仙人、また『滅び』と相対する、ペースが狂わされる
「先生、やったじゃないですか!!」
森の中でマルテナとスカーの戦いの一部始終を見ていた野盗が、スカーへ駆け寄った。
「この調子であいつらも殺っちゃって下さいよ………でも、女たちは殺さないで生け捕って………」
野盗はスカーを見て怪訝な表情をする。スカーは血まみれで倒れているマルテナを横目に深々と溜め息をついていた。
「先生、どうしたんですか? 何か不満げな様ですが?」
「ああ、わかるか。今の勝負、納得いかなくってな」
「敵同士だった相手に勝つ事が出来た。これのどこに納得がいかないってんですかい?」
「正直、勝負は俺の負けだった。勝てたのは武器の差、この大剣が勝敗を分けたんだ。実力で勝ちたかったんだが、それ以外のもので勝敗が決まったのが悔しくてな………」
その時だった。将人たちがマルテナのもとに駆け寄り、惨状を見てスカーに怒りの目を向ける。
「よくもマルテナ様を!!!」
将人が『形意拳』独特の歩法でスカートの距離を縮め、攻撃を加えようとする。
「動くな!」
スカーはマルテナの首に大剣の刀身を向ける。それで将人は動けなくなる。
「白騎士じゃなくてマルテナか。とりあえず、こいつはまだ生きている。もし、こちらに攻撃をしようとするならこいつは今すぐ殺す!!」
スカーは鬼気迫るという感じではなく、世間話をするような気安さで物騒な事を言う。だからこれが本気かどうか判断に迷う。
「その人は殺さない方がいいよ」
そういったのはファテマだった。
「その人はこの国の王女様だよ。もし殺したりすればこの国に入れなくなる。それどころが普通の死に方は出来なるなるよ」
「ちょっと、ファテマさん、どうしてそんな事、バラすんですか!?」
将人は思わずファテマの襟首を掴む。ファテマは動揺せず将人を見据える。
「マルテナ様を助ける為だよ。それが出来ればこっちにもチャンスがある」
「お前ら、適当な事言うな。こいつがこの国の王女様の筈がないだろうが!」
野盗が胡乱な目で将人たちを見た。
「だったらこの国の王女様の名前を言ってごらんよ」
「この国の王女っつったら確か、マルテ……ナ………え!?」
将人たちは一様にうなずく。
「先生、ヤバいかもですよ。こいつ、イヤ、この人この国の王女様だ!!」
野盗が悲鳴に近い声を上げる。
「だったらおかしいだろう。こいつは別の国の戦争で傭兵として参加してたんだぞ?」
「王女様が隣国に留学した年に戦争が起こったんですよ!!」
野盗の話にスカーは考え込む。
「ああ、そういう事か。一国の要人が変装して戦争に参加するとは………バカだろ、コイツ」
スカーは呆れ顔でマルテナを指差す。意識がないはずのマルテナが一瞬ムッとしたような気がした。
「よし、決めたぞ。そっちに治癒魔法が使える魔法使い、数人いるな。そいつらで王女様の治療をしろ」
スカーはマルテナの首元から刀身を離し一歩下がる。マサリア、エミリア、ファテマが倒れているマルテナの両脇に座り、呪文を唱え杖を傾ける。淡い光がマルテナを包むが一向に傷が塞がらない。
「治癒魔法が効かない!?」
「そんなどうして!?」
マサリアとファテマが驚愕の声を上げる。
「アンタ、スカーさんだったか。あんた一体何をした!?」
将人がスカーを睨みつけるが、スカーはどこ吹く風といった感じた。
「何をしたって、この剣で切っただけだが」
スカーが将人の前に大剣を掲げる。将人は大剣のを穴が開くぐらい凝視する。すると大剣の黒い刀身から黒い靄の様なものが吹き出し、将人を包み始める。突然の事で対処が出来ない。体から力が抜けていく。
「ヤメロッ!!」
スカーが大剣に向かって叫ぶ。その途端、大剣から黒い靄の流出が止まる。大剣に黒い靄が吸収され、将人の周りの黒い靄も吸収される。
「………スカーさん、アンタその大剣、誰にもらった」
「こいつは仮面を被ったローブの男からもらったんだが、これが面白い剣でな。意識の様なものがあって常に俺を支配しようとしている。この剣の意識は坊主を敵とみなして攻撃しようとしたようだな。お前、今何をしようとした?」
「その剣が何なのか見極めようとしたが間違いない。その剣は『滅び』の力が込められている。アンタ、悪い事は言わない、その剣手放せ」
「俺に屈服されるか、剣に支配されるか、そんな勝負も面白いというもんだ」
あっけらかんと言い切るスカーという男に将人は呆れた。人生戦いだと思うが、人としては異質な、異様な戦いをすることはないだろうと考えるとスカーという男には呆れる事しか出来ない。
「今からその剣が俺を敵と見なした原因を見せてやる」
将人は『丹田』に意識を集中して『氣』を生成する。そして『氣』を体内で循環させる。生成した『氣』が体の外に漏れ始める。その『氣』をマルテナの傷口に当てる。傷口から黒い靄が浮かび上がり、熱した鉄板に水滴を落としたようなジュッという音と共に消える。将人はそれを確認し、『氣』の生成を止める。
「これで治癒魔法が効くはずだ。マサリア、後は頼む」
将人はマルテナから離れる。
「分かったわ、任せて。エミ、ファテマさんやりましょう」
エミリアとファテマが頷き、再び呪文を唱え、杖をマルテナに向ける。今度は治癒魔法が効果を表し、傷が塞がっていく。その光景を見て安心している将人にスカーが声をかける。
「坊主、お前大したもんだな。この剣がお前を敵と見なす訳だ。魔力とは明らかに違うその力はなんだ?」
「それを教えなければならない筋合いはないと思うけど」
「つれないね、まあいいけどな」
スカーがマルテナの治療具合をマサリアに聞く。
「嬢ちゃん、王女様の具合はどうだ?」
スカーの無神経な言い方にマサリアは怒鳴りつける。
「アンタがマルテナ様を重傷にしたんでしょうが!! 傷は塞いだけど血が流れすぎてるからしばらくは動けないわよ!!」
「そうか、動けないのか………それは都合がいい」
スカーが大剣を背中に戻す。
「それはどういう―――」
マサリアは最後まで言う事が出来なかった。いきなりスカーがマサリアを蹴り飛ばしたからだ。隣のエミリアも蹴りの威力を殺しきれず、マサリアともども吹っ飛ばされる。スカーはファテマを切りつけるが本気ではないため、ファテマは後方へ逃れる事が出来た。
「スカー、アンタ何のつもりだ!?」
「こうするつもりだ」
スカーが意識を失っているマルテナを持ち上げ、肩に担ぐ。
「先生、アンタ何やってんだ!?」
スカーに詰め寄る野盗に当身を食らわせ気絶させ肩に担ぐ。スカーのいきなりの行動な将人たちは混乱する。
「アンタ、何がやりたいんだ!?」
「何って………誘拐かな?」
「誘拐って………」
「国を相手取って身代金要求する。そういう訳でアバヨッ!!」
スカーが身体強化の魔法で跳躍力を強化して、将人たちの頭上を飛び越え、逃走する。
「逃がさないよ!」
「姫様を返せ!」
パウラとアベルトも身体強化の魔法を行い、スカーの後を追う。それを見送った将人は溜め息をついた。今まで相対した事のないタイプにペースを狂わせられっぱなしだった。そんな相手とどう戦うかと考えるとそれだけで、頭が痛かった。




