仙人、ギルドマスターの見舞い、様々な謎について考える
ラクレール村から戻ってから数日が経った。連戦に次ぐ連戦が祟っているのか体にイマイチ、力が入らず依頼を受けるのも億劫になっていた。それを心配してか同じ宿屋に泊っているマサリアやエミリアはもちろん、ファテマやパウラ、アベルドが何かと尋ねに来てくれ、にぎやかで楽しい時を過ごせた。
(体の不調は徐々に回復しつつある。そろそろ冒険者家業再開しないとな………)
将人が泊まっている部屋の中で柔軟体操をしている時だった。誰かがドアをノックした。辺りはすでに夕闇に包まれており、この時間に人が訪ねるとは珍しい事だった。誰がと思いながらもドアを開ける。そこには精悍な顔立ちの偉丈夫―――ギルドマスター、エドガルド・ハイドが立っていた。
「やあ、マサト君。具合はどうかね?」
「エドガルドさん、どうしてここに?」
「見舞いに来たのだよ。見舞いの品もこの通り」
エドガルドはエール酒の入った瓶と木のカップを渡す。
「もしかしてここで酒盛りでもするつもりですか?」
「お見舞いと言ってるだろう。マサト君、君もエールくらい飲めるだろう?」
「俺の国じゃハタチにならないと酒は飲めない事になってます」
「こっちじゃ関係ない話だ。早いうちに酒の味を覚えといて損はない」
エドガルドが二つの木のカップにエールを継ぎ、カップの一つを将人に持たせる。
(この人来る前から酔ってるんじゃないだろうな………)
カップを重ねクゥッと一気に飲む。
「いける口じゃないか」
「………思ったより飲みやすいお酒ですね」
「じゃあ、もう一杯」
空になったカップにエール酒を継ぎ足すエドガルドを不審げにみる将人。
「今日はどのような用事で来たんですか。見舞いが目的じゃないでしょう………」
「見舞いに来たのは本当だよ。そのついでにラクレール村での事を聞いておこうと思ってね」
「そっちが本音じゃないですか」
「のどを潤しておけば色々話す事が出来るようになるものだよ。気も口も軽くなる。心を豊かにしてくれる妙薬だよ」
「お酒だけじゃ悪酔いすると思いますが」
「そこは抜かりはない。下の食堂で調理を頼んだからじきに来るよ」
「ちゃっかりしてますね」
そんなことを話している時ドアがノックされた。宿の従業員が料理を運んでくれたようだ。料理がテーブルに置かれ従業員が出ていく。その直後、エドガルドが短く呪文を唱える。一瞬耳鳴りがしたがすぐに収まる。
「今、何をしたんですか」
「防音と盗聴防止、危険察知の魔法をかけた。これで声は漏れないしドアの向こうで聞き耳を立ててる者がいたら警告音がなるようになっている。これで安心して話が出来る」
(この人油断ならないな、さすがはギルドマスター。師匠に通じるところがある。合わせてみたいな、きっと気が合う)
「では、飲み食いしながら話そうか」
「といっても報告はファテマさんがしてると思ったんですが」
「ファテマじゃなく君が気付いた事がないか聞きたいんだ」
将人は腕を組んで今までの事を考え、気が付いた事を話してみる。
「ラクレール村に行く前におかしい事が一つありました。『魔』について調べてみたいと考えてこの街の図書館に行ったら、その日のうちに『滅び』について記述されて書物を見つける事が出来ました。その日図書館に行ってみようと思ったのは偶然だし、それなのにすぐに答えが見つかる、そんな偶然あり得ますかね?」
「その事なんだが………マサリア君からの報告でその話が出てたんで人を使ってその書物を回収しようとしたんだが、その書物を見つける事が出来なかった」
「それ本当ですか?」
「そもそも貸し出し不可になってるから一般人が持ち出す事は出来ない」
「となるとどういう事なんでしょうね? もしかして俺、誰かに監視されてるんですかね?」
「なんでそう思う?」
「マサリアたちとの会話を誰かが聞いていてその書物を図書館に突っ込んでおき、その書物を見た事を確認してから回収したとか」
「それは少しおかしいと思うよ。君らの会話を聞いていたとしてどうして君にその書物を見せなければならない。『滅び』の事を知ったとして君ならどうにか出来るとどうして知っている? その監視者は『氣』の事を知っている事になるぞ」
それを聞いて将人はしばらく考え込む。
「………そうですね。俺こっちに来て日が浅いし、知り合いも殆ど居ません。『氣』について知ってる人もいないはずだし………俺を監視しても意味がほとんどありませんね」
将人とエドガルドが顔を突き合わせて考えるが答えがは出なかった。
「この話は終わりとして他にはないかね?」
「あとはラクレール村に行ってからの話ですかね。死産だったユニスを『滅び』の力を使って人とは別の存在として蘇らせたローブの男、ユニスの中で育っていた『神』の存在、色々と謎が多くて参ります。一介の冒険者じゃ対処できませんよ」
溜め息をつく将人に対し、豪快に笑うエドガルド。
「色々な問題が起こるのは君がそれだけの力を持っている証拠だよ。そういう存在はいずれ勇者、英雄と呼ばれる存在になる。羨ましい限りだ」
「だったら丸投げするんでエドガルドさんが英雄になって下さい」
「君の案件だ、君がやりなさい」
将人は軽く睨みながらエール酒をあおる。
「実際どうしましょう」
「しばらくは様子を見るしかない。もし本当に監視者がいるとするなら接触してくるかもしれない。そういう相手が来たら取り合えず話だけでも聞いておけ。一人で何とかしようとは考えず、私かファテマにでも相談するといい」
「頼みます」
「他にはないかい?」
「とりあえずは以上ですかね」
「なら、気難しい話は終わりだ。料理が冷めてしまったがマズいという事はないだろう。食べるとするか?」
「ですね」
将人とエドガルドは貪るように料理を口に運ぶ。ものの数分で料理が空になった。
「体格に似合わず健啖家のようだね」
「食べれる時に食べておけ、出されたものは残さず食えというのが武術と『仙道』の師匠の教えででしてね」
最後に二人でエール酒を飲む。これで食事もエール酒も全部食べつくした。
「さてと、じゃあこれでお開きとしようか」
「ご馳走様でした」
「これぐらいは構わんよ。後忘れずに………」
エドガルドが呪文を唱える。するとパキッと何かが割れる音がした。先ほどかけた防音、盗聴防止、危険察知の魔法を解いたようだ。
「楽しい酒だった、また飲もう」
ほろ酔い加減でエドガルドが部屋を出て行った。将人はベットで横になり独りごちる。
「………色々な謎が解決できてない。これじゃ鏡の奴を探しに行けん。どうすりゃいいねん。俺主役じゃないねん……」
考えているうちに酔いが回りウツラウツラとしてきた。眠気に任せ思考を手放し深い眠りに陥った。翌朝、強烈な頭痛と吐き気に見舞われ、その日一日はトイレの住人になるというオチがついてしまった。




