第154話 ヒロイン育成計画⑮
———ヒューザ川崎前広場
「……もしもし」
「…………はーい」
「……!……なつおだな」
蔵野からの応答がないと他の追手から連絡があった。蔵野と細山田は最前線で”なつお”とその連れを追っていた。
奴らは多摩川方面に向かっていたので直接”なつお”を追う組と、東京都へ続く橋で待ち構える組に分かれて行動していた。
そして、蔵野の携帯電話から蔵野ではない細山田でもない声…。
「あんたは……駄愚螺棄の古坂だな?」
「……さぁ、どうかな?」
「そうか、人違いですか。なら間違い電話ですね。この電話の持ち主は”なつお”って名前じゃねーですよ」
そう言うとブツッと通話が終了した。”なつお”が通話を切ったのだ。
「………」
無言でリダイヤルする。
プルルルルルル プッ
「……もしもし」
「…………はーい」
「……………古坂だ」
「そうか…なら最初からそう名乗れ。猿山の大将が出来もしない駆け引きしてんじゃねーぞ」
まさか切られるとは思っていなかった古坂は素直に応じることにした。
古坂は神原へ向けて軽めのジャブを打ったつもりだったのだが、それが神原的には気に入らなかったようで躊躇いもなく電話を切った。半グレ相手にその思い切りは命知らずか余程の強者であろう。
稀中達、蔵野達を猿呼ばわりしていたが、駄愚螺棄の猛追を二度も撃破したのだから奴が自惚れてそう言ったとしてもおかしくないことだった。
この男は駄愚螺棄の脅威になると再認識した古坂であった。
「……蔵野と細山田は?」
「2人とも身動きを取れなくしてる。土手で派手にすっ転んでて愉快だったぜ」
(土手……やはり多摩川を越えるつもりだったのか…)
時間的に橋に着いていてもおかしくない。張られていることに気付いて他の場所へ逃走する選択肢もある。
古坂はもう片方のスマホで素早く『土手に”なつお”がいるはずだ』とメッセージを送った。
「…どうして電話に応じた?」
「あんたと会話したくて。どうしていたいけな小市民を追っかけ回すなんて非道な行いが出来るのか聞きたくてな」
「小市民?生意気さは大市民じゃねーか。そんな奴に稀中がやられたってのが広まると駄愚螺棄の格が落ちるんだよ。だから報復して駄愚螺棄に手を出すことが如何に愚かであるかを知らしめる必要がある」
「…ふーん」
「サツにパクられたし生き残りは逃げたしで断片的な情報しかないが…、稀中が吹っかけてきてお前が撃退したって筋書きだろ?」
「…分かってんなら退いてもらえないですかね。こっちに危害を加える気なら潰さざるを得ないんだがな。特にあんたはな」
「退けないねぇ。今のお前が把握していないかもしれないから説明するが、今大島総合病院は地獄だ。”さちな”を奪うためにお前に差し向けられた追手の何倍もの人間が投入されている。デカ目の病院だが、いずれは見つかるかもなぁ」
「………」
(全員を引き付けられるとは思っていなかったがまさか祥菜の方が多いとはな…)
神原の予想と少し異なる人員配備になっていた。
(連中はやっぱ祥菜が病院にいないことを知らないんだな…。虹色ネイルの女はやれそうな人材に声をかけただけってことか…。『一時の邂逅』、稀中が忘れられてたんだから分かってた話だが…名前通りの関係性だったな。そのせいで俺と駄愚螺棄がバチバチにやりあってんのは羽原ののの望んだ展開なのか?)
正体もはっきりしない超能力者集団と一戦交えるというのに、こんな連中と潰し合いをするのは無駄でしかない。
向こうは何をしているのか。ひと暴れさせるまで動かさないってのは……、まだ私怨が残っているということか…
「…俺に手こずってる猿山軍団が俺より強い祥菜をどうこう出来るとは思わねぇけどな。全戦力を俺達に注ぐべきだったのに…、狙いの的を増やしたばっかりにどっちも中らないってのは、中々に無様だと思うねぇ」
「……いつまでその減らず口が叩けるか楽しみだ」
「随分な言いぶりだなお猿さん。自信ありありだ………ならこうしよう。祥菜を連れ去ることに成功したら、自首するよ。どの道祥菜を人質にされたら俺は抵抗できねーからな」
(ほう……)
煽り挑発だらけの”なつお”にしては随分と弱気なことを言っている。
“さちな”の誘拐に成功したら”なつお”はそうせざるを得ないだろう。
完了通知を”なつお”へ伝える手段がないが、お楽しみ動画をネットにアップして首都圏の学生ネットワークに流せば必ず奴へ辿り着くはずだ。
(蔵野と細山田のスマホは”なつお”の手に渡ったとみていいだろう。2人のスマホに連絡を入れれば”なつお”へは繋がる…?まあそれはいいか。問題は———)
「……失敗したら?」
「———」
「———」
「俺達から手を引け。あの有名な駄愚螺棄の参謀ともあろう者が、勝率100%の賭けに挑戦しないはずがないですけどねぇ……」
(っ、このガキ………。とことん人を煽りやがる……!)
古坂は神原の取引の意味を理解した。
(何が弱気だ。この上なく強気で煽り挑発の右ストレートじゃねーか!)
ここで乗るか蹴るかは重要ではない。それはお互いに分かっている。
ここで手を引きますと言って駄愚螺棄側が馬鹿正直に引く必要がない。
口先だけでハイハイ言ってそれを反故にしても良い。反故にして失うモノが駄愚螺棄側にはない。
神原はそれが分かっていてわざとけしかけているのだ。
退くことは面子的にも許されない。ここまで動員しておきながら取引に応じて撤収なんてしたら自分の評価を下げかねない。
参謀ポジションが勝てる見込みがありませんので戦いませんでしたなんて口が裂けても言えない。戦いを仕掛けたのが自分であれば尚更だ。
結末は三通り。
手を引く
仕掛けて成功する
仕掛けて失敗する
引くことは出来ない。かつやるからには成功させなきゃいけないから取る選択肢は1つしかない。
プライドを守るためにもそれを選ばざるを得ない。
「…良いだろう。お前が無様に自首してくるのを楽しみに待ってるぞ———」
♢♢♢
———大島総合病院 12階 個室ルーム
搾取物から情報を聞き出した覆面の男、梔子は部下を数人引き連れて12階へ辿り着いた。
1階には警備員。暴れ出したら上の階から数人の若い医者が降りてきていた。
そして、暴れ回ったおかげで入手できた現時点での入院患者一覧のリスト。
「入院患者の名簿の中に"さちな"の名前はなかった。だが現在もこのフロアには立ち入り禁止命令が出ている。ってことは病院関係者にも伏せて”さちな”を匿っているんだろう。警察が俺らを警戒してるのか…?」
箝口令を敷いていたとしても、命の危険を感じればボロが出るものだが、誰も"さちな"の情報を持っていなかった。
この病院に救急車で搬送されたというのに入院記録にない。まさか日帰り入院なんてことはないだろう。”なつお”がここに立ち寄った理由が分からないし今もなおここを立ち入り禁止にしている理由がない。
そして、1階に来たのは医者のみで、警察関係者や警備員の類いはいなかった。
12階を守っている者はいない……あるいはごく少数で人手を分散する余裕がない。
「ここに人を置いていたとしても多分2,3人だな。最奥って話だからおそらく一本道。待ち構えるなら悪くないポジショニングだ」
12階にはいくつかの個室ルームが用意されている。位が高かったり要人向けの入院部屋ということだろう。
駄愚螺棄に狙われることを警戒してこの部屋を当てがっていても変な話ではない。立ち入り禁止も警察事案なら当然だ。現場の人間にすら隠し通しているのが一層不気味だ。
(院長だとか部長だとかを脅しとけば良かったな…)
安易にゴールに突っ走ったせいでゴールが見えなくなっていた。そういう連中をけしかけていれば背景も"なつお"に関する情報を得られていたかもしれない。
既に時間はない。
次のストレートを右に曲がれば最奥の部屋だ———
———いた
白衣ではなくスーツで身を固めた男が1人。そいつの真横にスライド式のドアがある。
その中に"さちな"がいる!
そして狭い。入院ベッドを丸ごと外に出せるだけの広さはあるが、人間3,4人と言ったところか…
「…梔子さん。まずは俺が行きます。倒さずとも体に抱きついて動けなくすればそれで良い」
「…そうだな。"さちな"さえ連れ去れば駄愚螺棄の勝ちだ。ここにいる5人で……6Pになるのか。"なつお"への報復って意味なら大人数の方が面白いかもな」
「よしっ行け!須藤が抑えたら他も順番に突入だ!1人でも部屋の中に入れれば問題ない!」
「「「「了解っ!」」」」
足音………、誰か来たみたいだな。
12階は個室ルームだが、伊武様が12階を占有しているわけではない。他にもこの階で入院している方がいる……そっちの見舞客か…?
(……ありえないな。駄愚螺棄に決まっている。…侵入から数分でここにたどり着いた。入院の事実すら秘匿だってのに……いや、12階のこの部屋を立ち入り禁止にしてるんだから関係者を脅して聞き出せばそこにいるかもと検討はつくか…)
段々と足音が大きくなる。手当たり次第ではなくピンポイントでこの部屋へ向かってきている。
「ここに人を置いていたとしても多分2,3人だな。最奥って話だからおそらく一本道。待ち構えるなら悪くないポジショニングだ」
喋りながら近づいて来る。ところどころ詰まっているのは走っていることによる息継ぎのせいだろう。
(2,3人ってところまで読まれているか…。……今後も駄愚螺棄の襲撃リスクがあるなら社長に打診して増員をって思うが、サービス労働だからな…難しいか)
超能力、警察、半グレ
豊橋刑事の話では警察内部にも怪しい動きがあるとのことだった。
三つ巴……いや、超能力は神原君とネイルの女性で対立しているから四つ巴か…。この争いに首を突っ込んでいる。
桂西とも話したが、社長は正義感から乗り気だ。だが同時にこれ以上増員することは難しいとも考えているはずだ。
豊橋刑事ならお金は出せるだろうが限度がある。神原君は……まだ学生だ。不可能だ。
(……金か。駄愚螺棄も金で伊武様誘拐を目論んだみたいだし。どこまでいってもこの世の中は金で左右される)
金銭問題さえ解決すれば良い。
(神原君達もそれを憂慮していたからな———)
~~~
———数十分前
神原奈津緒と麦島迅疾は空の病室で方針を練っていた。
その内容は入り口を警護している枚方と桂西の耳にも入っていた。入り口に聞こえる声量で会話していたからわざと二人に伝えていたようだ。
内容としては病院を出てから駄愚螺棄による監視を警戒して病院から離れた場所へ逃走する。そこで追手を捕獲して情報を聞き出すとともに逮捕…駄愚螺棄の頭数を減らすというものだった。
その中で神原と麦島が桝飛セキュリティサービスについて話していた———
「……今さ、桝飛セキュリティサービスのホームページ見てんだけど、1時間あたり数千円から1万近くまでするらしいな」
「うぇ〜。高いねぇ〜。でも護衛だったりってリスクもあるからそのぐらいお金がかかっても仕方ないよねぇ〜」
リスクに比例して金額が増える。当たり前の話だ。
「1時間1万円と仮定して…2人で……今日時点で4日だから………1×24×2×4……192、192万円だ」
「しかも時雨ちゃんの護衛も6日からやってるし〜、時雨ちゃんを櫛灘病院に搬送するのも含めると……大体250万円くらいだね〜」
「……もっと大量に甘い物持ってきた方が良かったか?」
「人の数は変わんないよなっちゃん〜。もっと良いとこのお菓子にしないとね〜。量より質〜」
扉の向こうで話を聞いていた枚方としては、子供が気にする必要はないの一言なのだが、どうも彼らは申し訳なく思っているようで少しでも還元したいと考えているようだった。
「これからも駄愚螺棄との因縁は続くと思う。一旦収まる予定だが油断は出来ない。それだけじゃない。お前の言う通り時雨の護衛、時雨の搬送みたいな突発作業……いや、これからはお前と祥菜の護衛も必要になる」
「俺〜?、俺にも護衛がつくの〜?」
「駄愚螺棄が病院前を監視しているならお前が俺の仲間と思われてもおかしくないからな。今の所俺、ドクター、時雨、豊橋刑事、女島刑事しか知らないが、府中動乱の関係者に漏れた場合を考えると必要になる」
「……女の子達だけで良いと思うけどな〜」
「3人を1日張り付きとして……1日72万円。突発作業費用を加味して1.5倍…。1日100万円だ」
(……そこに自分の名前を入れないのがなっちゃんらしいな〜。俺よりもなっちゃんに護衛が付くべきなのに〜)
どうしてこうも自分を度外視するのかと麦島は呆れていた。勿論それを口にする必要はない。いらんカウンターを貰うかもしれないからだ。
「100万円か〜。1日でだもんね〜。1ヶ月3000万円。年間3億6千万円〜…。……凄いねなっちゃん〜、力だけじゃなくてお金も持ってないとこの戦いに勝てないよ〜」
「…月3000万円。俺に父親がいたとしても無理だな。多分伊武議員でも無理だろ。3000万円って総理大臣とか閣僚とかの上位0.0001%クラスのはずだ。……ちっ、隕石を生み出す力があるなら金やプラチナを生み出す力があっても良いのにな」
「でも供給過多で価格が暴落しそうだよね〜。一気に市場に流さなきゃ問題ないんだろうけども〜、って〜、話逸れてるよ〜。ほら駄愚螺棄対策の話続けるよ〜」
「…分かったよ。金については豊橋刑事も交えて話した方が良いからな———」
(この子ら高校生だよな?随分と経済的な話をしてやがる…)
扉越しに聞いていた桂西は高校生離れした会話をしている2人に若干引いていた。
1日100万円の見積もそれほど外れてはいない。
1時間1万円という仮定をしているが、果たして超能力なんて不可思議現象に対しての護衛、危険因子の排除が1万円で済むのかどうかは疑問だ。
(サービスで割引いたとしても1日100万円は妥当だな。…タダ働きはゴメンだが、金払えないから撤退で神原君達に死なれても後味が悪い。どうにかならないもんかね……)
今はまだ許容できているがどこかで終わりが来てしまう。
高校生では出来ることに限界がある。頼みの警察も信用ならない。となると民間警備会社しか道はないが、所詮は民間であり行政や公共機関ではない。
彼らが桝飛セキュリティサービスをタダ使いできる便利屋と思ってくれていたら切り捨てられたかもしれないが、暫定無料であることを真剣に受け止めてなおかつ金銭問題をどうしようかと話している2人を見ていると…どうにかしたいと思ってしまう。
隣の枚方を見ると、彼らの話を聞いているようだが困った顔はしておらず護衛の仕事モードに入ったままだった。腹の中では同情しているようだが、それを外に出していなかった。
(…駄愚螺棄をどうにか出来る程度でないと…ってのは、腕っぷしだけじゃなくて資金力とかの話になるのかな。であれば、彼ら自身が解決しないといけないのか…)
手っ取り早く金を増やす方法は……貰うこと……つまりは資金援助だ。
伊武議員以外の援助ルートを見つけ出すこと。それが彼らがやらなくてはならないことだ。しかし、高校生が成しえるには難しい課題だ———
~~~
———敵の数は5人。
1人が先陣を切って他4人が追従するようだ。
道幅が狭いと言えど屋外と比べたらの話。迎撃しやすいが先陣の攻撃で一度転げてしまうと立て直しは難しい。
(桂西が中で見張ってて良かった。1人だと思って強行突破を考えてるみたいだ。ならばちょうど良い…)
「絶対に病室から出ないでください!私がここで食い止めます」
連中に護衛は自分1人で中に伊武祥菜がいると誤認させる。
(…ここから出るなと。祥菜様がここにいると誤解させて中に入ったところを俺が不意をついて潰すって感じか…。俺が外に出て向こうに撤退されるよりは、神原君達のために駄愚螺棄を警察に突き出した方が良いってことね…)
桂西も枚方の指示の意図を汲み取って警戒態勢に入る。
窓の外を見ると1階にはパトカーが数台停まっている。だが数が乏しい。病院内の人間が通報したとしてまだ数分。繁華街の目と鼻の先だが大群が来るにはもう少し時間がかかる。
(窓から侵入する気配はない。だが油断は出来ないな…。護衛は1人だと思い込んだ駄愚螺棄の連中が裏をかいて窓から侵入してくるかもしれない……)
豊橋刑事の計らいでこの病室の窓は強化ガラスになっている。一昨日のような体当たりでの突入では砕けないようにしたのだ。
(…問題は神原君達だ。向こうにも駄愚螺棄の刺客が向かっているはずだ……。無事でいてくれよ———)
♢♢♢
———都内某所
「なっ…………!?」
鬼束市丸が驚愕する。
「???…どうしたの?」
伊武祥菜は何故市丸が動揺しているのかが分からず戸惑う。
「…………ほぅ、これは、まさかっ!」
ドクターは目の前の事象から神坂雪華の『超能力』の見当がついたようだ。想像以上の能力に驚いていた。
「…………」
神坂雪華は何も言わない。
心の中で「やっぱり…」とだけ考えていた。
『えっ、そっちはどうなってるの?』
電話越しのため市丸達の身に何が起きたのか分からない時雨は電話の向こう側へ向けて訊ねた。
しかし皆目の前の現象に心を奪われていてそれに回答する者はいなかった。
数秒経って回答したのは、一番驚いた市丸自身だった。
いや、回答ではない。己の身に起きた事象を羅列しただけだ。
「『色鬼』が、発動しない……」
『えっ?』
咄嗟に時雨が思ったのは………同じということ。
能力の使い方を忘れてしまった自分と同じ現象が起こった。
同じことを伊武祥菜も感じていた。
時雨の話を聞いて、そして市丸の発言。
能力が使いたいのに使えない状態———
「……能力を……………能力を使えなくする能力」
「…………うん、これが私の『超能力』なんだと思う」
「「………」」
言葉が出ない。
『無効化能力』
その強さに、恐ろしさに……
時雨もどう声をかけて良いか分からない。
自分からインスピレーションを得たのかと問いたくなったが、それでは己の能力喪失がドクターにバレてしまう。
……どうリアクションを取っていいか分からない。
凄い『超能力』であることは明らかだが、彼らは『超能力』に精通しているわけではない。この力がどれ程のものでどういうバリエーションが考えられるかというところまで頭が働いていなかった。
この場で唯一この話が出来るのは……ドクターだけだ。
「……伊武君のためというのはそういうことか」
先程の雪華の発言の真意に気付いた。
「?」
祥菜はまだ理解できていないようだ。雪華の『超能力』をまだ咀嚼しきれていない。まだ正常な状態には戻れそうにない。
「市丸君、今どういう感覚だい?」
「かん、覚…。えぇと、いつもは手で触れて頭で念じたら操作できるんですけど……、操作した時って…こう……グッてなるんです。掴み取ったような…それが操作できるようになったタイミングだと俺は思ってるんですけど……、そのグッ…が、来ないです。操作しようと頭でイメージしても全然動かないです」
市丸も上手くアウトプット出来てなくて会話が断片的になってしまっている。
「発動の意思を奪ったり指向性を変えたりしているわけではないのか……。伊武君のケースからしてそうではないんだろうが…」
「……なんだ?分からないけど…ここでは超能力を使えない、そんな感じだ」
(ここでは……か……。人への手動対象型ではないようだな)
伊武の『超能力』も使えなくしていたところを考えると、人に向けてというよりもバリアのように自分の周囲の空間に作用させているようだ。
「……『超能力』を使えなくする『超能力』。……これは……危険だな」
「……ですよねぇ」
雪華も自分の『超能力』の危険性について理解していた。
『…なんで?能力を使えなくするなんて、隕石能力だって封じ込めれるじゃん』
「…確かに時雨君の言う通り、牧村の『頭上注意』や舟木真澄の『甘魅了』を無効化できる。おそらく義晴君の『認識誘導』すら効かないはずだ」
『ミ、『認識誘導』も…!?』
あれを無効化できるのなら相当強力だ。だったら尚のこと危険はないように思うが———
時雨よりも早く伊武が気付いた。
「……敵に吸収された場合に脅威になるってこと?」
「その通り。義晴君の『認識誘導』の他に人を操る『超能力者』は存在している。『甘魅了』、『不定期劇場』、生きてるか分からないが羽津飛仁の『どこまでもお供する』もだな。操作というより支配が近しい能力だが、彼らの『超能力』に掛かってしまってこちらに牙を向かれると、誰も太刀打ちできない」
敵に回したら厄介な能力。神岐の『認識誘導』もそうだ。
『認識誘導』は強すぎるし神岐自身の身体能力も高いから負けることはないかもしれないが、雪華は違う。
『超能力』を封じても接近戦に持ち込まれたら女の子の力では一方的にやられてしまう。
「神坂姉はその力をどこまで把握しているんだ?」
「……推測も入りますけど……、おそらく私を中心に一定距離の『超能力』を無効化する。この部屋とさっき祥菜ちゃんといた時から考えると…半径3〜5メートルくらいかな?と思います。祥菜ちゃんの『超能力』が使えない状態になっていたんだとしたら、範囲に入った人全員に適用されちゃう感じだと思います」
「おそらくその推測は正しいだろう。特定のモノを指定して発動するタイプではなくて『半径5メートル以内に入る』ことが発動条件の"自動発動型"というところだね。……その『超能力』、オンオフは出来るのかい?」
「………分からないです。スイッチを入れたってイメージがないので……」
「そうか…」
("無自覚発動型"かも……いや、だとしても一定範囲内の『超能力』を無力化できるのは十分なリターンがある。"無自覚発動型"だからこれだけの『超能力』になっているのかもしれないからな……これはもっと検証が必要だな)
もう少し調べたいところだが、それでは彼女達との約束を違えることになる……
「…じゃあ、雪華ちゃん………」
「………うん、せっかく出来た友達と離れ離れになるのは寂しいけど、早くふゆ君を安心させたいの」
「そう……だね。あぁじゃあ最後に、スマホを貸して!私と奈津緒君の番号とアドレスを登録しておきたいから」
「あっ!そうだね。まだ交換してなかったね!でも……奈津緒君の連絡先?」
「大丈夫、暗記してるから」
(いや、人の連絡先を勝手に教えていいの……………暗記してるの!?えぇ?)
ついに神坂雪華の超能力が覚醒
半径5メートル以内の超能力を無効化する能力
神岐義晴の『認識誘導』にも対応できるかもしれないアンチ超能力です
名前は決まっていますが彼女の口から出るのはもう少し先です
15話…間の過去編も入れると34話目にしてようやく3分の1が完了しました
既に己の力を知っている平原暁美の能力もその内描写されます
残る1人、伊武祥菜
無効化能力者がいなくなることで彼女の力が表に出てきます
彼女が願ったものとは———
次回も駄愚螺棄とのドンパチです
枚方と桂西側、そして絶賛駆け引き中の神原と麦島、1人残された伊武とドクターを描いていきます




