閑話 仙人VSダニエル、盾の新たな能力
マサトとマサリア、エミリアは朝、冒険者ギルドが開くと同時に入店し依頼掲示板の前に来ていた。
「治癒魔法があるのにどうして薬草採取の依頼が上がってくるんだ?」
将人は冒険者ギルドの掲示板に張り付けられた依頼書を取り上げながらマサリアに問う。
「マサト、それ本気で言ってる?」
マサリアが呆れ顔で将人を睨む。
(俺変な事言ったのか?)
エミリアをちらりと見ると心得たと言う様に説明を始める。
「マサト様、治癒魔法というのは怪我や解毒などの魔法を指します。ですが病気を治す治癒魔法というのは実は存在していません。ですから病気に関しては薬草が必要となります」
「フウン、ナルホドねえ………冒険者に依頼に出すより薬草園みたいのを国で作って定期的に採取できるようにした方がいいと思うけど………」
「実際に薬草園はあって、そこで作られているらしいけど自然のものに比べて薬効が低くて使い物にならないらしいの。ラシェントの街から近い森は比較的安全だけど、別の地方に行けばモンスターが出てくるし、薬草採取はやっぱり冒険者の仕事になるのよ」
「へえ、リアは物知りだな。スゴい、スゴい」
将人は知識だけではなく人を褒める語彙も少なかった。
「もっと褒めていいわよ、マサト」
マサリアは胸を張って顔を上にあげ高笑いする。すごく嬉しそうだった。
「リアお嬢さま、受付で依頼を受けることを伝えて早く森に向かいましょう」
「そうね、マサト、早く行きましょう!」
将人はマサリアに受付カウンターへ引っ張られる。マサリアの嬉しそうな表情を見て前日一緒に依頼を受けようと誘ってよかったと思った。ちなみにファテマとパウラは別の依頼を受け今はラシェントの街を離れている。『滅び』の件を離れれば下級冒険者三級と二級、クラスが離れている為受けられる依頼が違ってくる。一緒に依頼を受けられないのはしょうがない事である。
薬草採取の依頼を受ける事が受理され、南門へと向かう。南門の前はラシェントの街から出国あるいは入国しようとしている商人や荷物を運ぶための馬車、旅人、冒険者などでごった返していた。街を出るのは比較的自由だが入国する際は違法薬物や違法な金品を持ち込んでいないか検査がある為、人や馬車で並ぶのである。
「相変わらず人が多いな………」
将人は人というか種族の多さにぼやく。黒人、白人、髪や瞳の色も多種多様でカラフルで人の流れを見ていると目がチカチカしてくる。
「マサト、何ボウッとしてるの。早く行こうよ」
「ああ、ゴメン、リア。人の多さに驚いてしまってな」
「マサトってこういう人が多いのは珍しいの………そういえばマサトってどこ出身なの? 将人みたいな風貌の人ってこっちじゃ珍しいし………」
「今更かい………そういえば話した事なかったか? いい機会だし道中話そうか」
「ウン、教えて!!」
「マサト様、私も気になります!!」
興味津々という感じで目を輝かせるマサリアとエミリアに少し引き気味の将人。
(リアはともかくエミさんが食いつくのは珍しいな)
将人が二人を宥めながららふと視線をずらす。その視線の先に見知った顔を見つける。
(あの男は確か………ダニエルだったか?)
将人の視線の先にはシゲルイに作らせた装備一式の料金を踏み倒そうとした男ダニエルがいた。そのダニエルの様子がおかしかった。その顔には何の感情も浮かんでいなかった。最初見た時は軽薄そうな人を馬鹿にした笑みが浮かべていたがこうも無表情だと同一人物とは思えなかった。同じ顔の別人かもと考えたがぶつぶつと呟いている言葉を聞いて同一人物だと分かる。
「マサト…クサカベ…マサト…クサカベ…マサト…クサカベ………」
ダニエルは怒気も殺気も籠っていないガラス玉のような目で将人を見つめる。将人はこの目が嵐の前の静けさ、津波が来る前の引き潮のように感じられゾッとする。将人は思わず大声で叫んでいた。
「みんな、逃げろ!!」
将人の叫び声と同時にダニエルの体から黒い靄の様なものが放出された。マサトはもちろんマサリアとエミリアも見覚えがあるものだった。
「『滅び』に憑りつかれてるだと、どこで憑りつかれた!?」
ダニエルから放出された『滅び』の力で起こされた突風に将人たちも周りの人たちも踏ん張る事が出来ず転倒する。この騒ぎに門の外で入国検査をしていた衛兵が出てくる。ダニエルの尋常ではない雰囲気に危険を感じ、地の魔法で幾重もの鎖を作りダニエルの捕縛を試みるが『滅び』の力に打ち消される。ダニエルの体から出される『滅び』の触手が衛兵を絡みつき締め付ける。その『滅び』の触手を白い光が打ち破る。将人が盾から『氣』を放出して『滅び』の触手を打ち消したのだ。
「衛兵の人、早く逃げて!! 他の人たちも避難させてくれ」
「アンタはどうするんだ!!」
衛兵の一人が叫ぶ。
「こいつの狙いは俺です。だから俺がこいつを引き付けてるんでその間に避難を!!」
「分かった、アンタも気をつけろ。そいつは尋常じゃない!!」
衛兵が周囲の人たちの避難誘導を開始する。将人は避難が終わるまで自分に注意を引き詰める為『氣』をやや強めに放出する。ダニエルは『滅び』の触手を幾重にも束ね盾を作り『氣』を防御、更に後方で『滅び』の力を束ね円錐状の槍を形成し、将人に向け射出した。『滅び』の槍は『氣』に打ち消されながらも進んいき、盾に衝突する。その衝撃に将人は吹き飛ばされる。受け身を取っている為、特に怪我はないが衝撃により手が痺れ頭も眩む。回復までに時間がかかりそうだがそういってる場合ではなかった。
マサリアとエミリアは転倒した時に頭を打ったのか気を失っている。そしてその二人の目の前にダニエルが立っていた。将人は『氣』を放出する為に盾をダニエルに向けようとして手に持っていない事に気が付いた。『滅び』の槍を防御した際、盾を手放してしまったのだ。盾を探す時間はない、ダニエルに向かって走る。ダニエルが『滅び』の触手の先端を鋭く尖らせマサリアとエミリアを突いた。
「ヤメロォォォ!!」
将人は走りながら叫ぶ。ダニエルは将人の叫びを聞いた時、口元を僅かに歪ませた。醜く笑ったのだ。マサリアとエミリアが『滅び』の槍に貫かれた最悪の状況が頭の中を支配する。絶望に支配されその場で立ち止まってしまう。だが、その通りにはならなかった。ダニエルとマサリア、エミリアの間の空間に円形の物体が浮かんでいた。円形のものは白い光を放ち『滅び』を打ち消し本体のダニエルも攻撃する。ダニエルはその白い光に苦痛の表情を浮かべ後方に下がった。将人はマサリアとエミリアを助けてくれた物体を見てかすれた声で呟く。
「おれの……盾」
二人を救ったのは将人の盾だった。盾は将人から独立して動いただけではなく『氣』を放ってダニエルを後退させたのである。今も二人を守るように浮遊を続けていた。将人は盾の前に駆け寄る。
「いつか動き出しそうなそんな感じがしていたが本当に動いたよ。いくら異世界とはいえ常識から外れていないか………まあいい、盾よこのままリアとエミさんを守ってくれ。俺はダニエルを倒す!!」
盾は一回前斜めに傾いた。どうやら頷いたようである。後ろは守られている、そう思うと安心して前方に集中する事が出来る。将人はリラックスした状態で『三体式』の構えを取る。
「よくも仲間に手を出してくれたな。これは倍返しじゃ済まさんぞ、覚悟しろ!!」




