘はおろか祥菜やドクターにも喋っていない。
「時雨君に護衛を付けていただろう。警察署のそばでストーカーをする馬鹿はどこにもいない」
「…気付いてたんですね〜」
「ここは仕事場兼自宅だ。家の違和感に気付かないようでは患者を治すなんて出来ないさ」
「それで護衛を雇った金の出所を気にするに至ったと…」
「豊橋からの紹介分を加味しても数日というところだっただろう。だが元凶の彼が担ぎ込まれた時点で数日どころの話じゃなくなった。…違うかい?」
「えぇ、なりふり構っていられなくなりまして。使える時に存分に使おうとしてました」
「子供に後先考えない命知らずみたいなことはしてほしくないもんだ。だから彼に資金援助を飲ませた。これからの争い事がどうなるか分からないが経費を大人に丸投げ出来たんだ。君達はお金を気にせずに出来ることをすればいい…」
一番面倒だった問題を…。自分らで少しずつ返済していく……それを口実に彼らにお願いしようとしていた。
だがそれを、昨日まで何も知らなかった櫛灘医師が取引で簡単に解決した。
奈津緒がドクターに頭を下げる流れになることを、奈津緒も麦島も薄々予感していた。
ドクターを毛嫌いしている奈津緒が頭を下げてお願いする。やらなくちゃいけないと分かっていても到底承服しかねる行為だった。
(…その代わりに櫛灘医師が両足突っ込んで来たのか。俺が関わった人達が容易く『超能力』の争いに巻き込まれやがるな…)
市丸に襲撃されてから約2週間。面白いくらいに周りの人達が『超能力』に関わっていく。
麦島、祥菜、豊橋刑事、女島刑事、桝飛セキュリティサービス、そして櫛灘医師。
これだけ関係者を増やしてしまったと同時に、これだけ増やしてもなお敵を倒せるかと言われると多分難しいという考えが過ぎる。
comcomや白ウサギらとも協力することになっているが、comcomはどっちに転ぶか分からない危うさがある。
仲間が増えて安心どころか同じくらい懸念材料も増えて心労も増えるばかりだ。
そして櫛灘医師の取引内容は神原らにとっては喉から手が出るほどのリターンだ。もう感謝の言葉しか口から出そうにもない。だがドクターに変な弱みは見せられないので冷静に応対する。
「ではお言葉に甘えます。それで、ドクターから詳細を聞いた感想は?」
「…豊橋が何も言わず私を巻き込んだ理由がよーく分かった。そして神原君が私を遠ざけようとした理由もね。医者として超能力とそれを身に宿した超能力者は非常に興味が唆られる」
「人体実験ならドクターでお願いします」
「私をバラしても何も出ない。超能力者の体内構造は非能力者と変わらない。10年前に検証済みだ」
「なるほど、確かに血が赤かったから普通との違いはないのだろうな」
(でも…視線に気付きやすくなるんだよな。それは感覚的なもんで脳が発達したからとかじゃないのか…)
(んん〜?なっちゃんが前に言ってた肉体の成長云々は昔の研究でも分かってなかったのか〜。なっちゃんは『超能力者』共通のものって見立てだったけど〜、もしかしたら限られた人だけの特異なもんなのかも〜)
これが『箱入り娘』の時と同じく『自己暗示』だけの事象であれば自分は恩恵に預かれない。
痩せやすくなることを期待していた麦島にとっては悲報だった。
「櫛灘さんが知ってるならいいか。麦島、玉全部出せ」
「…いつものなっちゃんなら返す時に取引すると思うけど〜?」
「白紙の小切手だ。後からこっちが好きに吹っ掛ける。好きなだけ金を引っ張れるんならこれほど便利なものはねーな」
「ドクター君、彼の保護者としての責任はしっかりと取るべきだね」
「生憎独身なので養育義務はないのですがね…。指示待ち人間よりは遥かにマシですが制御が効かないのも困りものですね。…彼の性格上不可能なお願いはしないでしょう。無難に落とすか私を叩き落とすかです」
♢♢♢
———2018年8月9日 彩プロダクション
「おはよう〜」
「「おはようございます」」
「………」
「ふゆ君、挨拶はコミュニケーションの基本だよ」
「……朝俺に跨って言ってたじゃねーか」
「ふふん、刺激的だったね」
「あぁ、寝込みを襲われるのは刺激的だったよ。恐怖でしかない」
「まるで夜這いだね」
「まるで世迷だよ」
「なぁ、なんか前より言葉のラリーが激しくないか?」
「…久しぶりでギアが上がっているんだろう」
「家の中はどうしようもないからなぁ。ふゆも雪華さん大好きだからなぁ…。誘われたら断れないよなぁ」
「オイ、聞こえてるぞ。外付けで施錠できる工具を買うからその心配はねーよ。姉ちゃんもあんま冗談言うな。こいつら思春期だから間に受けるんだよ」
「そうなの?」
「いや、それは…」
"はい"、"いいえ" どちらを答えても角が立つ。思春期ですかと問われた時点で負けである。
お前はどうなんだと雪兎にカウンターを与えようとしても雪兎はそれを塗りつぶすシスコンであるため効果がない。
「君達、そういう話は地元でやりたまえ。今日からここは通常営業だ」
「3日で再開ですか」
「営利企業だからな。それにこれ以上止めてると周囲から疑いの目を向けられかねない」
外野が勘繰るのもだが、内部の人間がリークすることも考えられる。
滝波夏帆誘拐の事実を知る者は保谷と社長だけであるが、ネタを掴んだ新聞社は滝波夏帆を絡めたくだらない質問をしてくるはずだ。そこで滝波夏帆が表に出て来れないことを知られたら事態はよりややこしい方に傾く。
3日だけでも事務が滞っているのだから損失は大きい。
身辺調査は全員分終わらせてある。長岡と親しい者はいなかったし不穏な繋がりがある者も確認されなかった。
0ではないが限りなく0に近付けた。
正直、これでも見つからなかったのだとしたら連中はそれだけ用意周到ということであり、一企業が太刀打ち出来るレベルではないということだ。
「じゃあ他の皆んなにも会えるんですね?」
「タレントらには仕事の時のみ来社するように伝えてあります。と言っても彩の設備は他のスタジオでも代替可能ですから来る人は少ないと思います」
「えぇー、皆んなにも会いたかったのに……あれ? "スクールアクトレス"の放送は?明後日ですけど?」
「いつ帰還されるか不明でしたので滝波夏帆は欠席と伝えてあります。代わりに響綺星蘭さんが出演されます」
「星覧さん! そっか…、次会った時お礼を言わないと…」
「臼木、響綺星蘭ってのは?」
「響綺星蘭、雪華さんと同じ彩プロダクション所属の高校3年生だ。雪華さんほどではないが高校生声優として人気が上がっている。"ばけものフレンズ"で準主役を担当してるけど…雪兎君は雪華さんが出てないから観てないよな?」
「"ばけものフレンズ"は知ってる。オープニングが流行ってたな」
「流石声優オタ」
「黙れ。お前も同種だろ」
「どぅどぅ。姉ちゃん、『超能力者』の友達が出来たんならしばらくはそっちと遊べよ」
「まぁそうだけどさぁ。ただでさえ私が忙しいせいで集まる機会がないんだしぃ、気兼ねなく会いたいじゃん〜」
「声優よりも超能力者だ。伊武祥菜と会う約束してるんだろ」
「あっ、そうだった。保谷さん、祥菜ちゃんや奈津緒君をここに呼んでもいいよね?」
「ダメに決まってるでしょう。長岡というスパイが潜り込んでいた事実がある中で、これ以上外部の人間を入れるわけにはいきません」
雪華のお願いを断る保谷。護衛をする者としては不確定要素は減らすに越したことはない。
いくら保谷が優れていても、月城臼木相手に超能力込みで負けているのだ。
それが完全悪の『超能力者』であれば尚更だ。
「奈津緒とは一度会って話す必要がある。けどここ以上に敵襲に備えられる場所となると…かなり限られますよね保谷さん」
「敵がどこに忍んでいるか分からないからな。ならここの方がマシ……だが、社長に説明が出来ない」
雪兎月城臼木が例外中の例外なのだ。
社長に話を通すなら『超能力』について話さなくてはならない。
話せば通りはするだろう。だが可能な限り知る者は少なくしておきたい。
「こっそり招こうにもこの建物のセキュリティは万全だから難しい」
「…俺が『強制平等』を使って首を縦に振らせましょうか?」
「……いいねそれ」
雪華が悪い笑みを浮かべる。
「……気は進まないが言質を取ってしまえばどうとでもなるな。白ウサギ君、ついて来てくれ」
「分かりました」
「私も同席するー」
雪華も一緒に行こうとしたが雪兎に止められてしまった。
「なんでよぉ!」
「『超常のない世界』のせいで『強制平等』が使えなくなるんだよ。大人しくしてろ」
「ぶーーー、ケチ!白髪!」
「負けず劣らずの髪色してる癖に何言ってんだ。…月城、臼木。姉ちゃんを見張ってろ」
そう言って2人は会議室を出て行った。
「……雪華さん、大人しくしときましょう。そもそもついて行ったら入出記録でバレますよ」
「むぅ、こういう時セキュリティの高さが煩わしくなるなあ。守るというより縛るって感じだしぃ」
「でも『超常のない世界』でふゆに優位取れるんですからここで我を通す必要はないと思いますよー」
「そうだけどねぇ……。ふゆ君は妙に冷静だから心配なんだよね。死んじゃうリスクを話した時も動揺しなかったし」
『超能力者』の致命的な弱点は能力名を教えた後に雪華の口から伝えられた。
月城、臼木、保谷はその事実に驚き慌てていたが、雪兎は冷静にその事実を受け入れて保谷に『敵が得物を持っているかを目視で判別する方法』を教えてくれと頭を下げた。
武器を持っていれば『超常の扉』を警戒する。死のリスクを知ったらそこに行き着くのだが、ステップを2段ほどすっ飛ばして事を進める雪兎に全員が軽く引いていた。
おかげで死のリスクがどこか軽くなってしまった。
(実は強がりで俺らに弱いところを見せたくない……って考えなら、触れないほうがいいのかもな)
(リーダーの雪兎君が狼狽してたらグダグダになってどうにもならなくなるからな。『超常の扉』を受けちゃいけないなら俺や月城が盾になればいい。雪兎君を殺すはずが逆に俺らの手札を増やすことになるからな)
二撃目で即死という爆弾ウィークポイントが晒されることになるが、それは相手も同じ。そしてその切り札はこちら側が保有している。
……ちゃんと勝ち馬に乗れているはず。なんとか食らいつけている。
……雪兎だけでなく今ここにいる者は全員理解しているが、自分達が優先されていない立場にある。
奈津緒がいなければ自分らは超能力者にされた雪華さんだけを返されてそこで停滞していただろう。
長岡の手から雪華を守るための取引なんて到底結べなかった。奈津緒に助けられているのが現状だ。
「どうにか立場を得たいな」
「…ドクターらに対してか?」
「あぁ、優遇されたいわけじゃないが、発起人のcomcomや優遇されている奈津緒と違って俺らは後回しにされている」
「…ふゆ君はまだ中学生だからね。あまり敵の前に出したくない気持ちもあると思うよ。現に小学生の超能力者の扱いに困ってたし」
「だからと言ってそれを甘んじて受け入れるわけにはいかないです。少なくとも雇われになるのはごめんです」
「…だったら、ドクターにお願いしてみる?」
「ドクターに?どうやってですか?」
「小学生の超能力者、時雨ちゃんは今奈津緒君と一緒にいるの。時雨ちゃんはドクターの連絡先を知ってるから時雨ちゃん経由で話を通せると思うよ。祥菜ちゃんに確認してみようか?」
「それはお願いしたいですが、雪兎君に確認しなくても良いんですか?」
「ふゆ君に言っても「構ってくれみたいじゃねーか」って嫌がると思うよ。それに私は早くこの争いを終わらせてふゆ君を自由にしたいの。終わっちゃえばふゆ君は戦わなくて済むからね。そのためなら私は何でもするの」
えいっとスマホを操作すると、画面にはコール画面が表示されていた。
雪兎に確認を取る前に伊武祥菜に電話を掛けた。
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
プルル———
♢♢♢
———2018年8月8日 平原邸
「さて、暁美の超能力名も決まったことだし神岐、さっき言ってた繋がりの意味を教えなさいよ」
名付けのための話し合いは、暁美が自ら解を出したことで終わった。
だがそれでおしまいではない。神岐にとってはここからの話が重要だ。
今度は神岐が台座が上がった。
「俺と設楽は府中動乱で敵超能力者を撃退した。連中のスマホを奪い、それを解析できる庭早烈斗に協力を仰ぐことに成功した。ドクターと交渉して『超常の扉』を使い、神原や白ウサギ陣営含めて超能力者を増産、自衛力の強化を始めた」
この3日間、下準備を整えてきた。
それだけ敵は強大であり、それだけこちらは対応する立場だということだ。
「『認識誘導』は敵なしの『超能力』だが使い勝手は悪い。ユーツーブで『認識誘導』を使って連中を操ろうとしても動画を見た全ての人間が能力を受けることになる」
野球動画が分かりやすい例だ。動画を見た人間全てを無条件に強化した。
フィルターをかけることは可能だが、不特定多数を相手にする動画ではどうやっても誤差が発生する。
掛けたい相手に掛からず無関係の視聴者に掛かる。さらに動画は一度公開してしまえば世界から抹消することは不可能になる。
誰かが右から左へ無断転載してしまえば、認識誘導爆弾とも言える危険物が神岐の手を離れて無差別爆破してしまう。
動画を使えば簡単だが使い方を誤れば大惨事を招くことになる。
comcomの動画でも精々が「最後まで視聴する」、「また見たいと思ったらチャンネル登録する」というくらいの小さな誘導に留めていた。
「だから敵さんを見つけ出す必要がある。見つけてしまえば俺の『認識誘導』で全て解決だ。俺らの勝利条件は殲滅とか血生臭いもんじゃない」
殲滅、血生臭いものと言葉が出たことで少しだけ暁美と奏音にピリッとした緊張が流れた。
『超能力』に関わってしまった以上もう抜け出すことは出来ない。
前線に出ることはないにしても味方が実行するところを見てしまうかもしれない。
勝利条件はそうであっても、敵は常人離れした超能力者だ。警察が捕まえて牢屋に閉じ込めても意味はない。
となると………
(最終的には殺すことになる。……というか神岐は府中動乱で人を殺してる…)
南武線の列車の衝突事故。あれは神岐の『認識誘導』で引き起こされたものだ。
府中側は敵の超能力者が甦らせたことで死者は存在しないが、南多摩の方はしっかりニュースで死亡が報道されている。
(私のせいで…義晴様に人殺しをさせてしまった…)
暁美が自責の念に駆られるのも無理はない。
人が既に死んでいる以上神岐に負けは許されない。負けてしまったら死んだ無関係の人間は報われない。
「俺達は見つけたら勝ち。向こう側の勝利条件は?設楽」
「……義晴さんに見つかることなくドクターから『超常の扉』を奪うこと。暁美さんの話では設計図は手元になく所在不明となれば現物を狙うしかない。残り4枠の内今回の件で3枠使って残り1つ。残り1個である事実を敵は知らないのでしょうが、府中動乱をキッカケにドクターが手札を切ってくるかもしれないと考えるのが自然です。むしろ『超常の扉』を再生産する可能性を考慮して敵はより早くに動き出すかもしれません」
「羽原ののらには『認識誘導』を披露してるから迂闊に俺に近づかないだろう。牧村や雪走側についてもドクターをスケープゴートにして意識を俺から逸らした。『解体々々業者』での甦りが一度きりなんだからもう迂闊に手を出せない。俺の周りを切り崩そうにも奴らの第一目標は『超常の扉』だから、持ってない俺らが襲撃される可能性はほぼないと見ていい」
素性や『超能力』の性能を知られてしまったことは大きなマイナスだがそれ以上の衝撃を敵に与えた。連中の目的が『超常の扉』なら矛先を分けるような愚策は取らないだろう。
「敵が1組織だったら楽だったが2つとなると全容を掴むのは難しい。"見つける"のワンステップだけなのにな」
『認識誘導』を警戒するということはそれだけ距離が離れてしまうということ。仕方ないがあそこで譲歩しなければ暁美達を逃しつつ府中動乱を終わらせることは出来なかっただろう。
「…連中は義晴を避けてドクターを狙うんだよな。ならドクターの居場所が分かってれば誘蛾灯に出来るんじゃないのか?」
近づこうとしない。だが近づく先は分かっている。ならば先回りは可能だと竹満は考えた。
「と思ったんだがな。ドクターは具体的な場所をはぐらかしている。暁美の引き渡し場所も大まかな地名までしか言わなかったし、その引き渡しも何故か零が八重洲エンティホテルに来て直接回収していった。明確に来られることを回避している。…ま、あんだけ府中で猛威を振るえば仕方ない」
時雨の心に深い傷を与えた。府中動乱でもまず時雨を狙ったことは鬼束兄弟を通じて伝わっているだろう。
協力関係なんてのは言葉だけで、その実は神岐が道筋書いてその通りにドクターを動かしているに過ぎない。
向こうからも協力とは思われていないだろう。共通の敵に立ち向かうと聞けば熱い展開だが、それは拮抗した実力があった場合の話だ。優劣があれば共闘の方針にも影響が出てくる。
(むしろ俺が敵に取り込まれた場合を警戒しているのか?連中はドクターを狙うだろうがその手段として俺を利用してくるかもしれない……と考えても不思議じゃないな。近づかないのは俺の警戒って1種類だけじゃなさそうだな…)
「ならどうすんだよ。ドクターと向こうさんのドンパチを静観するつもりか?」
それで向こう側が勝ってしまったら元の子もないし、それでは協力関係を築いている意味がない。
「忘れたか宗麻。俺には近々ドクターと繋がってる奴との強制イベントが待っている」
「……オフ会…神原奈津緒ですね」
設楽の答えに頷く神岐。
「8月18日、神原奈津緒とその連れ…麦島と会うことになる。暁美の話だと『超能力者』にされたのは伊武祥菜って子だから麦島は『超能力者』ではないかもしれないが…間違いなく知っている側だろうな」
『超能力』を知っていないと分からないメッセージを忍ばせていたのだ。最低でも竹満、設楽と同じく非能力者でありながらこの戦いに参加している狂人なのは明白だ。
「暁美の話だと全員に『超能力』が行き渡った。暁美が帰ってきたってことは伊武祥菜、滝波夏帆も既にホームに戻っているはずだ。そしてドクターは神原奈津緒を贔屓にしている。俺よりも優先度が高いらしい」
「……ということは、ドクターは神原奈津緒と密になっている可能性が高いということですか?」
「俺への対抗手段として神原奈津緒を擁してくる……は流石に飛躍してるが、俺に直に頼めないなら神原奈津緒だろうな。俺や白ウサギよりも高く据えてるのには何か理由があるんだろう。ま、それも10日経てば分かる話だ」
(それに…神原奈津緒だけじゃなく、白ウサギ側とも接触できるからな)
テレビ夕日の件で滝波夏帆と食事に行くことは決まっている。
向こうは高校生ということを考えるとおそらく夏休み中にセッティングされるだろう。
役員説明なら平日、まだ連絡がないから来週の15〜17あたりだろうと予想した。
(万が一ドクターが白ウサギの方に肩入れしていたとしても、滝波夏帆を経由してドクターへ辿り着けるはずだ…)
「オフ会?…ってのはよく分からないけど、8月18日になれば進展するのよね?で結局繋がりは何なのよ」
「前置きが長くなったな。結論を言えば、戸瀬不動産と平原家の力を貸して欲しい」
「…一応理由を聞こうかしら」
どの道選択肢はないが、トップでない者が二つ返事で了承できるわけがない。せめて神岐の心中は先に知っておかなければならない。
「府中動乱を通して学んだのは自衛力の強化だ。そのために『超能力者』を増やしているし体を鍛え始めた。だがさっきも言ったが、俺達は"見つける"のフェーズさえ終わらせればそれで勝ちだ」
「…そこが一番難しいって話よね」
「あぁ、だから"見つける"フェーズを円滑にするために、アンテナを張り巡らせたい。そのために都内に点在しているであろう平原家の土地と、戸瀬不動産が関わった建築物を活用したい」
「…具体的には?」
「ドクター、神原、白ウサギ、鬼束、時雨、羽原のの達、牧村桃秀達等。超能力関係者の情報をインプットした人間を配置する。そいつらが監視カメラの役割を果たして情報を集めてくれるはずだ。設楽を都内全域にばら撒くと考えてくれればいい」
「それは何とも……頼もしいのか怖いのか…」
「私を例に出さなくても…」
「暁美と奏音にとっちゃ設楽が一番イメージしやすいからな」
『認識誘導』下の中で、設楽は2人を護衛してヘリコプター脱出までサポートした。
あれだけの働きをした人間を各地に配置すれば、確かに有益な情報を得られるだろう。
「それともう一つ。今やってるみたいな話し合いの場所を提供してほしい。近くのコワーキングスペースだとかカラオケだとかで話すには危な過ぎる。戸瀬不動産の建物ならセキュリティもしっかりしてるだろ?」
「そりゃあまあ、万全だけど…」
奏音としては少し……
「…それだけでよろしいのですか?もっと私達を使うことだって出来ますのに…」
暁美も奏音と同意見のようだ。繋がりを使うにしては少し弱過ぎると…
「そりゃフルに使えばもっと楽だろうが、平原家と戸瀬不動産が敵対してますと宣言する必要もない。府中動乱のような直接対決の時は色々頼むかもしれないが、常時使いっぱなしはリソースが保たんだろ。八重洲エンティホテルでは戸瀬不動産に迷惑かけて平原家にケツ拭いてもらったからな」
「あぁ…パパが言ってたやつか」
「世界一さん…」
「だから使うのは最低限…人員を割いてもらわない程度…ヘリコプター脱出未満と思ってくれ」
「分かった。人を建物周辺に置くのと会議室開けるくらいならパパもやいのやいの言わないと思うわ」
「私の方も、大丈夫だと思います。…あの、義晴様。『超能力』のことはお父様や戸瀬不動産の社長には伝えないのでしょうか?」
「……難しいところだな。…府中動乱や八重洲エンティホテルの件で普通の事案ではないことは伝わってるだろうが………一旦みんな集めて話し合うか。庭早烈斗と会話する時に関係者を全員集めて情報共有をしよう。暁美と奏音のボディーガードの話とか含めて一遍に済ませた方が楽だな」
「…まさか『認識誘導』で一気にやるつもりか?」
「情報共有はな。流石に意思決定には干渉しない。平原家も戸瀬不動産も本来は関わるべきじゃないからな。人殺しからのお願いは自由意志で決めてもらわないと後味が悪い」
「…私達にちゃんと話したのもそういうこと?」
「癇癪を起こそうもんなら操ってたかもな。だが府中動乱の生き残りがそんな間抜けを晒すはずがない。暁美は『超能力者』になって、奏音は宗麻、設楽とバチバチにやり合った。俺はお前らは自分で考えて戦える力を持っていると思ってる。『認識誘導』でどうとでも出来るが、なるべく使わないことが誠意の表れだろ?」
「……どうせ使われたら分かんないですもんね」
「余計なことは言わんでよろしい」
真面目な設楽が正論を叩きつけたことに突っ込む神岐。
「庭早との話し合いは11日だ。奏音、早速だが場所の手配をお願いしていいか。セキュリティーが万全かつ戸瀬不動産の看板が直接掲げられていない場所を頼んだ」
「任せてちょうだい!」
「暁美、まずはご家族と会話をすると良い。家に帰ってきたばかりで不安になってると思う。会話して安心させてやれ。じゃないと話し合いも出来ないだろ?」
「…はいっ!分かりました」
「みんな、これからよろしく頼む!」
「おぅ!」
「はい!」
「えぇ!」
「喜んで!」
♢♢♢
———2018年8月9日 櫛灘病院
「命に別条がなくて良かったね〜」
「死んでたら祥菜がショック受けたろうからな」
球から出した鬼束兄弟達は衰弱こそしていたが命に関わることはなく、大部屋で眠っている。
祥菜は時雨とガールズトークをするとのことで、手の空いた男3人は大部屋で鬼束兄弟の経過観察をしていた。
「時雨を家に帰すのはいつにするんだ?」
「それについては櫛灘先生に許可をもらってある。元は精神的な問題だから家に帰した方がリハビリにも向いているとの見解だ。伊武君とのガールズトークが落ち着いたら移動する予定だ」
「…南武線は使わないんだろ?」
「列車事故を思い出してしまうからね。私も現場にいたが、スプラッタ映画のような惨劇だったよ。4日経って通常運転をしていることの方が逆に恐ろしい」
神岐義晴が時雨を捕まえるために、府中本町駅に停車していた電車の車掌を操り衝突事故を引き起こした。
捕まる寸前でドクターが時雨を救出したが、凄惨な現場に居合わせた彼女の心情を思えば、同じ路線を使わないのはせめてもの配慮だろう。
館舟と川崎の往復には何も感じていないようだが、南多摩や府中本町に向かえば、恐怖を再起させてしまうかもしれない。
稲田堤まで電車で移動して、京王相模原線を経由して府中まで向かうとのことだ。
「2人だけで大丈夫なんですか〜?」
「大人数で行くもんでもないし一時帰宅だからね。しばらくは病院との往復になる。だから零君達を見てくれると助かる」
「まぁ俺も麦島も祥菜も駄愚螺棄の目がある内は動けないからな。祥菜経由で"出来ないことはやった"ってことは聞いてるけど、正直どこまで当てにして良いかも分からんしな」
伊武議員は務めを果たしたらしいが、二周遅れでそれを言われてもというのが正直なところだ。
「なら零君らを頼んでも良いか?」
「いいですよ〜」
「……麦島お前、寝坊分を取り返そうとしているな?」
「なっ、なっちゃん〜そういうのは思ってても口に出さないでよ〜。立つ瀬がないんだから少しでも貢献して挽回しないと〜」
「なら鬼束達は頼んだ。俺もやりたいことあるしな」
「デート〜?」
「それは昨日やった」
「別に2日連続でも良いんじゃない〜?昨日だって今後デートする時間が作れなそうだから捩じ込んだんでしょ〜?」
「……そういうのは思ってても口に出さねーんだよ。病院で時間潰すことは分かってたから祥菜に夏休みの課題一式持って来させたんだよ。祥菜には悪いが空き時間を有効に使わないとな」
「うわぁ…デート翌日に〜…、伊武さんもお気の毒〜」
楽しいデート、ガールズトークの後に宿題をさせられるのは可哀想だ。
今後学校をどうするかも決まっていないが、作戦会議までは時間があるのでその間に終わらせるつもりだ。
「……何はともあれこの病院にいてくれるのは助かる。零君達は今日の夕方に目を覚ますだろう。私は夕方より少し前くらいにここに戻ってくる」
「分かりました〜。俺がここで見張っておくので大丈夫です〜」
「麦島がいるから安心して送迎していいぞ。なんならこのまま帰って来なくても良いまである」
「帰って来るよ。櫛灘先生にこの病院での滞在を認めてもらったからね。奈津緒君や雪兎君と協力関係を結んだのならコソコソ隠れる必要はない。今連中が君らを狙う理由はないからね」
「府中動乱で暴れた神岐義晴がお前に矛先を向けたってやつか。白ウサギを狙った『超能力者』が返り討ちにあったことを踏まえると、もうお前以外に迂闊に手は出さんだろうが……永遠ってわけじゃないだろ?」
「あぁ、私が『超常の扉』を作る時間は与えるつもりはないだろうからな。少なくとも8月中に起こることはないはずだ」
約3週間。それだけの時間があればこちらも準備を整えられる。
「待ち構えるのか?こっちとしては知覧と茂手木を殺せば良いんだから攻め込んでも良いとは思うけどな」
「暗殺で済むならそれで良いが、雪兎君の話では拠点は隕石で消し炭になったからね。闇雲に探すわけにもいかない」
「お互い探しあって見つけたら即戦闘ですか〜?準備のしようがないというか〜、こっちのホームで見つかったらマズいと思うんですけど〜」
『頭上注意』を館舟に落とされる可能性がある。地元が戦場になるのは回避したい。
「それはない。私の『超能力』が奴らのところまで導いてくれるはずだ。私、奈津緒君、義晴君、雪兎君、羽原のの達、…それと奴らは必ず一点で交わる。…府中動乱よりも大きな戦いだ。戦いの勝者が間違いなく『超能力』の覇権を取る」
「「…………」」
薬物能力と隕石能力と催眠能力による混沌以上……想像がつかない。
あの場にいなかったドクター、神原、神坂。まだいるであろう敵超能力者。それらが雁首揃えて『超常の扉』を奪い合う総力戦が始まる。
薬物能力者と隕石能力者の組織は別であるから三つ巴……いや、神岐義晴が全面的な味方か不透明なことを考えると四つ巴もありえる。
「…その戦いに俺が参加してどうにかなるとは思えんがな」
戦う意志はあるが、いざ対戦相手を聞くと立ち位置が見えなくなってしまう。非能力者には有利に立てるが、超能力者相手にどこまでやれるのか…。
市丸相手に死にかけたことを思い出してしまう。
「どうにか出来なければ死ぬ」
ドクターはキッパリと言う。10年も戦ってる人の言葉は重たい。
「キツい焚き付け方すんなぁオイ。誰もがお前のように動けるわけじゃ…………」
神原の口が止まった。
ゆっくりと口を閉じてドクターの方に向き直した。
「…その戦い、時雨は必須か?いや、必須だよな。8月中に時雨を万全に戻せと。それで俺に遣わしたのか?」
「……君が適任だった、それだけだ。伊武君を『超能力者』にすることを決めたのは時雨君を遣わした後だ」
「消去法だろ。神岐は危険、白ウサギは子供すぎるから。……まぁいい。祥菜が出来る限りのフォローをするだろうが、時雨を勘定にいれたりするなよ。お前から焚き付けるのも無しだかんな」
「…分かっている。それまでに時雨君が再起しなければ戦いには参加させない。神坂姉のところに匿ってもらうつもりだ」
「はっ?何で滝波夏帆?そういう『超能力』なのか?」
「ん?伊武君から聞かされていないのか?…彼女も律儀というか真面目だな。…君らは近々滝波夏帆に会うんだろ?」
「祥菜が引き合わせたいらしい。俺としても白ウサギに一度会ってみたいから良い機会だ」
「ならそこで私の言ってる意味が分かるはずだ。彼女の口から詳細を聞くといい」
ガラガラガラ
扉が開いて時雨が部屋に入って来た。
入院着ではなく、5日に着用していた服を着ている。
「お待たせドクター」
「では行こうか」
今後の展開へと続いていく話でした
神原サイドを苦しめていたお金の問題が櫛灘医師によって解決しました
これで奈津緒が気兼ねなく動けるようになるでしょう
地味に解決していない時雨の能力喪失問題も少しずつ解決していくことになりそうです
さて次回も引き続き三陣営の今後の動きについての話になります
第5章の最終回はもうすぐそこまで来ています




