仙人VS野盗、聖剣VS傷跡
マルテナの馬車からバリケードなってる馬車、その背後にいる野盗との距離は約二十メートル。将人たちは野盗がいる馬車に向かって一直線に走る。全身鎧で身を固めたパウラが先行して走り、その後ろにアベルト、そして将人が走る。将人たちの動きが早い為、魔法が間に合わない。馬車の陰から弓矢でパウラを足止めしようとするが、鎧を貫く事が出来ない。身体強化の魔法で動体視力の強化もしているアベルドは、長剣で矢を叩き落とす。将人はそれなりに動体視力が高いが、飛んで来る矢を叩き落とすもしくは掴むような度胸はない。アベルドの後ろに入り、矢を避ける。
「イックヨー!!」
馬車の前でパウラが足に力を為、跳躍した。馬車の高さは約二メートル、幅は一メートル五十弱、荷台席は幌で覆われている、障害物となった馬車の上をパウラは飛び越えた。二、三十キロはあろうかという鎧を身に纏い、大剣を持ちながら二メートルもある馬車を飛び越えらえるのだから身体強化の魔法の恩恵は凄まじいの一言だ。
「ハッ!」
ついでアベルトも跳躍する。アベルドもパウラ程ではないにしろ厚革の胸当、草摺、腕当て装備の上、愛用の長剣とゼロ鉄製の長剣二本を装備、動きにくいはずなのに、それを物ともしないのだからやはり、身体魔法は凄い。将人はそんな跳躍力はなく、馬車の下を匍匐前進する。既にパウラとアベルドが戦闘を行っている為、将人は野盗に気付かれず背後に回る事が出来た。
パウラとアベルドの周りを十二人程の野盗が囲んでいる。囲いの外に五名ほど人が倒れている。先行して倒した野盗だろう。
「たった二人で乗り込んでくなんて馬鹿な野郎だ」
包囲をしたことで調子に乗った野盗の一人が嘲るような笑みを浮かべる。
「パウラはヤロウじゃないよ!!」
「一人は女か? 鎧で身を固めたゴリラ女でも需要はある。そっちの男は………男娼として売れるな。向こうにも上玉の女もいる。身ぐるみ剥いで、味見をした後でお前ら全員奴隷商人に売っぱらってやる。覚悟しな!!」
「それは無理だと思いますよ」
将人は気配を消して野盗の背後に回り左手で肩を叩く。野盗が振り向くと同時に右腰に添えられた右拳が半円をを描いて野盗の顔面に叩きこまれる。「グペッ」という悲鳴と同時に横へ吹っ飛び、動かなくなる。五行拳の一つ『横拳』だった。
「お兄ちゃん!」
「マサト殿!」
「二人とも、待たせたな。早くこいつら倒して逆に身ぐるみ剥いでやろうぜ!!」
「お兄ちゃん………」
「それでは私たちが野盗ですよ………」
パウラとアベルドにドン引きされ、将人は慌てる。
「いいからこいつら全員倒すよ!!」
将人は大声でごまかし、左隣の野盗に『崩拳』を叩きこみ、野盗を倒す。それを合図に乱戦となった。
「将人たちもなかなかやるのう」
戦闘が始まってからすぐにマルテナは近くの木の上に登った。人が乗っても大丈夫そうな枝の上に立ち、双眼鏡で将人たちの戦いを観戦していた。
「マサトはもちろんじゃが、パウラもアベルドも強いのう。これなら数分で終わりそうじゃ。人数的には野盗の方が多いのに戦いになっとらん。もう少し鍛えてから襲わんか………こいつらバカじゃ」
マルテナが欠伸交じりに双眼鏡を覗くと、野党の一人が森の中に逃げていく。
「アヤツはどこに行ったのじゃ?」
そうこうしているうちに戦いが終わった。
「あまり面白くなかったのじゃ、金返せ!」
そんなヤジを飛ばしながら木から降りようとした時、森の奥に逃げた野盗が誰かを連れて戻ってきた。
「まだ、戦おうというのか?」
マルテナが双眼鏡で野盗ともう一人の容姿を見て、驚愕する。
「アヤツは!?」
マルテナは木から飛び降りると、自分の馬車に走った。
「何なんだ、こいつら、強すぎる!?」
野盗は情けない声をあげ、将人たちを見る。倍以上の人数がいたのに僅か三人の相手に倒されてしまったのだ。悲鳴の一つも上げたくなる。野盗は後じさり、森の中に逃げ込んだ。アベルトが追おうとしたが、将人が止める。
「それより、道を塞いでる馬車をどけよう」
パウラとアベルドが頷き、馬車を移動させようとパウラとアベルトが馬車に手をかけるが、動かせなかった。
「君ら一体何やってんの? 馬出ないと馬車動かせないだろう?」
「でも身体強化してれば動かせますよ」
アベルトの言葉にパウラも頷く。
「どんだけ凄いんだよ、身体強化………」
驚いてる将人を尻目に、アベルドが馬車の中を調べると、土砂が詰められた袋が何十個とあった。それを幾らかどかせば動かせるという事で、土砂袋をどかす事になった。
「パウラ殿と一緒に土砂袋をどかしてるので、マサト殿はマサリア殿たちを呼んできて下さい」
「ああ、分かった」
将人が馬車の下に潜ろうとした時だった。
「オイ、お前ら!」
声の主を見ると先程森の中に逃げた野盗だった。
「手前ら、さっきはよくもやってくれたな。仲間の仇は打たせてもらうぜ! 先生、お願いします!!」
森の中から出てきたのは黒髪の短髪、碧眼で目鼻立ちの整った美丈夫だった。顔の右上から左下にかけて傷跡があるのが特徴的だった。身長は約百九十センチ、均整の取れた体格で真っ黒なスケイル・アーマーに革のマント、背中に大剣を担いでいた。この大剣の刀身が真っ黒で不吉な感じがした。
「今度こそ強いやつなんだろうな。もし、また弱いやつだったら今度こそ、この野盗団から抜けさせてもらうぞ!」
「大丈夫ですよ、先生。今度の奴は先生の期待に応えられると思います」
「ほんとかよ。相手が強いんじゃなくて、お前らが弱いだけじゃ………」
黒ずくめの男は、うんざりした口調で将人たちを見てニヤリと笑った。
「強いのが、三人………その中でも一番強いのは、お前だろう」
黒づくめの男は将人を指差した。更に将人をジロジロと見る。
「徒手空拳で戦うタイプか? そういうやつは珍しいがそれを可能にしている………面白い! お前、俺と戦え!」
黒ずくめの男が背中の大剣を抜き、構える。その瞬間、将人の頭の中で今までにない最大の危険警報が鳴った。将人はすかさす『三体式』の構えを取る。その時であった。
「お前の相手をするのは………このワシじゃあ!!」
マサトと黒ずくめの男の中間地点に何者かが着地した。そこにいるのは、白銀のハーフプレートアーマーに身を固めたマルテナだった。腰の長剣を抜き、切っ先を黒ずくめの男に向ける。
「久しいののう、傷跡よ」
黒ずくめの男―――スカーは自分の事を言い当てられ驚いた。スカーはマルテナをマジマジと見つめる。
「俺の事を知っているだと………お前は………誰だ?」
マルテナはずっこけた。




