仙人、形意拳について語る。今後の身の振り方を考えてみる
出された食事は言うなればポトフであった。具はキャベツ、ニンジン、ジャガイモらしきもの、何かの肉のぶつ切りをハーブで味付けされている。野菜はじっくり煮込まれている為柔らかく、肉は噛むと旨味がしみだしてきて飲み込むのがもったいなくなる。胃にとても染み渡る、食べる事が出来れば何があっても生きていける、希望が湧き出てくる食事であった。
ポトフを2杯もお替りして満腹になるとその場に汚れるのも構わず横になる。日はすでに落ち、辺りは闇に満ちている。満天の星空はきれいで見ごたえがあるが、月はなく、焚火による明かりがなければ自分の手元さえ見えない程の暗闇となるだろう。将人のいた世界では科学の光が自然の闇から守ってくれていたのだと思わずにはいられなかった。
「マサト、忘れてない?」
寝っ転がっている将人の頭上でマサリアが仁王立ちで言う。
「何が?」
「マサトが野盗と戦った時の体術教えてくれる約束でしょ。実演で教えるって言ったの忘れてない?」
「そうだった、ゴメンゴメン」
マサトは体を起こし、背伸び、肩、首を回して眠気を吹き飛ばし説明を始める。マサリアは将人の右側に、いつの間にか来たエミリアはマサリアの遁りに座り将人の説明を傾聴する。
「まず、俺が使っていた体術は『形意拳』という。太極拳、八卦掌とともに内家拳の代表格とされる中国武術でこの三つの武術は『道教』と呼ばれる宗教の思想の哲学を理論的背景として体系化された武術なんだよ」
「チュウゴクブジュツ? タイキョクケン? ハッケショウ? ナイカケン? ドウキョウ?」
聞いた事がない単語が連発していてマサリアは混乱しているようだが「別に覚えなくてもいいから、そんなものかぐらいで聞いてくれればいいから」と笑いながら将人。
「話を続けるよ。形意拳は『道教』の『陰陽五行説』の思想を哲学を理論的背景として体系化された武術で、基本とされる『五行拳』と『十二形拳』で構成されてる。魔法でも五行とか四大元素はあるんじゃないの、地水火風とか?」
それにエミリアが答える。
「はい、魔法では地水火風の自然の精霊に働きかけて魔法をかける事が出来ます。私は土の魔術を使う事が出来ます。お見せしましょうか?」
「見せて! 見せて!」
興味津々、鼻息荒くしている将人に微笑みながら目を閉じる。
「では………フェいワxxx」
意味不明の言葉を言い出すエミリア。
将人はこれがこの世界の魔法言語であるのだと推測する。まるで歌を歌っているようにも見える。そして術が発動する。エミリアの前の地面が盛り上がり一メートルぐらいの高さで固まって止まった。
「こんな感じです」
「魔法が使えるのに何で野盗には使わなかったの? 魔法使えば俺必要なかったよね」
無意識に責めるような口調になった将人
「チョ、マサト!!」
「いいんです、リアお嬢さま………」
悲しげに言うエミリアをかばうようにマサリアがどうして魔法を使わなかったのかを説明する。
魔法は強力な力で攻撃魔法一つ使えるだけで戦況がひっくり返す事が出来る。それ故に戦闘が起こった場合まず最初に魔法使いを撃退あるいは魔法を封じる事が第一に行われる。今回の場合、野盗が魔法封じの魔術道具を最初に使用し魔法を封じてき為、対処に遅れてしまい捕らえられてしまったのだ。
「分かった、分かったらエミリアに謝って!!」
「すみませんでした!!! エミリアさん」
その場で土下座する将人。
「いいんです、気にしていませんから」
「謝れと言ったけどそこまでしろとは言ってないわよ………」
気まずい空気になってしまい、沈黙が続く。将人は空気を換える為ぽつりとつぶやく。
「ところでどこまで話したっけ」と将人
同じく空気を換えたかったマサリアが先ほどの会話を思い出しながら答える
「ええと………確か『五行拳』とか『十二形拳』とか言ってなかった?」
「そうそうそこからだった。そこから続けようか。『五行拳』の五行は五大元素を表していて火、木、土、金、水の五行を表している。『形意拳』にはその五行を表す技が存在する」
ここで将人は立ち上がり、左手を前に伸ばし右手を下腹部へもっていく。左足を前に右足を後ろに置く
「これが『三体式』の構え、『形意拳』はまずこの構えから始まる。そしてこれが『劈拳』」
左足で一歩前進、同時に左手を拳にし捻じり込むようにして上に突く。その際右手左ひじに添える。次に右足を一歩踏み出し、同時に左手を下腹部へ持っていく、右手を打ち下ろす。
「これが『鑽拳』」
『三体式』の構えを取り右足を左足に揃え、同時に両手を拳にしへその下に揃える。右足を踏み込むと同時
右手を捩じり込むようにして打ち上げる。
「これが『崩券』」
『三体式』の構えを取り右足を左足の後方の位置に踏み込み右拳で突き、左手を拳にし左拳に置く。左足を一歩踏み込み同時に左拳で突き、右拳は右腰に置く。
「これが『炮拳』」
『三体式』の構えを取り右足を左足に揃え両拳を左腰に引き寄せる。右足を一歩進め両拳下から突き上げるよう突き出し、右拳を頭部右にもっていき左拳で突く。
「これで最後、『横拳』」
『三体式』の構えを取り両手を拳にする。足の位置はそのままに、右拳を左腕の下を通し甲を下に向けつつ前方へ左外へ振り打ち、左拳は腰に置く。右足を一歩踏み出し同時に伸ばした右腕の下に左拳を添え、右腕を沿うように甲を下にして左拳を打ち出す。
「これが『五行拳』、『劈拳』は上から下、『鑽拳』は下から上、『崩券』は前方、『炮拳』は外から内、『横拳』は外から内へといった五つの方向へ拳を打ち出すことを可能としている。それほど難しい技法はないが、しっかり学べば恐ろしい威力を発揮する。ここから更に『十二形拳』の説明すると長くなるから今は割愛するけどどうだった?」
将人は二人に感想を求めるとマサリアはエミリアの膝を枕にすやすやと眠っていた。
「マサトさま、お静かにお願いします」
「人がせっかく実演までして教えたのに寝やがってコンチキショウめ」
イタズラしてやろうかと手を伸ばすがエミリアに睨まれ手を引っ込める。
「まあ、いいか。エミリアさんも眠っといた方がいいんじゃないか。俺起きてるから寝ときな」
「では、交代で休みましょう。すみませんか、リュックから毛布を持ってきてもらえませんか?」
「あいよ」
将人はエミリアが担いでいたリュックから毛布を2枚を取り出しエミリアに手渡す。
「では、すみませんがよろしくお願いします。数時間したら起こして下さい、交代しますので」
エミリアはマサリアと自分に毛布をかけ目を閉じると数分で眠りについた。
将人これからの行動方針について考える。
(右も左もわからない異世界だ。一人で行動するのは非常に危険、とりあえずは二人と行動を共にしてこっちの世界の一般常識を身に着けよう。あと、下級冒険者とやらになっておくのも今後の行動範囲を広げるのにいいだろう。鏡を探すのはそれからだな。どれだけの広さがあるのかわからない世界で人一人探すなんて砂漠に落とした真珠見つけるようなものだし、下手したらこっちに永住か。師匠と姉さん心配してるだろうなあ………何とかせんとなあ)
腕を組んで悩むも答えはでず、考えすぎて頭痛がしてきたので考えるのを止めた。




