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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第2章 神岐義晴
14/164

第14話 とある日常 神岐義晴の場合

 キーンコーンカーンコーン


 講義が始まった。

 教授がスライドを投影し、レーザーポインターを当てながら説明をしている。

 しかし、真面目にノートを取る気にはならない。

 どうせ講義の後に、講義で使ったスライドを学生専用のポータルサイトにアップロードするのだ。そこからデータをダウンロードして内容を覚えればそれで事足りる。

 テストも講義の内容しか出ない。精々がスライドに載っていない発言をメモ書きするくらいだ。

 出欠管理されているので講義を欠席することはないが、前述の通りなのでそこまで本腰を入れて講義に打ち込む気にはならない。

 なので教授にバレないように筆箱で隠しながらスマホをいじっていた。

 座席は中盤を確保している。前列で教授に話を振られず、かつ後ろで学習意欲が低いと受け取られない絶妙なポジショニング。

(……これが華のキャンパスライフなのか?)




 ———ここは京海大学


 都内にある私立大学で、いずれの学部も偏差値が高い。早慶と肩を並べることが出来る数少ない大学だ。

 京海生と名乗るだけで周りの見る目は変わり、就活においてもフィルターが掛かることなく十分なアドバンテージを得ることが出来る。



 男の名前は神岐(かみき)義晴(よしはる)

 京海大学に通う大学3年生だ。

 顔立ちは整っている方で、原宿に行くと男女問わず声がかかる。

 女性の方は逆ナンで男性はスカウトだ。

 だが神岐にとってそれは不便で不都合で不要なモノなので全てスルーしている。

 一度口を開けば向こうからしつこく迫ってくることはない。


 目立つ男だが恋人はいない。

 欲しくないと言えば嘘になるが、欲しいと問われれば「欲しい」と回答しても満点はもらえないだろう。

 欲しいと思っているが欲しいわけではない。

 簡単に手に入るからこそ簡単に手に入れたくない。

 そういう相反する気持ちがせめぎ合って、中途半端な状態を作り上げている。




 総括すると


 持っている側の大学生。

 恋愛願望があるが欲しくない矛盾を抱えた男。



 それが神岐義晴だ———




 ♢♢♢




「へぃ、唐揚げ定食一丁!」

「ありがとうございます」


 ここは大学近くの定食屋。神岐の行きつけだ。

 京海生や周辺校の学生にも広く知られており、周りの席にもチラホラ学生らしき人が見受けられる。

 かつて学食の席が埋まっていて仕方なくコンビニ弁当で済ませようとして学外に出た時に偶然見つけたのがこの店だ。

 それからは学食が埋まっていて午後イチで講義がない場合にはこの店に通うようにしている。


 いつも頼むのは唐揚げ定食だ。今まで食べた唐揚げの中でも別格の美味しさを出していた。

 その味にハマってしまい、昼食の会計時や大学が終わって帰路に着く前に1パック6個入りをテイクアウトしてしまうまでにはハマってしまっていた。

 家に帰る頃にはすっかり冷めてしまっているが、温め直せば店で出された出来立てとはまた違った味わいが出てくる。

 これを(さかな)に酒をグーっと流し込むと気分がスッキリして気持ちの良い夜を過ごすことができるのだ。


 というわけで今回も神岐は会計時に唐揚げをテイクアウトして午後の講義を受けたのだった———



 ♢♢♢



 ———その日の講義終了後


「はい、じゃあ来週までにレポートを出すように」

 准教授が講義資料を投影していたプロジェクターの電源を切って片付けを開始した。

 それと同時に学生席がガヤガヤと騒ぎ立った。

 雑談を開始する者、真っ直ぐ帰る者。次のコマでこの講義室が使われていないと分かっているからか、机に突っ伏して寝てしまう者、様々いた。


「…ん、んぁー、終わった〜」

 背筋を伸ばしながら軽く肩を回す。ずっと同じ姿勢だったから軽く動かしただけでも筋肉がほぐれて血が巡っているのを感じる。

 次の講義はないので真っ直ぐ家に帰ろうとする神岐だったが……


「おーい、神岐ーまだいた!」

 同じ学科の奈良星辰夢(たつむ)が声を掛けてきた。

「どうした奈良星?」

「実はさ〜、夜に女子大の子らと合コンするんだけど、お前も参加くれよ」

(えぇ…)

 腹の探り合い、出し抜き合いの場。そこから育まれる恋愛は大したことないし、夜の予定が埋まっているので、素直に行きたくなかった。


「いやー俺あんまりそういう席苦手だからさー、他の奴に頼めよ。女子大なら食いつく奴いるだろ」

「頼む!急に1人ドタキャンしやがってよぉ。しかもそいつ目当てで来てる子が向こうにいるんだよ。ここでもし来ないってなったら向こうに悪いし今後の関係性に響くからさ…」

「だからって俺である必要はないだろ。第一そんなんで崩れる関係ならさっさと断ち切って次狙えよ」

 深くもない関係を無理に維持する理由が神岐には分からない。

 手広くしたところで体が足りなくなって疲弊するだけにしかならないに決まってる。


「そんな厳しいこと言わないでくれよ。それに急造で集めた奴で向こうが満足してくれるわけがない。神岐じゃないとたぶん乗り切れない。頼む!会のお金は全部俺が奢るから!この通り!!」

 奈良星が頭を下げて手を擦り合わせながら頼み込む。

 本当に行きたくないしルックス目当てなのも腹が立つが、タダ飯というのは引き込まれる。

(しかもこういう勝負どころみたいな時はランクの高い店を選んでるはずだ。タダ飯で良いとこの店のを食べれるんなら悪くない)

 金持ち大学生ではないのだ。打算ありきで付き合うことにしよう。


「…分かった。今回だけだ。シャンパンタワーをしても平気な額の金を下ろしとけよ」

「お、おい…お前何頼むつもりだよ」

 奈良星の顔が引き攣る。神岐の予想通り、女子大生用にランクの高い店を選んだようだ。

「冗談だ。そこまで高いのを頼むつもりはない。ただ、一度家に帰って良いか?これを冷蔵庫に入れておきたい」

 神岐は昼に買った唐揚げパックが入ったビニール袋を奈良星に見せた。

「あぁいいぞ。じゃあ現地集合でいいか?場所は日比谷駅のそばにある『相葉(あいは)』って店だ。19時スタートだから5分前までには店に来てくれ。"奈良星で予約してる"って言えば通してくれるはずだ」

「オッケー、19時な」

 合コンの参加を取り付けた奈良星はヨッシャーと言いながら講義室を出て行った。

 それが周囲の注目を浴びることになり、直前まで会話していた神岐にも自然と注目が集まる。最低の置き土産だ…。



「……トリュフ盛り合わせにしてやる」




 ♢♢♢




 ———『相葉(あいは)


「どうもー、奈良星辰夢でーす。今日はよろしくー」

「「「よろしくー」」」

「………」

 タダ飯で来たはいいが、このノリに乗っかれというのなら前言撤回をしたい。


 ここは居酒屋『相葉』

 店の雰囲気が若者向けであり、ちょっと高めの料金設定によりこうしたイベント事に使われることが多いお店だ。

 メニューにポッキーがある時点で、店側も客層を絞っていることがうかがえる。


 今日のタダ飯合コン。構成としては男衆が京海大学の3年生。女衆が綾ノ森女子大学の2年生だ。

 綾ノ森女子大学は京海と同じ都内の大学だ。

(清の浄女子大に負けないくらい知名度がある有名女子大のはずだけど……中身はそんなもんなんだな)

 大学生しかいないはずだが、高校生しかいないのかもしれない。

 そんな子らと同列の挨拶をしている奈良星のせいで、京海大の価値が損なわれている気がする。


 男組のメンバーは

 ・神岐義晴

 ・奈良星辰夢

 ・猪山(いのやま)紅羽(くれは)

 ・輪島三士(さんじ)

 ・大塚樹曹(きぞう)


 猪山が同じ学部で輪島と大塚は別学部だ。今日が初めましての関係性。

 この場に適応したチャラそうな見た目だ。女子受けは分からないが、男に触れる機会の少ない女性からしたら雄々しく見えるのかもしれない。

 ちなみに元々この合コンに参加する予定だった男は小園守。輪島らと同じ学部のイケメンとして知られているらしい。



「ほら、最後お前だぞ。自己紹介」

 奈良星が肘を突いて促す。

「…別に良くないか?」

「2つの意味で顔を立ててくれよ」

(こいつ…本当にシャンパンタワーを頼んでやろうか…)

 と思いつつも、合コンに参加する以上は最低限のことはやらないといけない。

 奈良星が席を弄って照明が当たっていない端っこにしてくれたおかげで変に注目されることもない。

 神岐への配慮なのか、神岐に掻っ攫われないようにするための小細工なのか。神岐としては小園の役を再現することはしたくなかったので角の席を受け入れた。


「神岐義晴です。今日来るはずだった小園君の代打で来ました。今日は良い日にしましょう」

 馬鹿そうな空間に真面目な挨拶。真っ当なはずが多数決によって場を乱す存在に成り下がる。

 明確なヒールを演じなくても楽にこのシチュエーションに持っていけた。

 場の温度を下げることで女性達からの印象を下げて男共の取り分を減らさない配慮。

(小園が来てたらこの角席はたぶん奈良星だよな?…俺と違ってガチで来てるから……悲惨な目に遭わなくて良かったな…)



「じゃ、じゃあ次は女性陣の自己紹介行きまーす。私は須々木舞でーす。よろしく〜」

「楽市曜子です。今日を楽しみにしてました。よろしくですっ!」

「はいはーい、大森千佳だよー。よろしく〜!」

「戸瀬奏音(かのん)でーすよろしくー」

「ひ、平原(ひらばる)暁美(あけみ)です。よろしくお願いします」

「「「「よろしくー(……よろしく)」」」」

 一瞬冷蔵庫に入れた唐揚げのことが頭を過ぎる。

 合コン<唐揚げなのに、合コンを取ってしまって唐揚げに申し訳ない気持ちになっていた………



 ———こうして10人の自己紹介が終わり、軽い質問タイムに突入した。

 男は輪島が、女は須々木が中心となってわちゃわちゃとしている。

 神岐はその輪に加わることはなく、端席にあるメニュー表をじっと眺めていた。

 ポッキーとかのスイーツページは無視して高そうな料理が載っていそうなページを探す。


(おっ…ここにも唐揚げが置いてあるのか…食べ比べしても良いかもな)

 食べるためには注文しないといけないが、声を上げると場の流れを断ち切ってしまってかつ自分に注目が集まってしまう。

 ちょうどこちら側に目を向けていない絶好の機会の中で男共のチャンスを奪うのは忍びない。


 奈良星が必死に自分アピールをしている。合コンのスタンダードは知らないが、あれくらいのことをしないと成功を掴めないのだろうか。

(向こうの女子大生からは嫌な顔をされてないし一先ず上々ってところかな?)

 奈良星の席は神岐の隣。神岐ほどではないが、照明の悪さがアウェイを作り出していた。そんなデバフの中ではやれているのだろう。


 座席は長テーブルで対面して男と女で分けられている。

 通路側から男が大塚、輪島、猪山、奈良星、神岐。

 女が須々木、大森、楽市、戸瀬、平原だ。

 神岐の正面には平原暁美。自己紹介が1番まとも……場違いだった子だ。

 平原は神岐と同じように会話の輪に入らずに隣にいる戸瀬奏音と小さい声で談笑している。

 場慣れしていないのか終始不安そうにしていた。神岐も初めてなので、妙に仲間意識が芽生え始めていた。

(本来は俺から話すところなんだけど……俺は食う気の空気だから無理に話す必要はないな)

 神岐は手が空いたのでスマホを触ることにした。ツイスターのタイムラインを意識半分で流し見しながら、適当なものを選んでリプライを飛ばす。


 ほぼ無意識で作業していたため、気付いたら20分近く経っていた。

 流石に合コンで20分もスマホを触っているだけなのはつまらないと言っているようなものなので、スマホを片付けた。

 ドリンクは自己紹介の前に注文は済ませてあり、神岐の前には泡がなくなって黄色だけになったビールが置かれていた。


(そういえば彼女達、最初に()()2()()()って言ってたけど、お酒は大丈夫なのか?)

 戸瀬と平原は烏龍茶だが、他の女子3人はサワーやフルーツカクテルなどの女性向けのお酒を飲んでいた。

 思えば、店に入った時に年齢確認されなかった。この店が若者向けなのはそういう理由があるのだろうか。つまり彼女達は………


(…いや大丈夫だろう。向こうの3人は全員一年留年している落ちこぼれ、綾ノ森の面汚し。もしくは全員が4〜5月生まれなんだ。問題ないだろう…多分)

 未成年飲酒は確か本人ではなく提供した店側が罰せられると聞いたことがある。

 大学にも連絡は行くだろうから彼女達は2回目の留年、もしくは退学になるだろう。

 彼女達が自滅するのは勝手だが、同席していたということで「知っていたのに飲ませたのか?ちゃんと年齢を聞いたのか?」みたいなトバッチリを食らうのは最悪だ。


(もしもバレた時は…………使()()()?)

 なんてことを考えていると………



「あの〜」

 正面で戸瀬と話していた平原が神岐に話しかけてきた。

「ん?どうかしましたか?」

「あの…ずっとスマホを触っていらっしゃったので…声をかけなきゃいないのではないかと………迷惑でしたでしょうか?」

「そんなことないですよ。ほら、俺は小園君の代理の数合わせだからさ。出しゃばって男衆の立場を潰すわけにはいかないんですよ」

「そうなのですね。では私とお話ししませんか?私…あちらの方々に混ざってお話しできる自信がなくて……」

 見た限り彼女達の友達には見えない。自分と同じ数合わせ要員。…であれば2人で話していたのも納得だ。


「はい、私でよければ。……というかどこか言葉が硬いですよ。もっと自然な感じで話そうよ」

「そうしたいのですが、これはもう習慣になっておりまして…奏音からもよく言われるのですが中々改善できておらず……」

「…もしかしてだけど、ガチモンのお嬢様だったりします?」

「お嬢様と自称していいものか分かりませんが、父の家系が元華族でして…。今でも都内に土地を持っているんです」

「へぇ…てことは、大地主か…」

(家族……華族か!華族って江戸時代の公家や大名とかのだよな?相当由緒ある家柄…なのになんで…)


「そんなお嬢様が何でここに?家の格的にもよろしくないんじゃないの?」

「そうなのですけれども、一度こういう世俗的な催しに参加してみたくて、今回奏音にお願いしたのです」

 平原が隣の戸瀬の方を見る。神岐も釣られて戸瀬の方を見る。

「ちょっとアンタ。私が暁美を悪い道に引き摺り込んだみたいな目を見ないでよ!」

「自覚あるんじゃねーか」

 平原は敬語なのでこちらも畏まってしまうが、戸瀬の年相応の話し方は逆にこちらも同じようになってしまう。


「そもそも、暁美の家は厳しすぎるのよ!箱入りって言うの?門限あるし一人暮らしは認めてくれないし綾ノ森に勝手に進路決めるしさ。暁美は家の都合で縛られまくってるから少しでも希望を叶えて世間ってのを色々知って欲しかったの」

 戸瀬が平原の家の事情を神岐に説明した。

「そんなに厳しいのなら清の浄女子大の方が適してると思うけどな。日本一の女子大って言ったらあっちの方だろ?」

 綾ノ森の知名度も高いが1番は清の浄だ。知名度もブランドも卒業後のキャリアも日本一に相応しい私立大学だ。

 神岐がそう言うと平原は苦笑いを浮かべて答えた。


「実は昔から勉学の方は苦手なんです。清の浄も受けたのですが、点数が足りなくて何とか受かったのが綾ノ森なんです。両親としては清の浄に受かって欲しかったようで、落ちたことでさらに親からの監視の目が厳しくなりまして……」

「そんなことしたら余計に息が詰まって結果が出なくなるってことに気付かないのよあの人達は!昔からそう。個人の意思を無視した『こうあるべき』みたいな押しつけ。歴史があってその名に恥じない淑女に育てたいのかもしれないけど違うわよ。子供は親の操り人形じゃないわ!」

 昔からそう、という言い方からして2人はおそらく高校生よりももっと前からの関係なのだろう。

『こうあるべき』という押しつけというかステレオタイプな考え方、神岐にも痛いほど分かる。


「その通りだな。親は子を育てるんじゃなくて育ちやすい環境を用意するだけでいい。そうすりゃ勝手に育つってもんだ。自主性が全てってわけじゃないけど、ある程度は子供に任せた方が良い。操り人形にしたままじゃ大人になって何も出来ないポンコツに成り果てるからな。…いや、あなたがポンコツとは思ってませんよ。それを脱却するために友人の手を借りてこうして合コンに参加してるんだ。貴方は十分立派に育っていると思いますよ」

「あ、ありがとうございます。…始めて生き方を褒められたような気がします」

 褒められ慣れていないのか、頬を染めて照れている。


「でも門限あるって言ってたよな?今日は大丈夫なのか?」

「あ、それは大丈夫です。奏音の家で遊ぶと言ってありますので。奏音の家なら遅く帰っても平気なんです」

「親同士が私達が生まれる前からの付き合いなのよ。仲良いから出来る芸当ね。私の家は暁美の家から近いし、それに私は暁美ほど厳しくしつけられてないしね」

「てことはアンタもお嬢様なのか?」

「暁美ほどじゃないけどね。戸瀬不動産って聞いたことある?あれは私のお父さんが社長をしてる会社なの」

(戸瀬不動産って…三井、住友に並ぶ日本有数の不動産会社だよな?第一志望でインターンの準備してるみたいな話を前に構内で耳にしたことがあるな…)

 超絶大企業の令嬢。口調にそぐわないとてつもないお嬢様だった。


「驚いた顔をしてるわね。私のお爺ちゃんと暁美のお爺ちゃんが幼馴染でね。私達の親もその繋がり。不動産会社と地主、ビジネス上でも仲良くやってるって話よ。…それと"アンタ"じゃなくて奏音!アンタが年上なのは分かってるけど、アンタ呼ばわりは何か馬鹿にされてる気がして嫌!」

「ごめん。身分の差的に下の名前は言いづらいんだけど…まあいいや。けど奏音だって俺をアンタ呼ばわりするな。ちゃんと名前で呼べ」

「分かったわよ神岐。はいこれで良いでしょ」

「そっちは苗字かい、良いけどさ」

「あのっ、私のことも名前で呼んでいただけませんか?」

「いいけど、いいのか?」

「はい、私も義晴様と呼ばせていただきますね」

「様は勘弁してくれ。…よろしくな、暁美」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」




 ———それからは2人の家のことや、神岐の通っている京海大学の話をした。

 完全に3人の空間になっており、その間奈良星達は奈良星達で盛り上がっている様子だった。

 メニューにあったポッキーを使ってポッキーゲームをしていたようで、その盛り上がりっぷりは暁美奏音の声が聞こえなくなってしまうほどだった。


 この空気感ならと、神岐は唐揚げをこっそり注文しており場が冷めることなく熱々の唐揚げを食べることに成功した。

 本来なら1人で食べるつもりだったが、一緒に話している2人を放って食べるわけにもいかず、3人でシェアして唐揚げを楽しんだ。

 神岐はお酒を一杯しか飲まなかったが、多少はお酒が入ったおかげで暁美に対しての硬さが抜けてかなり気さくに話すことが出来た。



「えぇ〜!知らないの〜!」

 楽市が驚きの声を上げていた。

 ポッキーゲームも落ち着いて、向こうも雑談フェーズに移行しているようで、趣味だとか好きなものの話をしている中での発言だった。

「そ、そんなに有名なのか?」

 驚かれた猪山も、自分が世間知らずなのではないかと戸惑っている。

「見たことないけど名前は知ってる。ゲーム配信がおすすめ欄によく出て来るな」

 輪島が答えて、大塚も同意見だと頷く。

「一度見てみてよー。面白いからー」

 須々木が猪山にお勧めしていた。


「なあなあ神岐」

 向こうで話していた奈良星がこちらの輪の中に入って来た。

「どうした?」

「お前、comcomって知ってるか?」

「かむかむ?いや、お笑い芸人しか知らないな」

「それはCOWCOW。じゃなくて、動画投稿者だよ。ユーツーブで活動してる人なんだけどさぁ」

「へぇ…初耳だな。それで、その伊勢丹の紙袋がどうしたんだよ」

「それもCOWCOW!どうも綾ノ森で最近話題になってるんだってさ。ゲームとか人助けとかしてるユーツーバー。噂だとヤバめのファンクラブみたいなのもあるんだってさ」

「ふぅん。2人は知ってるか?」

 暁美と奏音に尋ねてみる。


「名前はよく聞くわね。でも見たことないわ。私そういう企画系の人見ないから」

「私は存じ上げないですね。ユーツーブをそもそも見ないので」

「奈良星は知ってるのか?」

(たま)に見るぜ。縛りプレイとかが特に好きだな。見てるこっちもハラハラして結構楽しめる」

「へぇ…今日家に帰ったら見てみるよ」

「見ろ見ろ。今日も配信するって告知あったからライブで見れるぜ」

 そう言って奈良星は再び須々木達の輪に戻っていった。

 ユーツーブの話が出たので、自分達が見てるユーツーバーやテレビについての話で神岐達も盛り上がることとなったのだった———



 ♢♢♢



「じゃあここらでお開きにしようか」

「賛成ー。明日は一限からだから助かるわ〜」

「そんなの休んじゃえばいいのに」

「ダーメ、必修なの。それにこれ以上休んだら出席点不足で単位貰えなくなっちゃう」


 時刻は21時半。お開きにするには十分な時間だ。

 結局『相葉』で2時間半過ごすことになった。

 そして神岐が食べた唐揚げだったが、イマイチだった。普通に食べれば美味しいのだろうが、美味い唐揚げの味を知ったことで舌が肥えている神岐にとっては不十分だった。

 口直しに今日買った唐揚げを食べるのもありかもしれないと考えていた。


 神岐達3人以外はしっかりとした目的のある合コンだったはずだが、成果はどうか?

(…猪山と須々木、今も隣に立ってるし普通に肩と肩が触れ合っている。良い関係になれたみたいだな)

 一方の奈良星も頑張ってはいたみたいだが、お開きの時点でそばに女性がいないということは…成果は得られなかったようだ。

 それでも暁美と奏音以外とは連絡先を交換していたから、全くダメだったというわけではなさそうだ。

 これからチャットや通話で距離を縮めていくといったところだろうか。



 こうして合コンは終わり、それぞれが帰路につき始めた。

 2人で帰る者、1人で帰る者、同姓で帰る者様々だ。

 店の前に残ったのは神岐、平原、戸瀬の3人だけとなった。


「これでサヨナラですね」

 暁美が残念そうな顔で神岐を見る。

「お互い本意じゃない参加だったしな。暁美、良い社会体験になったか?」

「はい、一般の同年代の集まりを知れて良かったです。今日はありがとうございました」

「こちらこそ。俺もこういうイベントは初めてだったから楽しかったよ。もう参加することはないだろうけどな。それじゃあ俺は日比谷線だから」

 神岐は2人に会釈をすると日比谷駅の地下階段があるところへ向けて歩き出した。

 そろそろ時間的にも危なくなってきた。早く帰って()()をしなくてはならない。


「あの、お待ち下さい」

 平原が神岐を呼び止めた。

「ん、どうした?」

「あの、ですね…」

 何かを言いたいようだが中々切り出そうとしない。

「ごめんな、俺明日の準備とかしないといけないから…」

「は、はい…すみません」

 平原は大きく深呼吸をして———



「連絡先、交換しませんか!」

 ようやく切り出した。神岐としても大方予想がついていた内容だった。


「いいよ」

 だからか簡潔に、そして拍子抜けしたような言い方になってしまった。

「よろしいのですか?」

「連絡先くらい構わないよ。むしろもっと面倒な話かと思った」

「あ、いえ、殿方の連絡先を聞くなんて初めてのことでして……」

「…話の通りの箱入り娘だな。ラインでいいか?インスタはやってないんだ」

「は、はい。QRコード出しますね」

 暁美がオタオタとスマホを操作してQRコードを表示させようとする。


「奏音もだ。交換しよう」

「私?私はいいわよ。暁美と一緒に帰らないといけないから待ってるだけだし」

「…なるほど、暁美よりも箱入り娘と」

「ちょーい悪意感じるわね。……分かったわよ。暁美に悪いこと教え込ませないように私が防波堤にならないとね」

「合コン教えた奴が何言ってるんだか」

「うっさい!」

 奏音もスマホを取り出して暁美と同じ操作を行う。


 暁美と2人で話すにはどうしてもラリーが続かなくなる。

『相葉』でも、基本神岐と戸瀬で会話を回していることが多く、それに合いの手で平原が挟むというような形だった。

 教える云々は置いておいて、コミュニケーションという点では奏音と連絡できる状態を作っておくのは暁美のためにもなる。


 そうして神岐は2人と連絡先を交換したのであった———




 ♢♢♢




 神岐は余程急いでいるのか、小走りに日比谷駅へ向かっていった。

 神岐が見えなくなるまではお見送りをするつもりのようで、神岐は一度も振り返ったりはしなかったが、暁美はずっと手を振り続けていた……。



「では私達も帰りましょうか」

「そうね」

 幼馴染の奏音相手であっても堅苦しい口調は抜けることはないが、神岐相手よりは幾分かは砕けて話すことができる。

 目的地は同じく日比谷駅だが、暁美達は千代田線に乗る必要があるため、別の地下入り口を目指して歩き出した。



「ふん、ふふん、ふーん、ふふーん」

「…随分とご機嫌ね暁美」

「だって家族以外で初めて殿方のお知り合いですよ。嬉しいに決まってます」

「それはそうだけどさ…、でも良いの?家の人が黙ってないんじゃないの?」

 奏音は暁美の親の過保護っぷりを嫌というほど知っている。



 平原家は暁美の高校生入学時、外部入学した新入生全員の内部調査を行い素行に問題のある生徒を最終的に転校まで追い込んだのだ。

 2人が通っていた高校は中高一貫のお嬢様学校で新入生も入試の段階で篩にかけられていたおかげで転校した数自体は一桁で済んだが、転校させられた生徒は転校先で見違えるほど変わってしまったそうだ。

 都内にいくつも土地を持っている平原家を敵に回して東京で生きていけるはずがない。

 さらに戸瀬不動産も一枚噛んでいるとなれば、下手をしたら日本に居場所がなくなってしまう。


『平原家を敵に回してはいけない』

 金を持っていれば持っているほどこの言葉の重みが強くなってくるのだ。

 そして神岐にその重みが押しかかろうとしている。

 奏音は身近でその重厚感を知っているので、神岐が心配なのだ。



「大丈夫ですよ。「私がお慕いする殿方です」と言えば家の者は何も言いません」

「全部ダメよ!一般家庭でも大学生の娘に彼氏が出来たら心中穏やかじゃいられなくなるのに、暁美の家ならもっと面倒なことになるわ」

「もう…奏音は何を言ってるんですの?私と義晴様はまだお付き合いしていないのですよ?」

「あー、もう分かってない………ん?てか"まだ"って、暁美まさか……!?」



「……はい、義晴様のことを好きになってしまいました」

 男の知り合いがいない女の子に初めて出来た異性の友達。

 お酒が絡んだ席で数時間語り合う。それに相手は顔立ちも整っていて合コンという場においては同じような境遇だった……。

 意識しない方がおかしいとさえ思える条件の数々だが、こうも簡単に堕ちるとは思わなかった。

 こうなってしまったら暁美自身もだが、平原家が絡んで絶対ややこしいことになる。きっかけが合コンと知られればそこに連れて行った奏音も巻き込まれることになる。

 神岐は何も悪いことをしていないのがより面倒に拍車を掛けている。


(連絡先を交換したのは正解だったわ。神岐、頑張りなさいよ。私も出来る限りサポートするわ)

 むしろ神岐で良かった。これで悪い男に惚れてしまっていたらその男は間違いなく基礎工事の生コンの下に永住することになっていただろう。



「……そうだ、奏音」

「…何よ?」


「もしも義晴様にちょっかいをお出しになったら……」


 …………ゴクリ

 異様さが覗き込んだ空気に奏音が唾を飲み込んだ。



「分かっておりますよね?」

 冷たい目で奏音に牽制を仕掛けた。

 昔から自分で決めたことは突っ走る傾向があった。それが恋愛になると季節外れの冷たく渇いた空気を放出できるようだ。


「大丈夫よ。今彼氏を作る気はないし人のモノを取る気はないわ。他から取るのは入札と利権だけよ」


「…そうですか。良かったです」

 暁美は安心したのか冷気を引っ込めて朗らかな表情に戻った。

「では私達も帰りましょう。家の者に外にいるのを見られたら大変なことになりますわ」

(既に大変なことに腰まで浸かってるってことに気付いてないわね)

 暁美にとっては初恋。奏音にも経験がないことなのでどう転ぶか予想がつかない。

 さっきの様子と暁美の性格からして暴走するのは間違いない。行き過ぎればストーカーになってしまいそうなタイプだ。


(神岐、頑張りなさい。私は陰から見守ってるわ)

 奏音、早々に宣言を撤回。



「……どうしましょうか?今からご挨拶した方がよろしいのでしょうか?」

「…せめて家に帰ってからにしなさいよ。神岐、忙しいみたいだしすぐにメッセージ送るのは相手に圧をかける事になるわ」

「時間を考慮しないといけないのですね……。義晴様とどういうお話をしましょうか……」

「それも電車の中で考えましょう。ほら、まずは地下鉄乗るわよ」


 恋愛初心者の舵取りをしながら帰路に着く奏音なのであった———



 ♢♢♢



 ———神岐義晴宅


「…あぁ〜、疲れた」

 ここは神岐が一人暮らしをしているマンションである。

 風呂トイレ別、セキュリティーもしっかりしていてとても大学生の一人暮らしの物件ではない。

 家賃は好条件に相応しい値段でアルバイトをしていない神岐には手痛い出費だが、何とか収支がマイナスにならない程度には生活出来ている。


 そしてこのマンションの1番の魅力は、()()()()である。

 部屋から出た音が隣の部屋に聞こえることはまずなく、逆も然りで外の音が入ってくることもない。

 すぐそばが大通りが面しているが、車の音は全く聞こえない。


 神岐はバッグや羽織っていた物をソファーに投げるとそのままベッドインしようとしたが………



「……あぁ、22時半からやるんだった」

 ベッドにダイブする直前の体勢でピタリと止まると、Uターンしてデスクに向かい、パソコンの電源を入れた。

 ツイスターを開いて『もうすぐ始めます』とツイートする。

 そのツイートでたちまちいいねが3桁を超えた。


 そして立ち上がったパソコンを操作してユーツーブのサイトを開いてダッシュボード画面を開いた。



 そして22時半を数分過ぎた頃、とある男のチャンネルの生配信が始まった。













「はい、どうも〜comcomでーす。開始が遅れてごめんね〜。今日も張り切って行くぞ〜っと~」









 神岐義晴。その正体は動画投稿者『comcom』である。

 防音のマンションに住んでいるのは周囲の音を遮断して邪魔が入らないようにと近所迷惑にならないようにするため。

 アルバイトをしていないのは動画だけで生活できる程の収入を得ているから。

 一人暮らししているのは親が邪魔だから。



 comcomが神岐であることを知る者は彼の()()だけだ。大学で親交のある奈良星さえもその正体は知らない。



 だが待って欲しい。綾ノ森でも知名度があったのに誰も気付かなかった。

 配信を見ていて普段の神岐の声を聞いている奈良星までもが気付くことはなかった。

 何故合コンでcomcomの話が出た時に正体がバレなかったのだろうか?








 そう、神岐義晴は超能力者である。


 神原奈津緒と同じく10年前に白衣の男によって超能力を与えられた。

 10年前の神岐は10歳。神原同様に当時の記憶はすっぽりと抜け落ちているが、覚えていることがあった。


 あの時あの場所に、白衣の男を除いて3()()いたということだ。

 自分以外に2人、同じように超能力者にされた者がいる。

 それだけを神岐は覚えていた。


 神岐の能力は謂わば精神系になるのだが、精神系の頂点とも言える性能を誇っている。

 他の超能力の事例を神岐は知らないが、自分以上の能力者はいないだろうと自負していた。

 comcomの正体がバレなかったのも、超能力を使ってバレないようにしていたからだ。


 神岐は神原と違って白衣の男への復讐は考えていない。

 むしろ超能力によってcomcomとして活動が円滑に進められている事に感謝すらしている。

 感謝こそすれど、何故この力を自分に与えたのかは知りたい。

 自分でなければならない理由は?他の2人との共通点は何なのか?と。


 他の2人は今どこで何をしているのか?あの場にいたのだから、自分と同じ超能力者になっているのは間違いない。

 何者なのか?自分の超能力に匹敵する力を有しているのか。可能なら1番上でありたい。


 知りたい。そして負けたくない。そんな二つの感情が10年経って最高潮に達した。

 そして、ようやく行動に移す事にした。

 2人を知るために、そして2人に勝つために思い切り超能力を使う動画を作る予定だ。

 この動画に2人が気付いてくれるか分からないが、伝われば向こうから何かしらのアプローチをしてくるに違いない。

 超能力を与えた白衣の男にも伝わるかもしれないが、10年も放置しておいて今更何かしてくることもないだろうと神岐は考えた。

(それに…白衣の男が仕掛けてきたとしても…俺の能力の前じゃ何も出来ないだろう)

 絶対の自信、自画自賛できる程の能力だ。



「あーそういえば、今俺ちょっと()()()()()()()の準備をしててさ〜、近々撮影して投稿するから待っててな———」



 ♢♢♢



 明日も大学があるので1時間に満たない程度で配信を終了した。

 ドタキャンしてしまったベッドダイビングをして、少し酔いを覚ます。

 お酒が入っていたせいで雑談で上手く呂律が回っていたか怪しい。失言や個人情報に関することを口走っていないか後でアーカイブを見返す必要がありそうだ。


「…そういえば、配信中にメッセージ来てたな」

 配信している最中だったので既読にもしなかったが、一瞬スマホのバナーに表示されていたので認識はしていた。

 メッセージは3件。

 奈良星からは合コンに参加してくれたことを感謝するメッセージだった。

『もう合コンなんて誘うなよ』と返しつつ、残り2件のメッセージも一目通す。

 残りの2件は暁美と奏音からだった。



『戸瀬です。今日はありがとうございました』

 話し言葉はお嬢様の対義語だったが、書き言葉は身分相応のようで、ギャップを感じさせる書きっぷりだった。

『こちらこそ楽しかった。また機会があれば3人で遊ぼう』

 奏音に社交辞令を返し、次は暁美のメッセージを確認する。


『義晴様、平原です。本日はありがとうございました。また義晴様とお食事がしたいです』

「…様ってねぇ……。ラインでもそういう感じかい」

 純お嬢様から"様"呼びされるのは擽ったいし違和感が強すぎる。

『こちらこそ楽しかったよ。また機会があれば行きましょう』

 奏音の文体の使い回しにはなっているが、社交辞令を返した。



 ラインの返信をして、昼に買った唐揚げをレンジで温める。冷蔵庫からコンビニで買ったビールを取り出してパソコンの前に並べていく。

 アーカイブを見返しながらの晩酌だ。

 左のモニターで配信映像を流しつつ、右のモニターには、先週の講義で出された課題について書かれたPDF資料を表示させる。ポータルサイトからダウンロードしたものだ。

 英語の課題で、資料を読んでそれについての意見感想を英語で書くといったものだ。

 翻訳サイトで一気に書かせたいところだが、昔よりは改善しても翻訳の精度が甘いせいで教授にすぐ見抜かれてしまう。

 単位にも影響してしまうので真面目に書かなければならないのだ。



 晩酌して配信を見ながら英語の課題を解く。

 ここだけ見ればクリエイティブな学生だ。

 とても超能力を持っているようには思えない。


 1()()()()()()()()()()()()()。自室の中では彼はただの大学生でいられるのだった…。

第2章開幕

神原が最弱の超能力者なら、神岐は最強の超能力者です

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